悪役姫は武器が欲しい。
「メアリー? 鍛冶屋に行きたいのだけれどよろしくて?」
次の日からミリアリアは動き出した。
突然部屋から出て来てそう言ったミリアリアに侍女のメアリーは困惑を浮かべて首を傾げた。
「え? 鍛冶屋ですか? なぜそのようなところに……」
「必要なものがあるからですわ! 何でもいいから今すぐわたくしを連れて行くのです!」
有無を言わせぬこの態度は今ここでは必要なものである。
わけわかんない買い物なのだから、勢いは大切。なに、いつものわがままよりちょっぴり武骨なだけである。
多少の違和感はいつものノリでやれる!
内心冷や汗をかきつつミリアリアが様子をうかがっていると、メアリーは頷いた。
「わ、わかりました……ただいま準備をいたします」
「よろしくってよ!」
よし勝った! よくやったぞわがままなわたくし!
いざ行かん鍛冶場へ! 目的は武器の調達である。
昨日の偶然できちゃった必殺技で方向性は見えた。
馬車を用立て、王都の職人街へやって来たミリアリアはそこで岩のようなごっついおっちゃんと出会った。
「注文お願いしますわ!」
勢い込んで薄暗い店内に突入すると、いかめしい顔つきのドワーフの視線がミリアリアに向けられた。
「なんだ……嬢ちゃん?」
「注文です! 作ってほしいものがあると言っているんですわ!」
店の目星は最初からつけていた。
そしてミリアリアはあったこともないこの店主のことをよく知っている。
作中に置いて、武器の制作を任せることができる店。
店主のドワーフはドワーフの中でも名工と謳われながらも、ちょっとした行き違いで国を追放された経歴を持っている。
そんなドワーフ、確か名前はアーノルドが営む店は作中最も主人公がお世話になる店と言って過言ではなかった。
アーノルドの顔はおっかないけれど、そんなことでミリアリアが怯むことなどない。
このミリアリア、メンタルもまた姫なのだ。伊達に自力で邁進すれば魔王になるわけではなかった。
「お、おう。……それでなんだ……遊びなら他所でやんな」
あら? 注文だと言っているでしょうに。お姫様に向かって何てことを言うのでしょう? 今この場に騎士の一人もいればその首飛んでいましてよ?
でも今だけは許しちゃう。
なぜならミリアリアには今どうしても欲しいものがあるからだ。
「遊びじゃないです! お仕事の依頼ですわ! 作っていただきたいものがありますの! 鉄製の筒なんですけど!」
「筒?」
要件を伝えると、あまりに予想外のセリフにアーノルドの動きが止まる。
「そう! 筒です! 大きさは1mくらいで、出来るだけ丈夫に! とても丈夫に作ってくださいな!」
「な、なんだそりゃ? なんに使うもんなんだ?」
「そりゃあ武器屋に頼むのですから武器ですわ! きっとこの国では貴方にしかできません!」
胸を張り、そう断言するミリアリアに、アーノルドはまんざらでもなさそうだが嫌そうだという、とても器用な表情をしていた。
そして今度は子どもに言い聞かせるように話しかけてくる。
「あのなぁ、嬢ちゃん……武器はダメだろう。子供が持つもんじゃない」
「子供だから必要なんですわ! こんなひ弱な生き物が、そこそこ戦うために武器がいるんです! 腕力も精霊力もノミ並みのわたくしの唯一の突破口なのですわ!」
「お、おう……」
ミリアリアは血走った目で、詰め寄る。
傍らのメアリーも、カウンターのアーノルドも戸惑っていたが、ここは何が何でも引き受けてもらわねば困る。
「そこまで自分を卑下するこたぁないと思うが……俺としては断りてぇな。わけのわからんもんを作って後で不具合が出ても困る」
「ぬぐ……それも一理ありますわね」
たしかに、新しいものを作るのなら実験なりして図面でも用意しないと不安でならないのはよくわかる。
フンスと鼻息を荒くしていたミリアリアは、ひとまずいったん落ち着きを取り戻したが、そのころすでにアーノルドの顔はあきれ顔の極みだった。
無理もない。こっちは年端もいかぬお子様である。
ミリアリアはわかっていると頷き、前もって調達していた竹の筒を取り出した。
「よろしい……お見せしましょう。この店に試し切りの的とかありませんこと?」
「ああ……あるが」
そう言って店主が差した方向にあるボロボロの的人形に、ミリアリアは竹筒を術で浮かべ先端を向ける。
「ファイア」
呟いたとたん、チカッと竹筒の先端が輝いて、猛烈な勢いで石が飛び出した。
石はうなりを上げて的を打ち抜き、ど派手な音を立てて粉砕する。
上半身が弾け飛び、崩れる的にミリアリアもぽかんとしてしまった。
オオッとこれは予想以上の威力。
ちなみに竹筒は内側から破裂してラッパ状に裂けていて、ミリアリアは舌打ちする。
「シット! やっぱり壊れましたか!……失礼。というように……壊れない筒と砕けない弾を探しているんですわ。丈夫さはどうしても必要なんです。適当な物で作ったらわたくしそれこそ死ぬかも知れません……どうしました?」
我ながら実にわかりやすくうまく説明できたと思うのだが、メアリーとアーノルドは腰を抜かしていた。
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