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悪役姫はパーフェクトを目指す。

「実はちょっと先生に見ていただいて、ご意見を窺いたいなと思いまして。わたくし、精霊術の運用法に改善を加えましたの」


「それは……素晴らしい試みですね。いったいどのような?」


 ホイピン先生は、ちょっと警戒していらっしゃる。


 ミリアリアは肩の力を抜いてもらうべく、見た目華やかなところから攻めてみることにした。


「それを今からお見せしますわ!」


 ミリアリアはキャリーバッグの中から15個の鉄球を転移させ、一斉に浮かび上がらせた。


 装飾の施された鉄球は鮮やかで、統制の取れた動きをするとかなり見栄えがした。


「む……」


 が、ズシリと重さのあるそれは15個ともなるとかなりきつい。


 レベルアップして精霊力は増したはずだが、まだ慣れの方が足りないとミリアリアは実感させられた。


「これは精霊術で浮遊させているんですね。15個も物を浮かせられるのは大変素晴らしいです」


「ありがとうございます。しかし鉄球15個ともなるとさすがに自在には難しいですわ。しばらく常に浮かべて慣れる予定です」


「鉄球……これって鉄球なんですね」


「そうですとも。鉄球ですわ。そしてさらに―――」


 続いてミリアリアは闇の精霊術をドレスに纏わせる。


 その名もダークドレスと名付けた術は、ドレスを一瞬で黒く染め上げ飛躍的に防御力を増大させる。


 更にはデザイン変更も思うがままという、大変お得な術だ。


 ホイピン先生も一目目にしただけで目の色が変わっていた。


「こ、これは初めて見る術ですね……どういったものなのですか?」


「服を闇属性のオーラで編み、鎧としていますわ。重さは殆ど感じませんし、物理にも術にも高い防御力を発揮しますのよ」


 自慢の術は、やはり画期的らしい。


 先ほどまで混じっていたホイピン先生の恐れは消え去り、興味津々でミリアリアのドレスを見ていた。


「おお……ミリアリア様はここまで精霊力を操るのですね。しかも属性まで付加するのは聞いたことがありません!」


 興奮しているホイピン先生の反応に気をよくしたミリアリアは気合を入れ直して本番に取り掛かった。


「ですがわたくしの戦闘スタイルの本番はここからですわ!」


「せ、戦闘スタイルですか?」


「そうです。ではお見せしますわね!」


 ミリアリアは最後の仕上げに貰ったばかりの扇を抜いて流れ込んでくる強烈な力の波動に酔いしれた。


 可視化できるんじゃないかと思うほどに扇から迸る力はミリアリアの体をしびれさせる。


 それは新たな主人への挨拶の様で、この武器に命が生まれた様でもあった。


 これが専用装備。ミリアリアの闇扇。


 パラメーターを恐ろしいほどに底上げする最強の武器は、手に取った瞬間これは違うとミリアリアを唸らせた。


 では戦闘演習を始めよう。


 ミリアリアはまず鉄球15個で列を作り前方に展開。


 演習用に立てられた的に狙いを定める。


 そしてミリアリアは、鉄扇を的にかざしてすべての鉄球に意識を集中した。


「転送開始! ファイア!」


 連続して転移魔法を起動し、弾丸を装填し弾丸をはじき出す。


 15個の鉄球の中に正確に送られた弾は、まさに雨のように連続して的に殺到した。


 ラストダンジョンの凶悪なモンスターさえ血霞に変える驚異的な威力が、更に数を増やしてさく裂すれば木の的なんて一瞬で穴だらけだ。


「このように先制攻撃を加え雑魚を一掃します! 更に! ゴロア!」


 立て続けにミリアリアは手をかざし、雷の精霊術を放った。


 浮かぶ鉄球に埋め込まれた宝石が連鎖的に反応したのを確認すれば、勝ったとミリアリアは心の中で拳を握る。


 ミリアリアの精霊力が手のひらに集まり、雷撃となって放たれる。


 宝石によって増幅されたそれは稲妻というよりも高出力のレーザーのように的を一瞬で焼き尽くした。


「ヒューまるで荷電粒子砲ですわね!」


 もちろん木製の的は灰になって跡形もなくなってしまった。


 我ながら見事な威力だ。


 今回はお披露目だからと手加減してもこの成果だけに、今後は出力の調整をさらに細やかにする必要があるかもしれない。


「銃撃で突破不能と判断した敵には従来の精霊術で対処します。できれば術の名も口に出さずとも使えれば面白いですわね」


 闇属性の応用幅を見るに、攻撃術も回数をこなせば口に出さずともイメージは固められそうだ。


 だが、叫ぶのも気分が乗るしかっこええので、そこは適切に使い分けていくのが理想である。


「遠距離中距離はこんな感じです。そして遠距離攻撃を耐える敵には接近戦で応戦します」


「いや……あれで生き残るようなモンスターはいないと思うのですが」


「接近戦で応戦しますわ!」


「……はい」


 それがいるから困りものなのだ。ホイピン先生。


 ミリアリアは闇を人型に3体作って並べると、自分に向かって襲い掛かってくるように指示を出した。


 デモンストレーション用に開発した術は、なかなか動きがいい。


 襲い掛かる人型に向かってミリアリアは構えた扇を振りかぶり、ついでにドレスから無数の触手をはやして、猛烈な勢いでそれを振り回した。


 全力で暴れるのは久しくなかったが、それはもう闇色の竜巻のようだ。


 ミリアリアは自分でもびっくりした。


 触手は鞭のように敵を打ち据え、破壊してゆく。


 そしてわざと見逃した最後の一体を、ミリアリアは扇で殴りつけた。


 ズドンと一撃だ。


 音がもう、打撃というよりも大砲が間近で炸裂したみたいだった。


 自分で作ったそれなりに強度があるはずの闇人形がプリンプリンをぶちまけたみたいに飛び散るさまは、いっそシュールだ。


「お……おおぅ。手ごたえが軽くてマジヤバですわ」


 専用装備というやつはここまで手ごたえが違うのか。


 ミリアリアは戦慄しつつも、歓喜で震えた。


 それはコツコツと進めた苦労の集大成。ゲーム上でも感じることができる、積み重ねのエクスタシーだ。


 手ごたえありとミリアリアは口元をほころばせる。


 闇のドレスによる防御に、近接の攻撃手段が加われば戦闘における大きな隙は埋められるはずだ。


 ようやくぼんやりと考えていた戦闘スタイルが形になってきて、ミリアリアは自らの力を改めて実感した。


「ホーッホッホッホ! いい感じですわね! どうです先生? まだまだ形にしたばかりでお見苦しいところはあると思いますが、中々面白い使い方でしょう? このパターンをひな型に洗練させていこうと考えているんですが、何か効果的な訓練方法はありませんか?」


 ミリアリアの希望としては、もっと細かくかっこいいドレスを形成したいし、鉄球は安定感を増したい。


 浮遊を念動力のようなものだと考えると、適当な相手を見えない力で拘束したり、それが無理ならドンと弾き飛ばしたり押さえつけたりなんて浪漫しかないんじゃないかと思う。


 つまり先生にはレベルアップではどうにもならない、器用さを鍛える訓練方法をご教授願いたい。


 見た目だけ完成されても、中身が伴わなければ張り子のトラである。


 完成に持っていくには有識者の推奨する効果的な訓練が必要だと考えたミリアリアだった。


「……」


「先生?」


 返事がないのでもう一度呼びかけると、ホイピン先生はぐらりと傾き、ひっくり返った。


「せ、せんせー! どうしたんですの!」


「申しわけありませんが……私では教えるのは無理なんじゃないかと」


「えぇ!? いや、これから! これからが重要なんですのよ先生!」


 気絶してしまった先生に叫ぶミリアリアの声は城にこだました。


 ついでにかつての悲劇からもう一度完膚なきまでに破壊された演習場も含めて、メアリーからこっぴどくしかられた。


 そしてこの日から、噂のあだ名がわがままお姫様から破壊姫に称号がランクアップして知れ渡り始めたらしい。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この、『恋愛パートって何それ、美味しいの?』 みたいなのが面白いです。 完結してるのか、良いな。 こんな神作品をありがとうございます。 [一言] これからも頑張ってください
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