悪役姫は認められる。
今回の攻略は確かに成果はあったが、反省点も山盛りだとミリアリアは振り返る。
正直内心では焦りのような感情を否定できなかった。
「ついに出て来た、わたくしの連続テレポート銃撃で倒せない敵。真っ当に倒すのなら精霊術を駆使するのが基本でしょうね」
楽にレベルアップできる良い方法だったのだが、残念だ。
そういう意味だと、ここからはチートに頼らない実力を磨く段階に来たということだろう。
まったく楽しみなことだが、少し気になるのはいざ戦う段階で感じた力の高ぶりのことだ。
わからないことは多い。ミリアリア自身のことが最も大きな謎なのが悩みどころだった。
「もっと本腰を入れて考えないとだめかもしれないですわねー。とりあえず能力全般鍛え上げないとどうにもならなさそうですが。テレポートだって進化したのですから、パラメーターを急激に上げる何かがあれば……」
などと都合のいいことを考えていたミリアリアは大事なことを忘れていたことを思い出した。
「! そうでしたわ!」
ミリアリアは思いついた瞬間にチリチリとベルを鳴らした。
「メアリー! メアリー! ちょっと来て!」
「は、はい! なんでしょう! お嬢様!」
「今すぐに鍛冶屋に行きますわよ! ついていらっしゃい!」
外出の支度をしながら言うミリアリアにメアリーは目を白黒させる。
「えぇ! いえ! 三日も姿を消していらしたのにそう言うわけには!」
「後で巻き返しますわよ! それより頼んですぐは出来ないんだから注文しに行きますわよ!」
「それなら私が行ってきますから! 何が欲しいかだけ教えてください!」
「だめですわ! 自分で注文するんです! 梯子するから一緒にきなさい!」
「えぇぇぇ!」
メアリーには悪いが気づいてしまった以上は強行せざるを得ない。
そしてこればかりは人任せに出来ないのだ。
というわけで大慌てでやってきた鍛冶屋である。
もちろん用件は手に入れたアイテムを加工してもらうためだ。
「これを武器に加工してくださらない!」
ゴンとカウンターに差し出した精霊鋼を見た武器屋のアーノルドは、いかつい顔を限界まで驚愕に染めて、食い入るようにそれを見ていた。
「お嬢ちゃん……こいつを一体どこで?」
「企業秘密ですわ!」
震える手で精霊鋼を持ち上げるアーノルドは、一度深呼吸して頷いた。
「そ、そうだな。こいつが手に入る場所なんて、簡単に漏らすもんじゃねぇな。しかし武器に加工は……無理だな」
「……なんでですの?」
こいつはまたいきなり無理とはどういうことだろう? ゲームでは普通にやってたのに。
ちょっと今なら無茶が効くくらい懐も温かいのだが、どうもそう言うことではないようだった。
「精霊鋼を加工するには……この石に認められなきゃならない。精霊鋼には意思があるんだ。選んだ持ち主のためにその姿を変える。金で買ってきてもただの石ころなのさ、こいつは」
「なるほど……」
そんな秘密があったなんて! 思わぬところで専用武器の秘密発見だった。
ミリアリアはおおっと、心の中で感動したがどうやって認められればいいのかなんてさっぱりわからない。
「どうすれば認められるんですの?」
ミリアリアが尋ねるとアーノルドは頭をバリバリ掻いて、首を横に振った。
「……それはわからん。選ばれた血筋なんて言うやつもいれば、魂の資質だって言うやつもいる。だが精霊鋼の武器を持っている奴は、相応の実力を備えているもんだ」
なんとも抽象的過ぎる話だった。
ミリアリアは首をかしげる。
「どうやったら認められたかわかるんですの?」
「それは……精霊鋼に認められると、うっすらと光り輝くんだそうだ」
「ん? 光り輝く?」
そう言えば、この精霊鋼は元はちょっと光っていたはずだが、今は光ってない。
ミリアリアは精霊鋼をガッと掴むと、途端に精霊鋼は光り始めた。
「光りましたわよ?」
「なぁにぃ!?」
血走った目で顔を寄せてくるのはやめてほしい。
ミリアリアは鉄扇を突き付けて、迫るドワーフを押しのけた。
「何ですの急に? これで認められたんですの?」
「……ハハ。すげぇな、本当になにもんだ嬢ちゃん」
「ただのやんごとなき美少女ですわ」
驚くアーノルドにミリアリアはなんだかよくわからないがどや顔をして見せた。
条件がそろったのなら結構。ならば依頼するだけである。
「……そ、そうか。だがこれならやれる。お嬢ちゃんはこいつにしっかり選ばれているようだ。じゃあもう一ついいか?」
「何ですの?」
「お前さんの手になじむ武器を材料にしなきゃならない」
そう言われて真っ先に思い浮かんだのは、いつも傍らに浮かせている鉄球だった。
「武器ですか……じゃああの鉄球」
「鉄球は……ちょっと厳しいかもな。ていうか鉄球って武器なのか?」
「大活躍ですけど? 確かに……手になじむっていうと違うかもですわね」
カテゴリー的には魔法攻撃かな? 極めて特殊なのは間違いなかった。
ならばと次点でミリアリアは自分の手に持っている鉄扇に目をやり、それをアーノルドに差し出す。
「これはいかがです?」
「ああ、鉄扇か……どれ」
おっちゃんが鉄扇を預かると精霊鋼の側に近づける。
すると不思議なことに精霊鋼はミリアリアが触った時と同様に光り始めたのだ。
なるほど、なんてわかりやすい鉱石だろう。
しかし鉄扇は愛用こそしていたが武器として使ったことなんて数えるほどしかないのに、なかなか節穴だった。
「……これだな。嬢ちゃん……この仕事本当に俺に任せてくれんのか?」
そう言ったアーノルドの目は燃えていた。
熱い男の目である。
ならばミリアリアにはどこにもためらう理由は存在しなかった。
「わたくし最初に優遇すると言いましたわ。この鉄扇も生みの親の手で生まれ変われば本望でしょう」
「ありがてぇ。絶対いいものにしてみせる」
「ああそれと、この間の鉄球を追加で10個大至急頼みますわ」
「……大丈夫か嬢ちゃん? 精霊術の浮遊は筋力に比例するんじゃなかったか? あんまり無茶するとチビのゴリラになっちまうぞ?」
「だ、大丈夫ですわよ! むしろ今のうちに精霊力に磨きをかけて、マッチョにならなくても鉄球を支えられるようにするんです! 比例なんてさせないですわ!」
パラメーター上のパワーが、イコール筋肉でないとミリアリアは信じていた。
だからゴリラになんぞ絶対にならない!
ちなみに鉄球を近づけてみたが、精霊鋼は光らなかった。
どうやら気に入らなかったみたいである。
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