悪役姫は勝利する。
カーペットを作ることができた時点で構想はあった。
服や装飾を自在に作り出せる精霊術はぜひとも習得したいとより細密に闇の精霊術を極めた結果だったが、命を拾うとは儲けたものだ。
ミリアリアを覆う闇はしっかりと形を成して、編みこまれてゆく。
そうして完全な形の闇は赤いドレスを真っ黒に染め上げミリアリアを彩った。
「めちゃくちゃ効きましたわ……胃の中がひっくり返りそうです……」
一方でミリアリアの体の中で痛みの熱が暴れていた。
ダメージで生じた体の損傷で、ミリアリアの膝は笑い、頭にはチカチカ星が瞬く。
「でも不思議と……闇属性は今まで以上に使えそうです」
普通だったら泣き叫んで、のたうち回りそうである。
しかし頭の中の記憶は、こんな時に溢れるほどの情報をミリアリアの頭の中で喚きたてる。
同時にとてつもなく高度な闇の精霊術が、ドレスを作る様に体内を駆け巡るのを感じた。
「……打撲10カ所の損傷、血管及び神経を修復。肋骨罅を固定後修復……。今年のトレンドドレスのおすすめ……ちょっと大人なデザイン……闇属性と光属性は相反する属性だと思われているが実は非常に似通った特性を持っている。違うのは得意分野で闇属性は物質、光属性は精神に寄っている点。出来ること自体の違いはあまりなく、闇属性は攻撃に優れ、光属性は回復に優れているなど。精神への影響については、光属性は人に好かれやすく、人の本当の感情を刺激しやすい。たいして闇属性は精神に与える影響が中途半端なため洗脳という形が限界で大きな衝撃で影響が解けたりする。―――光姫のコンチェルト公式ファンブック抜粋……何ですのこれ?」
ほぼ無意識に口ずさみ、はっとミリアリアは顔を上げた。
なんだか情報過多である。
だが今は破れた服が生まれ変わり、痛みがましになったことを喜ぶべきだ。
戦闘はまだ終わっていない。
死ぬかもしれなかった初ダメージで混乱していたが、冷静になればそれがいわゆるHPで言えば生命を脅かすものではないことは明らかだった。
「わたくしとしたことが……無様をさらしてしまいましたわ」
ミリアリアはニヤリと不敵に微笑む。
滲んだ涙を軽くふき取って、上がって来る胃液を無理やり押しとどめたら、すまし顔で敵を睨んだ。
「戦闘に守りは重要ですわよね。そして今ので確信しました……現時点でレベル差はかなりあるようですわね?」
「……!」
攻守はまた入れ替わる。
銃撃が効かないとなると、きちんとレベルが反映される攻撃手段が重要になって来る。
ミリアリアは右手を天にかざし精霊術を放つべく強く念じた瞬間、いつもよりも強力に力を感じた。
「いや―――これは……溢れる!」
予想をはるかに超えて膨大に湧き上がってくるそれをミリアリアは持て余し気味に解き放った。
「―――食らいなさい! アンク!」
咄嗟に最下級の精霊術を発動するとナイトメアナイトを中心に黒い波動が集まってゆく。
小手調べのつもりだったが、思ったよりもずっと規模が大きい。
そして聞こえる、割と聞きなれた断末魔である。
「キエエエエエエ!!!!!」
甲高い悲鳴を残してナイトメアナイトは周囲の床ごと一瞬で消滅した。
「……マジヤバですわね」
抑えめにしておいて本当に助かった。
ミリアリアは闇のオーラ渦巻く破壊跡を眺め、こいつは気軽に使えないなと若干引いていた。
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