悪役姫は調子に乗った。
長い戦いは、ミリアリアを経験値を狩る生き物へと変えていた。
モンスターに狙いを定め、飛び掛かり、仕留める。
一連の動作は最適化され、命中率の低いはずのバットの一撃が外れなくなって久しい。
そして気が遠くなるほど同じ作業を繰り返し、ようやくそれはドロップした。
「でででで……出ましたわ! 精霊鋼!」
ミリアリアの目にきらきらと光が戻る。
手の中にある鉱石はものすごいバニラ臭だったけど、心なしか光って見えた。
「いや、気のせいではなく、実際ちょっと光ってますわね! ピカヤバですわ!」
粘りに粘っただけにその輝きはミリアリアにしても特別なものになりそうだ。
手のひらに感じるひんやりとした感触のそれにミリアリアは思わず頬ずりしていた。
「それにしても、ダンジョンのモンスターってやっぱりどこかから湧いて出るんですわね。そうじゃないと生き物なんてすぐに死滅してしまうでしょうし。不思議ですわ」
倒しても倒しても、いくらでも一定数湧いて出るモンスターは助かるが不気味である。
15階ともなれば、今まで以上に強力なモンスターが現れるのだから警戒しなければならなかった。
「メタルプリンプリンも対策をしていなければかなり危険なモンスターですしね。苦戦も多くなってきたものです」
だが苦労のかいあって、狩った経験値は中々のものである。
漲る力は、レベリングを始めた頃から比べるとかなりのレベルアップをミリアリアに感じさせていた。
ここは一つ、目標達成記念にこの階層のボスにでも挑んでみるのがいいかもしれない。
「まぁ、これもいわゆる冒険です。毎度安全にとはいかないですわね」
ミリアリアは高ぶる気持ちのままに、このフロアのボスを探すことに決めた。
散々走り回ったフロアだけに、おおよそこの辺りにいるのではないかという予想もついていた。
階層徘徊系のボスは、位置取りに気を付けていれば、遭遇する危険は減らせる。しかしうっかり遭遇すれば、激しい戦いになること間違いなしの強敵だった。
ここだと思う位置で待つこと十分ほど、そいつは闇の中から金属音を響かせて現れた。
人間が着るには明らかに巨大な鎧姿のモンスターは、無骨な兜の隙間から赤い瞳を輝かせ、ミリアリアを睨んでいた。
「あら、おそろいの瞳ですわね……。風評被害が心配ですわ」
ミリアリアにしてみても、強がりを言わなければ一歩引いてしまいそうな不気味さがそのモンスターからは漂っている。
ナイトメアナイト。
人間であれば両手でも扱うことが難しそうなもろ刃の剣を片手で軽々と操る騎士型のモンスターだ。
ミリアリアがパンと鉄扇を広げて口元を隠すのは正直に言えば不安の表れだった。
圧力がすさまじい。最近にお母様の圧を感じていなければ、逃げ出していたかもしれなかった。
「これは……なかなか。ですが先手必勝です!」
だがどんな敵でも、この戦法なら関係ない。
ミリアリアは鉄球を浮かせられるだけすべて展開、今回は肉弾戦で頑張っていたこともあって残弾は十分だ。
ミリアリアは五つの砲門から弾丸を出し惜しみすることなく叩きつけると、ナイトメアナイトは派手にのけぞって、全身に火花が散った。
「やりましたか!?」
今までの必勝チート戦法に信頼感はある。
だが、濛々と立ち込める土煙を見ていると、漠然とした不安があった。
それはレベルを上げたことによって生まれる勘みたいなものだったのかもしれない。
不安は的中する。
「……オオオオオ」
煙の中から姿を現したナイトメアナイトの鎧は一斉射を耐えていた。
楽しいなと思っていただけたらブックマーク、評価、いいねなどしていただけると嬉しいです。