悪役姫はチェックする。
ちょっと取り乱してしまった。
涙目のミリアリアは改めてひょっとするとと思い付きを実行してみると、案外簡単にそれらしいものが出て来て、目を輝かせた。
「おお! わたくしにもできましたわ! ちょっと黒々していて、好感度やらなにやらのステータスはありませんが……ざっくり自分のスペックは確認できるんですのね!」
光姫のコンチェルトにおいても、パラメーターというモノは存在した。
そして今見ているモノは細部は違うが間違いなくパラメータ画面である。
今まではできなかったはずだが、これは新たに得た記憶の影響なのは明らかだ。
こういう細かいところで、この記憶がただの妄想でないと実感させられるわけだが、ミリアリア自身の変化はパラメーターにも明らかに反映されていた。
「わたくしの使える属性は闇……と雷!? なんか生えてますわ!? それにしても考えてみればめちゃくちゃ悪役っぽいですわね!」
属性が増えたのはやはり雷に打たれた影響か? これは中々のスペックであるとミリアリアは思う。
現在ミリアリアの年齢は9歳。
年齢を考えればすでに魔法を使えるのは反則的な上達速度だと言える。
しかしゲームを知っているミリアリアは、左右の人差し指を近づけて、ピリリと電気を流してみて思った。
「……しょぼピリですわ」
闇も改めて使ってみよう。
ぼやっと黒いのが手のひらに出た。
「……しょぼもやですわ」
我ながら、なんでこんなしょんぼりで日々大喜びでいきり散らしていたのかよくわからない。
しかしゲームじゃもっと景気よくでっかいドラゴンなんかを血祭りにしていた。
今のミリアリアはちょっとこれで満足するのは無理そうだった。
「倒せてトカゲがいいとこですわね……」
周りは天才だと褒めてくれたけど、残念ながらちっちゃいトカゲの黒焼きを生産できるくらいではちょっとって感じだ。
ミリアリアはとりあえず自分のベッドにダイブして打ちひしがれた。
どうすればいいんですわよ?
ちなみにヒノキの棒を持ったところで、腕力も年相応である。
だがパラメーターにとある項目を見つけて、ミリアリアはのそりと体を起こした。
「あとは固有術のテレポートですけど……これはどうなのでしょうね」
固有術とは、属性に分類されない、変わった特殊能力のようなものでかなり珍しい。
しかしメタ的な視点で言えば、ヒロインやメインメンバーで言うところのシナリオのみで使われるふわっとした力という印象だった。
「うーむ」
とりあえずミリアリアは使ってみる。
このテレポートの効果は自分と生き物以外の物質を一瞬で移動させることができるというときめくモノなのだが……現状欠点が存在した。
もちろんミリアリアは全力だった。しかし適当なところに置いてあったカップは一メートルくらい移動しただけだった。
「……しょぼぞうですわ」
全力だろうが気が抜けていようが、大体移動距離は1メートルくらいなのだ。
実はすでに検証済みである。
わかっていたことだが、これでモンスターは倒せない。
しかしモンスターを倒さなきゃ、レベルが上がるわけもない。
ミリアリアは腕を組んで唸った。
「うーん。それでもこの手札でどうにかしなきゃいけないんですわよね。レベルを上げるのが最優先何ですけれど……」
そもそもまず9歳の子供が、しれっと「あのーモンスター倒したいんですけどー」なんて言ったら間違いなく止められる。
ましてや姫ならなおさらである。
予想はしていたがやはり最初が一番難しそうだとミリアリアは特大のため息をついた。
「まずは最初の一歩が一番ハードルクソデカですわー。……手持ちの武器で何とかする必要がありますか……この術も使いようによってはどうにかできるのではなくって?」
と言っても一体どうするべきか?
ミリアリアは手元にあった適当な宝石を手慰みにいじくっていると、色々と考えているうちにふと疑問が沸いた。
「テレポートって……もう物がある場所にテレポートさせたらどうなるんですの?」
実感のない記憶は、いわゆる漫画的な可能性をいくつもささやきかけてくる。
融合する、はじき出される、爆発する。
危険なものもあるが、そんなもの現状を考えるとウエルカムだ。
思いついたらやってみるしかない。
ミリアリアはちょっと離れた位置から、手に持った宝石を適当な宝石に重なるようにイメージしてテレポートをかけた。
とたん、激しい閃光が弾け―――。
「……ホア?」
チュンと甲高い音が響く。
振り返ってみると、城の分厚い壁に宝石と同じ大きさの穴が綺麗に開いていた。
「はわわわわ……」
まず危うく頭が弾け飛びそうだったことに気が付いて、ミリアリアは震える。
しかし青ざめると同時にミリアリアの心を満たしたのは強烈な歓喜だった。
ミリアリアは目を回しながら、ベッドに飛び込んで叫んだ。
「カチカクですわーーー!!!」
「お嬢様!?」
おおっとまた叫びすぎてしまいましたわ。
その日、ミリアリアの噂にまた一つ尾ひれがついたが、ミリアリアにとってそんなことは割とどうでもいいことだった。
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