悪役姫は短期集中特訓に入る。
息をついたミリアリアは改めて今回の突発的に起こったイベントに肩を落とした。
これは原作になかったどころか、始まる前の変化で頭が痛い。
ただ相当に早い段階で自分よりも強者に目をつけられたとも言えるのかもしれない。
それもよりにもよって女王であるお母様が違和感を覚えたことは、死活問題にもつながりかねなかった。
親子の前に女王様だ、秘密のダンジョンにこっそり侵入していたことがばれたらどんな反応をされるのか、正直ミリアリアには予想がつかない。
まぁもとより監視はされていたのだろうが、今後はもう少し警戒を強める必要があるのだろう。
ミリアリアはいつも以上に気合を入れた。
幸い旅行明けで三日ほどはスケジュールが空いている。
ならば、ここらで一つ気合を入れて短期集中特訓の始まりとしようとミリアリアは決意した。
「じゃあ、用事も終わったし……メアリー、わたくしちょっと出かけてきますわね」
「え? どこに行かれるんですか?」
流石に見とがめられたが、ミリアリアは笑ってごまかした。
「ちょっとよちょっと! ちょっとだけですから! 何とかごまかしておいてね? メアリー」
「ちょ! お嬢様!?」
シュンと一瞬でミリアリアの視界が切り替わる。
そこは転移魔法によってやって来た、ラストダンジョン前だ。
やはり転移はレベル依存か、となれば今後はもっと便利に使えそうだ。
「さてさて。色々と検証が必要の様ですわね」
とにかくレベルは何があっても大丈夫なように、上げておかなければならない。
さもなければ本来の処刑か追放の未来しかないゲーム内の運命に抗うことさえできないだろう。
「どこまで行けるかわかりませんが……最低限レベルさえ上げてしまえばどこででもやっていけるはずです! 短期集中特訓スタートですわ!」
実はミリアリアは前々から思っていたのだ、夜な夜な短時間潜るのでは効率が悪いと。
いつかはやろうと思っていたが、ちょっと3日くらい集中して潜れば、ゲーム的には相当なやりこみである。
「確か……15階層でいいレベリング場所があった気がしますわね。そこでレベル上げをしながら、戦い方のスタイルを確立しましょう」
正直色々と出来るようになってきて、戦うのが楽しくなってきたところだ。
ミリアリアは最効率を求めてダンジョン探索へ向かった。
さて、地下15階層が他の階層と違うところは、レベル上げに最適な経験値の多いモンスターが出る、その一点である。
「メタルプリンプリン……!」
スイーツ系モンスター、その上位種は名前のままプリンに顔があるタイプのマスコット枠だが、経験値の量が半端じゃないことで有名だった。
遭遇率の低いレアなモンスターだが、多少苦労してでも倒す価値がある。
だがしかしこのモンスターにはもう一つ集中して狩る利点があるのだ。
「光姫のコンチェルト」において、キャラクターの最後の武器は店にアイテムを持ち込む鍛冶によって作られる。
そしてその武器すべてに使える特殊金属素材をこのメタルプリンプリンが落とすのである。
他にも35階層のキングメタルプリンプリン。
49階層のゴールデンメタルプリンプリンが落とす事が分かっているが、こいつらはとにかくさらに輪をかけて出てこない。
アイテムを狙うなら回転率重視でこのメタルプリンプリンを狙うのが経験値的にもうまく、アイテムを手に入れやすいというのが定説である。
「その名も精霊鋼でしたか。わたくしの専用装備を作れるのか……はわかりませんが。優秀な鉱石であることに変わりありませんしね」
そもそもゲーム中でミリアリアは仲間にならないので専用最強装備があるのかどうか疑わしいが、いい金属には違いない。
鍛冶屋の知り合いもいることだし、ダメならダメで何かできるものを作ってもらうのも楽しそうだった。
「まぁ回転数の問題ですわね! さぁがんばりますわよ!」
ミリアリアの心の片隅にいる、ゲーマーの記憶にも火が付く。
とにかく15階層をアホほどぐるぐる回ってプリンをプリンプリンしまくる作業を始めねばならない。
だがミリアリアはまだ本当の意味で気が付いてはいなかった、ゲームならまだしも現実の周回作業など修羅の道でしかないことを。
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