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悪役姫は女王に会う。

 彼女は神々しい光のそのものの様だったと、ミリアリアは後日証言した。


 それは心の問題だけではけしてない。


 彼女と出会った人間は口をそろえて言うセリフだったが、ミリアリアもまた例外にはなれなかったようである。


「……よく来た。ミリアリアよ」


「……お久しぶりです。女王陛下」


 謁見の間は精霊の気配に満ちた、とても厳かな場所だとミリアリアは感じた。


 大きなステンドグラスから差し込む光は、玉座に座る王を祝福するように照らし、輝くような黄金の髪の女王が自分を見ていた。


 驚くほどに美しい相貌には一切感情が乗っていない。


 品定めするような視線はノーマル幼女には少々つらいプレッシャーだろう。


 だが女王である我が母は中々な一番難しい難題を口にした。


「楽にしなさい。ふむ、なるほど……精霊の気配が濃い。その身に宿す力はよく育っているようだ」


「はい……ありがとうございます」


 お礼は言ったものの、その後が続かなかった。


 自分にはこの人の前で楽にすることすら難しいらしい。


 だが黙ったら黙ったで視線が痛い。


 じっと自分の方を見る女王に、ミリアリアは恐る恐る尋ねた。


「その……此度はどのような御用でしょうか?」


「うむ。実はお父様から連絡が届いた。お前を私自らの目で一度見定めた方が良いのではないかというのでな」


「おじい様が!?」


 お母様に直接忠告とは、おじい様もやってくれる。


 やっぱり狩りのモンスターを横取りして根に持たれていたのかもしれない。


 くそう。おじい様め。もうクマの右手とかあげないんだから。


 ミリアリアはまだ記憶に新しい祖父の顔を思い浮かべて、怒りの念を送っておいた。


 お母様。女王クリスタニア=ハミングは、史上最も光の精霊に愛された女王だと言われている。


 そんな女王が玉座から立ち上がって、いきなりミリアリアに向かって強い光の精霊力を発した。


 感じる圧は相当なもので、護衛すらも圧倒されていた。


 だがミリアリアは圧の中、じっと女王の目を見る。


 圧倒されるものは確かに感じるが耐えられないほどではない。ただ、女王が何を考えているのかミリアリアにはいまいちわからなかった。


「……ほう。確かにこれは子どもとは思えない」


「お母様?」


「お母様ではない。女王と呼ぶように」


「すみません!」


 いけないいけないついつい咄嗟に普通の呼び方をしてしまった。


 即謝るとなぜか圧は止み、女王は不思議と狼狽えて、咳払いをしていた。


「いや……よろしい。優秀だとは聞いていたが中々面白い成長をしているようだ。此度そなたが仕留めたホーンベアーはどうであった?」


 ただ続いた話題に関しては、ミリアリアは咄嗟に一つの答えしか思い浮かばなかった。


「はい! おいしかったです!」


 ミリアリアが元気に答えると、女王様の目は点になる。


 そしてミリアリアも驚いたのだが次の瞬間女王は笑っていた。


「フッ! フフッ……そ、そうかおいしかったか。よく食べ、よく育つと良い。ところで、お前の倒したホーンベアーは通常のものの三倍ほどに育った大物で、すでに被害報告もあった強力なモンスターなのだそうだ。知っていたか?」


「確かに大きかったですよ。ですがさして強いとも思いませんでしたわ」


「そうか……。だがお前の護衛騎士からは、アレを仕留めるには、戦力が足りなかったと聞いている」


「謙遜が過ぎますわ。適切に精霊術を使えば対処できる相手です」


 実際ミリアリアには瞬殺できたのだ。


 レベルはともかく騎士の数はゲーム内でのパーティの上限数を超えていた。


 遠出したとはいえ、ダンジョンでもなく街道に出てくるモンスターに後れを取るようなことはないと信じたいものである。


「ほぅ……まぁよいか。現物があるのだ。お前がいかに謙遜しようと報告通り、相応の褒章を与えよう」


 だが予想もしていなかった事態に、ミリアリアは困惑してしまった。


「褒章ですか?」


「そうだとも。好きなものを言ってみるとよい」


 素っ頓狂な声を出してしまったが、突然の申し出はミリアリアの胸をときめかせた。


 自由に使える立派なキッチン……とか言ったらさすがにまずいか。


 なら無難にお金か? いや、すでに好きにできる金銭はもらえている。


 それに今となってはダンジョン攻略アイテムをそのうちお金に換えるのが楽しみなくらいで、この局面で軽率に現金を要求するのもどうかと思う。


 ならばドレスや装飾品……。


 そこまで考えて、ミリアリアには一つ思い浮かんだものがあった。


 ミリアリアは一瞬で頭を巡らせて、恭しく頭を下げると願いを口にした。


「では……ブラックダイヤモンド。をいただけませんか?」


「ほう。装飾品か?」


「はい。ブラックダイヤモンドです。可能であれば賜りたいですわ」


「ふむ……」


 女王様の値踏みするような目が落ち着かない。


 そしてどこかその視線には落胆のようなものがあることをミリアリアは察することができた。


「……いいだろう。ブラックダイヤモンドだな。最高品質のものを用意ができ次第お前に与えよう」


「はい。ありがとうございます」


「理由を問おうか。―――なぜ、ブラックダイヤなのだ?」


 純粋に疑問に思ったふうに尋ねられ、ミリアリアは顔を上げる。


 色々と理由はあるが、ミリアリアにとってそれはとても大切なことだった。


「そうですわね……ゆくゆくは必要になると考えているからですわ」


「なぜ?」


「この闇色の髪に似あう装飾品だからですよ。女王陛下から賜れるというのならこれ以上の喜びはありませんわ」


「―――ほう」


 女王は目を細める。


 まぁ咄嗟に出てきた返事は自身の属性をつついたちょっぴりデリケートなところである。


 ちょっとすっきりしたが、不敬ととられかねてもおかしくないセリフに空気がピリリと張り詰める。


 しかしミリアリアは構わず続けた。


「わたくしは美しさに憧れがあります。しかし最近悟ったのですが、己を偽るのは一番美しくありません。わたくしはわたくしの美しい人生を飾るにふさわしい輝きを欲しているだけですわ」


 そう言った時の女王の顔は完全に驚いていた。


 そしてその上でにやりと感情を乗せて口元で笑う女王の顔は、毎日見ている自分の顔と少しだけ似ていた気がした。


「……良かろう。今後お前がどのように美しく己を磨き上げるのか。私はゆっくりと待つとしよう」


「ええ。きっと楽しくなりますわ」


 微笑む二人のやり取りは、親子の語らいというには迫力が過ぎて、周囲の家臣一同は終始顔を青くしていた。


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