悪役姫のその裏で。
ふうっと長めに息をついたシンバルは、呼び出した二人、侍女と騎士に問うた。
「なぁ……お前達。ミリアリアは……アレはなんというかヤバくない?」
「……やばくないです」
「……やばくないです」
首を振る侍女と騎士。
シンバルの疑惑は深まった。
「本当か? ちょっとメアリーとやら? 怒らないから思うところを言ってみなさい」
続いてピンポイントで侍女の方に尋ねると、メアリーはビクリと身を強張らせ、答える。
「いえ……その、少々気難しいところが多かったミリアリア様も、最近はお勉強にも精力的にお取り組みになって、王女にふさわしい成長を……」
「王女にふさわしい? いや確かに昔のミリアリアはわがままなところもあったが、前の方がまだ常識的だった気が……いや可愛いよ? つまらなそうなふくれっ面じゃない孫可愛かったよ。気遣いもできて、確かに成長は感じた。でもなんだね? あの精霊術の威力は?」
「そ、その。精霊術の上達っぷりは天才的だというお話は聞いております。ミリアリア様も精霊術は特に頑張っているとおっしゃっていましたが」
「……うん。特に頑張っているのは間違いなさそうだね。でもあれはー……天才とかそんな言葉で済ませていいの? 森、穴になっちゃったんだが? モグラの穴みたいなのじゃないぞ? 地形が変わっちゃったんだぞ? レッスンとやらで教えているとでも?」
そこ大事なところだぞとシンバルが語気を強めると侍女の視線はとうとうそらされた。
「……教えていないと思います」
「そうだろうとも。だがまぁいい。精霊術が強い分には女王の資質に求められるところだよ。我が妻も娘も、皆知っての通りすごかったよ。……しかしあの年齢でモンスターをああもたやすく倒すのはどうなんだ? 余った奴は変な飛ぶ奴で潰すし、何なら踏みつぶしてたんだぞ? ……どうなんだ? ん? レミントン?」
なんだか見たこともない武器を操り、恐ろしい威力でたやすくモンスターを屠る孫はプリティながらもおっかなかった。
そこのところどうなのだとシンバルが騎士に尋ねると、彼も戸惑い気味ではあった。
「……いえ、そのミリアリア様は、護身術を身につけたいと武具全般の扱い方も学んでおりますが……とても筋がいいというお話だけは聞いております」
「筋がいいですむのか? お前が教えてるのか?」
「いえ……その、うちの副団長です」
「おまえんとこの副団長、伝説の勇者とかじゃないよな?」
「ち、違うと思います」
「そうだよな? じゃあなんでミリアリアはあんなことに? 何か知らないのか?」
「いえ……」
「その……」
どうやら二人は、本当にあのミリアリアの戦闘能力の秘密は知らないらしい。
だが戦闘能力に限った話ではなく、ミリアリアはシンバルの知るミリアリアとかなり違っていた。
前は頭はよかったが、もっとひねくれた子供だった気がする。
しかしまるで変わったのかと言えばそうでもなく、見た目は間違いなくかわいらしい孫で、やり取りすれば共通した思い出も確かにある。
そして性格の変化も……前の印象がまるでなくなったわけではなく、何かがきっかけでより明るくなったということはわかるのだ。
シンバルは頭を抱えた。
「……そうなのだ何かがきっかけで変わった感じだ。何か大きな問題が解決したような明るさだった。あの子は難しい子なのだ。この国の女王は強い光属性の素養を持つ者が代々続いていた。生まれ持った属性と立場のせいでこの先苦しむことは多いだろうと思っていた」
「……」
「……」
「だから私は多少甘やかしてでも、居場所を作りたいと……そう思っていたのだ。あの子が自力で頑張り、精神的に成長したというのなら……それは素晴らしいことだ」
「はい」
「おっしゃる通りです」
シンバルは思いのたけを漏らしながら重々しく頷いた。
「うむ。確かにミリアリアは頑張ったのだろう。自分で考えた武器を作って非力を補い。闇という属性さえも受け入れて精進している。その結果あんなにすごい精霊術を使えるようになったんだとしたら……それもまた素晴らしいことだな?」
「おっしゃる通りです!」
「全くその通りだと思います!」
「でもあの威力は……なんというか……やばいよな?」
「「やばいです」」
「やっぱりお前達もそう思ってるんじゃないか!?」
シンバルが声を荒げると侍女と騎士は心底困り顔で頭を下げた。
「申し訳ございません! ですが精霊術が強いことが悪いことではありませんので!」
「しかしわからぬのです! 文武両道も責められるようなものでは!」
「……それは……そうなんだけどな? だが物には限度というものがあるだろう? お前達理由はわからんのか本当に?」
「……わかりません」
「……皆目見当がつきません」
「そんなわけあるか? なんかこう人間を改造する邪法とかそう言うのに手を出してたりはしないよな? な?」
「してないですよ!」
「なんてこと言うのですか!」
「だって! おかしいだろ!?」
大人達の夜は長い。
その日、中々喧騒が途切れることはなかった。
後は胸いっぱいに思い出を詰め込んで城に帰り、いつもの日常に戻るものだとばかり思っていたのに、ちょっと帰って早々ミリアリアの予想とは違う出来事が起こっていた。
「え? お母様が呼んでいるって? なんでまた急に?」
「……いえ、それは。やはり今回の旅行が原因ではないかと」
「えー。なにも心当たりはありませんわよね?」
本気でわからないと答えたミリアリアに、メアリーは肩をすくめてため息をついていた。
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