悪役姫は田舎に旅行する。
今回招かれたミリアリアの祖父の住む屋敷は、端的に言えば田舎である。
政治に深入りできないが、失礼にならない程度には王都に近いそんな場所にミリアリアは見覚えがあった。
作中ではスチルすらないが、快く出迎えてくれたロマンスーグレイでナイスミドルな祖父の顔にミリアリアは見覚えがある。
ここは一つかわいい孫力の見せ所であった。
「おお! よく来たな! ミリアリア!」
「おじい様! 本日はお招きいただきありがとうございますわ!」
祖父のシンバルに、ミリアリアはにこやかに挨拶し、スカートのすそをちょっぴり上げる。
そんなミリアリアを見たシンバルは笑みを深めて、頭をなでた。
「うむ、無事でよかった。しかし少し遅かったのではないか?」
「ええおじい様。少しトラブルがありまして。でもおじい様によいお土産も手に入りましたし、充実した旅程でしたわ!」
「ほう! わしに土産を! なんという……! そうかそうか。いったい何を持ってきてくれたのかな?」
目頭を押さえて震えるシンバルにミリアリアはさっそくとっておきのお土産を紹介することにした。
その時なぜかミリアリアの従者達の表情が一斉に緊張した。
「はい! クマ(野生の)ですわ! よいクマを見つけたので是非おじい様にと思いまして!」
「クマ(ぬいぐるみ)か……うーん。そうか! ありがとうな! そのクマはどのようなものなのだ?」
「はい! とても大きくて侍女のメアリーも驚いていたので。きっとおじい様も驚いてくださるのではないかと思いました!」
「そうかそうか……大きいのか。そのクマはどこに置こうかな? お前の部屋でも溢れてしまうのではないか?」
「……え? わたくしの部屋だなんて無理ですよ。玄関か居間にでも置いてくださいな。あとは夕食とかおすすめです!」
「…………夕食? 夕食にクマ(ぬいぐるみ?)を出すのか?」
「やっぱりおかしいかしら? でもクマ(野生)は珍味と聞いたことがあるので」
「チンミ? クマの名前か?」
「いえ、だから食べるのですよクマを。珍しい味だそうです」
ここまでで、ようやく読まれぬままに進む会話に疑問の余地が生まれる。
言葉に詰まったシンバルは、ミリアリア以外に視線を向けた。
「う、うーむ?……食べられはしないと……思うのだが。すまぬが侍女よ。ミリアリアのいうクマとはどのようなものなのだ?」
指名を受けたメアリーはものすごく引きつった笑みを浮かべ、しかし職業意識に従って、簡潔に説明していた。
「それは……巨大なホーンベアーです」
「わたくしが仕留めたのですよ!」
ミリアリアはようやく会話が通じたかと腰に手を当てて、力強く主張した。
ハンティングが殿方の娯楽で、獲物の大きさはステータスだということをミリアリアは知っているのだ、無垢な孫としてはここは自慢するところである。
「おう? そうか……ん?」
一方でシンバルの方は聞いてもなお、いまいちその説明を飲み込めなかったようで、首を傾げていた。
「なんだかよくわからんな。そのクマとやらを見せてみよ」
「最後尾の馬車の上です! 布をかぶせてあるからすぐわかりますわ!」
シンバルはミリアリアの言葉に従い、馬車の最後尾にやって来る。
「これですわ!」
恐ろしく大きな布がかぶせられた馬車を見上げて、シンバルは目を瞬かせていた。
「う、うむ……これがクマ? おい、布を取れ」
「こ、ここで……ですか? 大丈夫なのですか?」
「大丈夫? なにがだ? いいから早く取りなさい」
「はっ! 失礼しました!」
動揺している騎士達に命じて布を取り払ったシンバルはそれを見た瞬間、顔を強張らせてミリアリアを見た。
「これを……ミリアリアが仕留めたと?」
「一発でズドンですわ! ミリアリアは今精霊術の勉強をしていますの!」
記憶をたどった所、一般的なホーンベアのサイズの3倍は大きい大物である。
毛皮は敷物にするのもよし、角は素材でも売れるはず。
おいしいと噂の手の肉など食べてみるのもいいかと思う。
ワクワクと祖父の言葉を待っていたミリアリアは、その顔色が真っ青なことに気が付いた。
「これが……襲ってきたのか?」
「はい! 見事返り討ちですわ!」
ミリアリアが断言すると、ふぅと祖父は気絶して崩れ落ちた。
「おじい様!?」
そう言えば祖父は武門の出とかではなかったことをミリアリアは遅ればせながら思い出していた。
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