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悪役姫はお出かけする。

 ミリアリアだって、ふと暇してしまう瞬間というモノはある。


 口寂しくなり、用意された乾燥した芋を食べた。


 でも何で干し芋? お姫様に差し入れるスイーツとしては若干色味に欠けないだろうか?


 まぁおいしいけど……。


 そんな脳内問答を繰り返すのにも限界があり、ミリアリアは口を開いた。


「……退屈ですわね、メアリー。ちょっとそこで歌でも歌ってくださらない?」


「なんですかその微妙な横暴」


「それくらい退屈なんですわ。このままだと……もうわたくし自ら歌って踊るしかなくなります。……それはそれで楽しそうなのでは?」


「馬車の中で踊らないでください。狭いんですから」


 現在馬車での移動中。


 流石に遠出となると修行もお休みだ。


 割とフランクに付き合いはじめてから、メアリーのツッコミが厳しい。


 気軽でいいのだけれどちょっと寂しいミリアリアである。


「でも、外はあんなに楽しそうなのに」


「ミリアリア様? あれは遊んでいるのではありません」


 おや? そうなのだろうか?


 のどかな空気でガタゴト進む馬車の外では、楽しそうに遊んでいる騎士達の声がミリアリアの耳に届いていた。


「ゼリーだ! ゼリーが出たぞ!」


「馬車に近づけるな!」


 ゼリー?


 まず最初に頭に浮かんだのは夏場に食べるととってもおいしいフルーツ味のあれであった。


 だがすぐに頭の中のモンスター図鑑が、それがモンスターの名前であると教えてくれる。


「……楽しそうですわね?」


「何を言うのです。ゼリーも立派なモンスターですよ?」


「……まぁそうなんですけど」


 ミリアリアは窓から外を見る。


 鎧をつけたごっつい男達がバスケットボールくらいの緑のゼリーと確かに戦っていた。


 ミリアリアはそっと視線をそらして、思考を整理した。


 この世界でモンスターのチョイスには女の子向けという関係上、スイーツをモデルにしたものが多かったと思いだす。


 それが実に手抜きな話で、ゼリーやプリン、パフェなどそのまま名前を付けられているモンスターも多かった。


 危険ですとか言われても、一見するとスイーツのお化けと騎士が戯れているようにしか今のミリアリアには見えない。


「……なんというかおいしそうですわよねあれ?」


「……え? お嬢様……まさかそれはゼリーを見ておっしゃっているのですか?

 さすがにおいしそうと思ったことはありませんが?」


「えぇ? おいしそうでしょう? プルプルしてて―――」


 あんなおいしそうな緑色で透明感のある色しているのに? そう考えた瞬間はっとミリアリアは世界の真実にたどり着いてしまった。


 実はミリアリアも薄々思っていたのだが、この世界はスイーツが少なすぎる。


 あっても現在のミリアリアの感性で言えばあまりに地味なものが多い気がしていたのだ。


 単純に砂糖が貴重で菓子の類が発達していないだけだと思い込んでいたが……その答えがここにあるような気がしてならなかった。


 つまりスイーツにそっくりのモンスターが存在する以上、それがおいしそうに結びつかないのだと。


 ミリアリアはぞっと背中に寒気が走った。


 考えてみれば当たり前である。


 フルーツの汁を固める方法が見つかったとしよう。おいしいと思うんだけどと相談すると返ってくる答えはこうだ。


「なんかゼリーっぽくて気持ち悪くない? もうちょっと見た目何とかならないのか?」


 今のミリアリアがうまそうと思うものができるわけねぇ!


 異世界の記憶がミリアリアの頭と感情をかき乱す。


 つまりはスイーツが少ないのはあいつらのせいか!? そんな結論が出るとおいしそうなんて感想が吹き飛んでしまった。


「……確かにそうね。わたくしが戦うことがあったら全存在をかけてアイツらを駆逐してあげますわ」


「お嬢様? なんだかとっても恐ろしいお顔をしていますが……そんなに唇を噛まれると切ってしまいますよ? お嬢様?」


 おおっといけない、ちょっと疑問が解けて殺意が噴き出てしまった。


 暇というのは余計なことを考えすぎてしまう。


 そしてまたモンスターつながりで一つ余計なことを思い出した。


 そう言えばミリアリアには幼少期にトラウマイベントがあったはずだ。


 それはまだ起こっていない未来の出来事のはずだが、どこかへの旅行の途中、ミリアリアは強大なモンスターに襲われたことがあった。


 その時にミリアリア自身も傷を負ってしまい、何日も静養することになったが、そんな時でも両親はミリアリアの様子を見に来ることもなく、ただでさえわがままだったミリアリアは愛を疑い、更に極悪に拗らせていく……確かそんな話だったはず。


 確かにミリアリアの記憶の中でも数えるほどしか両親に会ったことはなく、もっぱらミリアリアの世話は使用人に任されていた。


 これはしかしハミング王国の伝統によるところが大きい。


 ハミング王国は女王の治める国なのだが、強く、自立した女王を育成すべく、王女達は城の敷地の中の離宮を与えられ、侍女達に囲まれて暮らす。


 現女王のお母様も同じような環境で育っているのだから、責めるのも酷だろう。


 ただ普通のちびっ子にそれで納得しろというのもまた酷な話なのだろう。


 ミリアリアも色々と変わった知識を得なければ例に漏れなかったというだけだ。


「……いつ起こるのかしらイベント?」


 ミリアリアはぼんやり呟く。


 大抵イベント戦闘というやつは、めちゃくちゃ強いものなのだ。


 だがぶっちゃけイベントが起こるタイミングなんてわかるはずもない。


 出かけることはまぁ頻繁にではないにしてもあるし、モンスターは出る時は出るものなのだ。


 いつかはやってくるのだろうけど、それまでにはもうちょっと強くなっておきたいものだとミリアリアは思った。


 ただミリアリアとしては予想出来ない事よりも、確実に訪れる未来が気になる。


 例えば今この馬車が、自分の祖父に当たる人の屋敷に向かっているのだから、今はそちらに気を使うべきなのは間違いないなかった。


「おじいさまにお土産とか必要なかったかしら?」


「そう言ったものはこちらで用意していますので……」


 退屈なこともあって、聞いても意味のないことを口にするミリアリアだったが、その時大きな物音にメアリーのセリフが遮られた。


「敵襲! モンスターだ!」


「隊列を組め!」


 おおっとまた来たか。


 馬車は止まり、メアリーが真剣な表情でミリアリアの側に移動する。


「ホーンベアだ! でかいぞ!」


 そんな声にミリアリアは反応した。


「ホーンベアですって!? ちょっとお待ちなさい!」


「お嬢様!?」


 ミリアリアは馬車の扉を蹴り破って外に飛びだす。


 そこには森の木々をへし折って出て来た体長5メートルはありそうな角の生えた黒いクマが、ジッとミリアリア達を見ていた。


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