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悪役姫は新術を開発する。

 地下六階。


 ミリアリアはここにきて問題に直面していた。


「歩きづらい……」


 なぜか土の地面が存在するその場所は、ミリアリアの靴ではとても歩きにくい、全く整備されていない道だったのだ。


 ゲームではさすがに全く気にならないような問題は、自分でやってみると冗談ではない過酷さである。


「こういう場所沢山ありましたわよね? これは問題ですわ……」


 広めの通路には蔦や苔が生い茂り、木の根らしきものも沢山あってボコボコだ。


 本来お城を歩き回るような靴で歩く場所ではない。


 そん所そこらのお嬢様なら諦めてしまうところだが、現ミリアリアはちょいと思考回路が他と違っていた。


「これは……地面をまっすぐにする精霊術を考えましょう!」


 最近精霊術に本腰を入れているミリアリアは自然とそんなことを考えた。


 馬鹿な話ではあるのだが、しかしミリアリアの才能を踏み台にした実力はそろそろ―――人の枠を飛び越えつつあった。


 ミリアリアは大きな木の根を見つけ、そこに座って首をひねる。


「そもそも精霊術ってよくわかんないんですわよ。ただの遠距離攻撃手段? いえいえ、その割に基礎は色々出来るんですわよね」


 浮遊もそうだが、テレポートも大きく見ればそう。マジックバッグも精霊術が関連していないとは思えない。


「属性を使う精霊術が攻撃だけってなんですの? しょぼ過ぎですわ」


 属性精霊術のメジャーどころは威力によって3分割されたそれだけなのだ。


 例えばミリアリアの適正属性の雷で言えば。


 ゴロア ゴロンド ゴロアドンの三つの魔法。


 闇属性は。


 アンク アンコクウ アンクラシアである。


 どれも壊し方こそ違うが、相手を破壊する術であることに変わりはなく、威力と弱点をいかに突けるかで力量を推し量る精霊術使いは多い。


「精霊術って、もっと不思議で便利であってほしいですわ。浮遊ほど色々出来るなら、属性のついた方でももうちょっと応用が利きそうなものでしょうに」


 ゲームだからと言ってしまえばそれまでなのだが、ゲームのシステムにとらわれない発想こそ、ミリアリアの武器である。


 そう考えるとやる気がめきめき湧いて来たミリアリアだった。


「……せっかくですからやってみましょうか!」


 ミリアリアはさっそく、最も得意な闇の精霊術で試してみる。


 イメージするのは平たい地面である。


 でこぼこした地面を進むための靴で歩きやすい道。


 それをカーペットのように敷き詰められたらすごく便利だ。


 そう言えばと、ワイトエンペラーを思い出す。


 あのモンスターが体の周囲に作っていた衣のようなものは、おそらく闇の精霊術の産物なのだろう。


 あの術を参考にすればとっかかりになりそうだ。


 ミリアリアは目的地までの道を大雑把に思い描いた。


 そしてそこにカーペットを敷きつめるイメージを作る。


「名前は……そのままブラックカーペットですわ!」


 なんとなくで精霊術を構築して魔力を開放すると、ミリアリアのイメージに従い、ロール状の黒いエネルギー体が現れる。


 それはまさにカーペットのようにミリアリアの前から転がって、でこぼこした地面を黒い道へと変化させた。


「おお! こんなにも簡単に! チョロヤバですわ!」


 なんだ精霊術めちゃくちゃ簡単にアレンジが出来るじゃないか!


 そんな感想が浮かぶのが、ミリアリアという規格外の才能あっての反則だとミリアリアが気付くことはなかった。


 なんか唐突に見たこともない技を使ってくる、ラスボス特有の現象ともいう。


 そしてミリアリアは試しに出来上がった真っ黒な道に乗ってみた。


「……ちょうどいいくらいに弾力がありますわね。触れた瞬間押しつぶされたらどうしようかと思いました」


 触ってみるとふわふわである。


 カーペットを敷いた廊下のような質感は実に歩きやすそうだ。


 ダンジョンの中でやりすぎじゃない? なんて声が心のどこかで聞こえてきたが歩きやすさが一番だった。


「いい術を生みだしてしまいました……よぅし! サクサクいきますわよ!」


 歩きやすい道というのは偉大だった。


 これならばゆくゆくはハイヒールでだってダンジョンを踏破できそうだ。


 歩きやすくなれば目的地はあっという間である。


 階段のある場所は広場になっていて、それを守る門番の様にモンスターは待ち受けていた。


 こういう形式は、ボスを倒さなければ先に進めない。


 そして以前までの通路ではミチミチに詰まって歩くことができなさそうな巨大ブタが、さっそくフロアの広さを生かして、ボスとして君臨していた。


「ブオオオ……」


「こいつはまた丸々太ったものですわね……」


 丸々太ったブタは強力な突進攻撃を主体とした攻撃をしてきたはずだ。


 HPが高く、持久戦を強いられるが攻撃パターンが単調であるがゆえに、ミスさえしなければそう危険な敵ではない。


 ちょっとテクニカルな精霊術を使えてしまったミリアリアはふふんと鼻を鳴らした。


「手堅く、華麗に行きましょうか! さぁわたくしの華麗な技の数々を見せて差し上げましょう! どこからでもかかって……」


 余裕をかましていたところにズドンと、意表を突いた地ならし攻撃。

 

 地面が激しく揺れ、ミリアリアは尻もちをついた。


「……」


 ああ、そうい攻撃パターンもあったかとミリアリアの頭に浮かんだが……そんなことより頭を塗りつぶしたのは激しい怒りだった。


「ドレスが―――汚れたじゃありませんのゴロアドン!!!!!」


 手加減抜きの雷が、ブタをこんがり焼き上げる。


 うん。なるほど、なんも考えずにぶっ放せる属性術最高。


 シュウシュウ煙を上げて起き上がるブタをみたミリアリアは鉄扇を抜いた。


 少々気が緩みすぎていたかと反省したミリアリアはその時ハッと、ひらめいた。


 そう言えば、今日は夜食を持ってくるのを忘れていた。


「……明日のおかずはとんかつですわね!」


 ミリアリアは浮かぶ三個の鉄球に弾丸を叩きこんだ。


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