悪役姫は飯を取られる。
「ふふふんふーん♪」
上機嫌で鼻歌を口ずさむミリアリアは、お昼ご飯を前にして自分の離宮を走り回っていた。
そして中庭にて人目につかない完ぺきな位置を割り出したミリアリアは、こっそり七輪っぽい物と網っぽいものを見つけ、食堂のコックから鳥を強奪して今に至る。
今日はお勉強の類はお休みで、何の憂いもないオフを楽しむ予定である。
「探せば結構あるものですわね串って!」
嬉しくなって、ついつい鳥一匹捌いて、下ごしらえなどしてしまった。
やっぱりミリアリアマジ天才である。そして謎知識の情報元よ、よくぞ鳥の下ごしらえなんて経験があったもんだと賞賛したい。
ミリアリアは生まれてこの方料理なんてしたこともないくせに、なんとなくの知識のみで内臓系まで調理出来た辺り、器用という他なかった。
出来上がったまさに焼き鳥は、完全に異世界っぽい素晴らしい出来で今から唾液がたまってきた。
「おっといけないいけない、はしたないですわ。……結局塩が一番ですわよね、塩があればすべてが解決するのです」
そしてこれを今から炭火で焼くと……こんなの素晴らしいに決まっている。
炭に火をつけ落ち着くのを待ち、準備は完了した。
網に綺麗に鳥を並べて、火にかける。
じっくりと丁寧に、ここでの火加減が味のすべてを左右すると言っても過言ではない。
炎と鳥串をじっと見る。
しかしあまりにも集中しすぎてすぐ隣にいつの間にか座っていたちびっ子にミリアリアは気づくのが遅れた。
「!」
「……」
ふわふわの金髪に王子様のような格好のちびっ子はものすごくミリアリアの焼き鳥を見ながら指をくわえていた。
「……なんですの?」
どこから出て来たのだろうか?
訝し気にミリアリアが話しかけるとどえらくかわいらしいちびっ子はじっとミリアリアを見る。
いやこれは違うな。
試しにミリアリアは串を一本持ち上げてみた。
ジーッと固定されていた視線は、間違いなくその串を追っていった。
これにロックオンとは小癪なちびっ子である。さてどうすべきか?
焼き鳥は秘密ミッションである。食材を調達したキッチン組にはきつく秘密と言い含めた手前、どこの誰ともわからないちびっ子に口を滑らされるわけにはいかない。
ただあげないと断言するには、目の前のちびっ子の視線は清く澄み過ぎていた。
「……うぬぅ」
ミリアリアは根負けして肩を落とした。
「……まぁここで渡さないのも気分が悪いですわね」
ミリアリアは仕方なく串を差し出すとちびっ子はがぶっッと串に食らいついた。
「おう! 危ない! 危ないですわ! 串は! 串は食べてはダメです!」
心配をよそに器用に肉だけ平らげるちびっ子はもぐもぐ口いっぱいに肉を頬張り、ゴクリと飲み込む。
「い、いかが?」
ついそう尋ねるとちびっ子は輝かんばかりにニパッと笑って、七輪に視線が戻って来た。
どうやらちびっ子の口にこの焼き鳥は合ったらしい。
ミリアリアは天を仰ぐ。
あぁ、見つかってしまったのだから仕方がないか。
「焼き鳥……一緒に食べますか?」
そう尋ねるとちびっ子はコクリと頷き、嬉しそうに串を一本また持っていく。
ああ、砂肝ちゃんが……まぁよい。
ミリアリアは皮を手に取り食べてみると、悪くない、極上の味がした。
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