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悪役姫は刺さる。

「流石はミリアリア様。お見事でございます」


「こちらこそ、素晴らしいレッスンでしたわ」


 宮廷マナーの先生。ミスサマンサは授業形式のお茶会で合格点を出してくれたらしい。


 マナーの授業はなかなか興味深いと今のミリアリアは感じた。


 まぁ美学の話である。


 細かすぎる所作へのこだわりと、細かすぎる作法の数々。


 美しさという概念を指先にまで求めた偏執的なこだわりの中には人類が美しいと思えるノウハウが詰め込まれている。


 ついこの間まで「何だこの無意味の無意味乗せ無意味フルコースは飯がまずくなりますわ!」なんて思っていたのは美を探求する乙女にあるまじき浅慮だったと恥じ入るばかりである。


 レベルが上がったのなら、そう言うところにまでこだわっていきたい。


 なんとなく美しくなりたいでは届かない更なる高みへミリアリアは到達するつもりである。


 これから熾烈なレベル上げが日常となってゆく今だからこそである。


 自室に戻って来たミリアリアは勢いよくドアを開ける。


 こればかりは美しさとは程遠いが、勢いをつけることは必要だった。


「メアリー! ドレスの準備を!」


「ドレスですか? ……なにかお茶会のお誘いでもあったのですか?」


 聞いていませんけどとメアリーは首を傾げていたが、ミリアリアは不敵に笑った。


「お茶会でなくパーティですわ! ……まぁ、お披露目しない特訓ですけれどね」


 それも地獄のパーティだ。説明できるわけもないが、気合を入れてしかるべき場所なのは間違いない。




「オーッホッホッホッホッホッ! オーッホッホッホッホ!」


 ミリアリアは甲高い笑い声を響かせながらダンジョンを歩く。


 それはもう、廊下の真ん中を堂々とである。


 赤いドレスに鉄扇を携え、マナーの授業で叩き込まれた歩き方でダンジョンを闊歩する爽快感は思わず寒気がするほどだった。


 ただミリアリア的にはまだまだ完全とはいいがたい。


 ドレスはお子様仕様だし、踵の高い靴だって履きたい。


 飾り気のない浮遊鉄球も今後の改善点だった。


「道の端っこをコソコソと歩くのなんてもう終わりですわ! さぁ来なさい経験値共! 我が糧となるのです!」


 レベルが上がったミリアリアの身体には力が溢れんばかりに漲っている。


 持ち上げられる鉄球も三つ程度は軽々だ。


 ボスならともかく、エンカウントするザコ程度に早々遅れはとりはしない。


 遠くから無数の足音が走って来る。


 巨大な鶏の体と蛇の尾を持つモンスター、バジリスクが見えた瞬間、ミリアリアは即時に狙いをつけた。


 さぁ蹂躙の始まりだ。


「テレポート連続発動―――ファイア!」


 鉄球達は素早くミリアリアの前に並び、閃光は弾け、バジリスクを穴だらけにして薙ぎ払う。


 リポップしたのは丸々太ったお肉だ。


 そしてその周囲にはキラキラと光る石がたくさん飛び散っていた。


「ふむ……これがダンジョン。解体しなくていいことを喜ぶべきか、今更気が付いてしまったこの不自然さを訝しむべきか判断に困りますわ! だけど都合が良いので良しです! ……この上飛び散った魔石を売るとお金になると……これはチョロヤバですわ!」


 とにもかくにも勝利である。


 たやすいと思えるほどに戦法が見事に刺さっている現状に、ミリアリアは喜びで踊り出しそうだった。


 現在このフロアの通路は基本的に狭い。


 本来であれば常に一対一に近い状態を強いられ、モンスターの相手を余儀なくされるわけだが、今のミリアリアにはいい方にハマッている。


 モンスターを見つけることはたやすく、ミリアリアの戦闘方法なら相手が近づく前にとどめをさせるのだ。


 それに実力が近いモンスターにも、主武装が致命打になるのが素晴らしい。


 ミリアリアの攻撃力によらない、固定ダメージの連続攻撃! 相手は死ぬ!


 しかもモンスターは脇への退路がないので、避ける事すらできないときている。


 結果は、すぐにカバンの中にあふれていた。


「ホーッホッホッホ! こいつは笑いが止まりませんわね! 転移術最高ですわ!」


 ミリアリアは頬ずりして、自らの鉄球を褒め讃えた。


 もう全くこのテレポート銃(仮)に恋してしまいそうなほどである。


 この戦い方はいわば、謎知識があるゆえの裏技のようなものだが、この手の裏技はどんどん開発していきたい。


 元のミリアリアはどんな戦い方をしていたんだったか?


 確か闇の大技以外は、ナイフをたくさん浮かべて、飛ばすくらいだった気がした。


 考えてみると浮遊と転移の応用だがすでにこの成果だ、旧ミリアリアは超えたか? 何よりかっこよさと優雅さは段違いだとミリアリアは自負していた。


「いうなればこの武器は―――ファンタジー物によくあるキャラクターの周囲を飛んでるかっこいい丸い何か! まぁ今はただの鉄球だからめちゃくちゃ無骨ですけれどね!」


 ふわふわ浮かぶそれはなんかカッコイイ球体である。そこに優雅な主がいればもう完璧だ。


「さて! どんどん行きますわよ!」


 ミリアリア的には今回から出来る限り最速でダンジョンを攻略したいと考えていた。


 序盤に同レベル帯で粘るより、今この時点ではどんどん下に行ってレベリングを行う方が効率がいい。


 ワイトエンペラーなど最初のスタートダッシュに過ぎない。


 他にも定期的においしい狩場はまだまだ存在した。


 だが焦りすぎるのはいけない、浅層でも外せないイベントはある。


 小道でのファーストコンタクトは、やや小ぶりな宝箱だった。


「フッフッフ……やっぱり醍醐味はこれですわね」


 最短は目指すが、取れるものはとっておかねばむしろプレイ効率は悪い。


 あくまで強くなることが目的なので、装備の充実は急務である。


 ミリアリアは宝箱を開ける。


 中から出てきたのは、液体の入ったガラス瓶が3本だった。


「これは……薬? おおこれはいいものですわね。なんだっけこの色は?」


 ミリアリアはちょっと白色っぽい変な汁を適当にカバンに放り込んでおく。


 まだまだ冒険は始まったばかりである。


 その日、潜った時間は2時間ほどだが収穫は中々のものだ。


 ちなみにワンフロアごとに転移のポイントがあり、攻略済みのフロアに自由にいけるのはエンドコンテンツゆえの割とぬるめの仕様だった。


「なんだかんだ助かる仕様ですわね。それに獲物も大量ですわ……さすが、手つかずのダンジョン。いえ、ラストダンジョンと言ったところかしら? やばい宝が山盛りですわ」


 ミリアリアはホクホクしながら自分の部屋に戻ると爆睡する。


 その日はバジリスクの焼き鳥を作る夢を見てめっちゃ焼き鳥が食べたくなった。


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