悪役姫を突然の事故が襲う。
そして実際の実戦は、基礎訓練に輪をかけて作業じみていた。
相変わらずダンジョンにミリアリアは忍び込み、お高いポーションを投げつける作業に勤しんでいた。
「えい」
「ギエエエエエエエエ!」
「ふぅ。本日5度目ですわね。レベル的にはもう何度か往復作業ですわ」
入り口から外に出るとリポップする仕様がそのままで大変うまい。
いい加減聞き慣れてきた断末魔に、ちょっとの安心感となんとも言えない愉悦を感じ始めた9歳ミリアリアである。
「……いけませんわね。このレベルアップの全能感が悪いのです。変な扉を開けてしまったらどうします」
そんなセリフが出てくるあたりで、もはや手遅れな気がしないでもなかった。
作業は中々しんどいが、うっかりすると死んじゃうので細心の注意を払って行っている。
目指すレベルは60。
もう間近に違いないそのレベルは最低ラインの目標であり、初期ラスボスのミリアリアならそろそろ滅ぼせるお年頃だった。
「でもここじゃそろそろ効率が悪いんですわよね」
まだ数度はポンポンとレベルが上がるだろう。
しかし今日中には上がらなくなってくるはずである。
この先に至るには、更なる階層の踏破が必要になるのは明白だった。
「本格的な戦闘……ワクワクしますわね!」
肝心の戦闘方法はいくつか考えているが、ひとまず出来ることに集中したい。
だが事件は起こる。それはワイトエンペラーマラソンを繰り返した10度目の事だった。
「えーい」
慣れて来て投げるポーションの掛け声も適当になり始めた頃、その事故は起きた。
聞きなれた絶叫がその時は聞こえなかったのだ。
「え?」
「……オオオオオ」
EXポーションを滴らせているのに、消える気配のないワイトエンペラーは立ち上がり、黒いオーラで衣を出現させてゆく。
ミリアリアは顔の筋肉をひきつらせて一歩後ずさった。
ボス特有の威圧感は強烈だった。
戦闘未経験のミリアリアにはすさまじい圧力を感じる。
赤く目を輝かせたワイトエンペラーは死神にしか見えないし、こちらを睨みつける目には死の予感しか感じない。
「ど、どういうことですの? HPは削り切れるはずなのに……!」
動揺したミリアリアは持っていた瓶を慌てて確認する。
「―――ッ!」
すると表記されていた品質保持期限が3年ほど切れていた。
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