悪役姫はあきらめる。
「ええぇ……コホン」
今なんて言ったこの金髪?
すると腕の中にいるライラが、ヒロインとは思えない剣幕で叫んだ。
「エドワード……! 私とお姉様の邪魔をするんじゃない! 引っ込め!」
えええええ?
いや君、何言ってるの? 好感度の管理は重要なことだよ?
「ちょっとライラ? もうちょっとマイルドな言い方をした方がいいんじゃなくて?」
「いいえお姉様! エドワードにはこれくらいでちょうどいいんです! ……お姉様を狙う豚め……死ねばいいのに」
そんなに嫌いか!? こんなにかっこよくなってるでしょ!?
一体何がどうなってそんなことになったのかミリアリアの背に一筋、冷汗がにじむ。
いや、まて。
好感度が著しく下がるイベントからの、反転なんて言うのは恋愛もののセオリー。
まだ大丈夫、そうだ! このミリアリアが立ちふさがることで、一発逆転を狙うのはどうだろう?
こうなればライラにはちょいと厳しめに酷い目にあってもらわないと、助けられたとは思わないかもしれない。
ここは心を鬼にしてと、ミリアリアは覚悟を決めていた。
「お姉様の宣言を聞いて、このライラ! 覚悟を決めました!」
「え? 何を?」
だと言うのに我が妹もまた、何かの覚悟を決めたらしい。
思わず力が抜けた腕からライラはするりと抜け出すと、興奮した様子で鼻息気を荒くしていた。
「ミリアリアお姉様の覇道……ライラは全面的に応援いたします! 伝統に凝り固まったこの国をお姉様と私の力で徹底的に原型も残さず破壊するのです! 光と闇……いえお姉様と私が手を取り合えば最強なのです! 不可能なんてないと思います!」
「いや……そこまでは」
「だから私のお姉様の邪魔をするんじゃないわエドワード! 同級生だとしても、容赦しないわよ!」
「馬鹿を言うな! ミリアリア様から離れろライラ! ミリアリア様を支えるのはこの私だ! ミリアリア様と共にこの国の食文化を発展させるのだ!」
「ばっかをいうんじゃない! お姉様を真に支えられるのはこの私よ!」
「なにをいう! 妙な悪霊にそそのかされて暴走していたくせに! ミリアリア様のお手を煩わせておいてどの口が言うのだ!」
「そうなの!? いや……何もできなかったのはあんたも同じでしょ!」
「あ、あの……君達?」
何とか収拾をつけようとするミリアリアだったが、更なる参戦者まで現れた。
「ちょっと待てお前ら! ミリアリア様はこれから強靭な肉体作りをこの国に広め、最強の王国を作るんだ! そのサポ―トは俺にしか出来ん! なぁ! シリウス!」
「アーサー……馬鹿を言うんじゃない。ミリアリア様は宝石の研究を進めて、精霊御術の強化方法をお広めになられるのだ。そして僕の領地は国内随一の宝石の産出地……誰がお手伝いできるのかというと……言うまでもないことだな」
「お姉様も私がいいですよね! ライラはお姉様のためなら私この身を捧げる覚悟までできていますわ!……ポッ」
「……っ!」
ミリアリアは助けを求めて左右に視線をさ迷わせる。
仲間達は会話に全くついていけないと、目を点にしていた。
何なら、さっきまでお腹を丸くしていた羊たちまで面白くなってきたぞとこちらを見ている始末である。
そしてその周囲は、萎縮しているはずが、妙に生暖かい視線をミリアリアとそしてライラに向けているのに気が付いて、ミリアリアの頭の中でプチンと何かが切れた。
「あ、もうダメだこれー」
「ちょっと待て……落ち着けミリアリア? 闇が漏れてる! 漏れてるぞ!」
天地が鳴動する。
慌てるダークをハイライトのない瞳で見つめるミリアリアは、すべてをうやむやにすべく、リセットの一撃を空高く放った。