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悪役姫は別れを告げる。

「はぁはぁはぁはぁ……お前ちょっといい加減にしろよミリアリア!」


「いやーわたくしも死ぬかと思いましたわ」


 頭にこんもり籠った土を払い落として、ミリアリアとダークは正直なところを語り合った。


 ダークの作ったフィールドを崩壊まで追い込んだ魔王のダークネスは、しかしきっちり抑え込めたようだ。


 気が付けば周囲は元の城の瓦礫に戻っていて、多少荒れているが被害は抑えられている。


 周囲には、呼び出した時より2倍ほどに大きく丸くなった羊がコロコロと落っこちていて、彼らもべらぼうに頑張ってくれた。


 ミリアリアは無謀な作戦が成功したことに、胸をなでおろしていた。


「フフン……全部吸ってやりましたわ。まぁ清濁すべて飲み干すのも悪女の嗜みですわよね? ……それにしてもさすがわたくしのお友達。後日正確に配分してエナジーチャージしてもらいましょう」


「何なんだそれは……」


「暴れてスッキリ、得られたエネルギーは持ち帰って更にスッキリ爽快。何事も利がなければ取引は出来ないものですわよ?」


「そんなものなのか」


 余波は完全には消しきれず、ダークは疲労困憊のようだったが、真面目に炸裂したらダークの術どころか、ハミング王国が地図から消えていただろうから大金星である。


 そして無事生還したミリアリアは、爆心地で崩れかけた鎧の残骸を発見した。


「やっぱり丈夫ですわね精霊鋼。まだ跡形がありますわ」


「精霊鋼で出来た装備は一応不滅と言われることもあるんだがな。……ああ、でもあの鎧のおかげであいつはまだそこにいるな―――」


「そのようですわね」


 残骸一歩手前になった魔王にミリアリアは歩み寄り、扇で口元を隠した。


 残骸を見下ろしていたダークは、祈る様に目を閉じる。


 一方ミリアリアは、無遠慮にそこにいる魂に話しかけた。


「精霊の申し子なんて言われた方だと言うからリスペクトしていましたのに……これじゃああんまりにもあんまりですわ」


「精霊の……申し子?」


「あら? 生前自分が何と呼ばれていたのかももう覚えてませんの?」


 元より記憶が曖昧なのはわかっていた。


 しかし、燃えカスのようになってしまったボロボロの魂は言葉を紡ぐ。


「……我は……世界を? いや……僕は」


 憎しみに塗り潰されていた瞳に、その時わずかに迷いが生じた気がした。


「気はすみまして? それとも正気ではないのかしら? まぁ、昔の知り合いすらわからないのなら、正気ではないのかもしれませんが」


「……なにを言ってるの?」


「さぁ。単なるたわごとですわ。まだ未練が他に残っているというのならそれも良いですよ。放っておくのも危ないですし、あなたも一緒に来ますか? ダークもいますわよ?」


 ミリアリアは手を差し伸べる。


 今ならミリアリアの術で少しはましな状態に持っていくこともできるだろう。


 しかし魔王の魂は手を取らずに、いやいやと首を振った。


「……いや―――いいよ。僕はもう疲れた」


「そう―――残念ですわ」


「ハハッ……どの口が言うんだか」


 笑ったように感じた魔王は、その一瞬だけ雰囲気が柔らかい。


「―――それではごきげんようルーク。良い戦いでしたわ」


「うん―――さようならミリアリア。僕の最後の敵。そしてさようならダーク。ごめんね」


「!」


 魔王は消える。


「ルーク、わたくし、本心しか口にしませんわよ? アナタとも旅がしたかった」


 今度こそ本当に消えてゆく気配を前に、ミリアリアは瞼を閉じた。


 ダークの顔が見えないように。


 ミリアリア、淑女の嗜みである。


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