悪役姫は受け止める。
「うごごごご……何のいじめだ! 過去が私を殺しに来るんだが!」
「まぁ……黒歴史ってそういうものらしいですわよ? 闇の精霊だから闇歴史的な?……ガンバですわ」
「うるさいわ!」
「まぁ。すぐきますわよ。結界の維持が勝利の鍵ですわ」
「ううう……」
悩める闇の精霊神には自己解決してもらうとして。
精霊鋼の鎧が備えた抑えに罅が入り、魔王は苦し気に呻く。
強すぎる力は、魔王の意識を蝕んでいるようにも見えた。
「グアアアアアア! 許さんぞミリアリア! 何もかも! すべて破壊してくれる!」
ただ、こうして喚いている姿は、同じラスボスとして少々思うところはある。
魔王と、かつてのダークを何百倍も濃くしたような闇がまじりあい、驚くほどにその力を増大させていたとしても、感想は変わらなかった。
「見苦しい……」
余りにも見苦しい。
魔王は先ほどよりも凶悪な力を使おうとしていた。
強大な精霊術師と、強大な精霊が合わさって初めて現出する力の名は「ダークネス」。
極限の力が深い信頼で結びついた時に生まれる、最悪最強の極大破壊術だ。
しかし決定的に歪な力は、もはや暴走だった。
「オマエニボクノナニガワカル!」
誰に向かって叫んでいるかもわからない魔王の叫びに、ミリアリアは答えた。
「知ったことではありません! でもあなたの全力は受け止めてあげますわ! 精霊王様との特訓の果てにより深く繋がった絆の力! 皆様がた! あの力全部まとめて喰らい尽くします! いいですね!」
チリリと体から闇の粒子があふれ出す。
羊達が一斉に反応してこちらを向いたが、さすがに予想以上のリクエストだったのか、ギョッとしていた。
え、うそでしょ? みたいな顔の羊達に、ミリアリアは微笑む。
「アレを相殺するような術はさすがに何もかも吹き飛ばしかねませんわ。……やりますわよ?」
残念ながら、時間はあまりにも少なかった。
もうまともにその場から動くこともできない魔王は、よろめきながらも最後の一撃を解き放つ。
ミリアリアは扇を振りかざし、気合を入れた。
「……!」
荒れ狂うダークネスをミリアリアは全精霊力で受け止める。
狙いは先ほど羊がやったことを、今度は全員でやるだけだ。
ただミリアリアの誤算はちょっと格好をつけすぎたことと、暴走魔王の放った一撃の威力が思ったよりずっと強力すぎたことだろう。
「……あ、これ―――ちょっとマジヤバですわ!」
血管が浮き出るほどに、ミリアリアは全身に力を込めたが、それでも漏れ出る衝撃が抑えられない。
集中した大きすぎる闇の力は相応の威力をぶちまけた。
「ぬおおおお! なんてことしてくれたんだ!」
ダークは迫りくる大威力の精霊術を押さえるために、展開していた結界術に全力をつぎ込んだ。
死ぬほど頑張らないと、マジで死ぬ!
かつての自分よりも遥かに恐ろしい密度の闇が、目の前に迫っていた。
ミリアリア自身すら生きていられるかどうか定かではないほどの巨大精霊術を前に、ダークには一欠けらさえも、余裕はなかった。
全力を尽くしてなお足りない。
結界の維持を最優先。
確保したチャッピーがすぐわきで応援するように鳴き声を上げていた。
そう心配するなチャッピー。
なんとしても、これは我が名に懸けて抑え込んで見せる。
「うおおおお! 根性!」
こんなことならまずい汁でも何でも飲んでおけばよかった!
だってまずかったんだもん!
ダークはちょっぴり涙目だった。