悪役姫は過去の過ちに直面する。
「あ、アレは……」
「……ああ、アレは」
「クーン……」
鼻を鳴らすチャッピーの声が、非難の声に聞こえる。
白日の下にさらされた鎧は、高笑いしながら足下にいるミリアリア達を見下し、バカみたいな精霊力をまき散らしていた。
「なんだか……すごいパワーアップしてません? あんなに精霊力が上がるものですの?」
「ああ、上がるだろうさ。アレを使えば……」
「そう……ですわね。アレを使えば当然ですか」
「ハハハハハハ! 素晴らしい! これで寄生虫のような真似をせずに済む! まずは手始めに……力試しとして、この城の連中を塵にするとしようか!」
ああ、いきなり大きな力を手にして気分まで大きくなってしまったか。
魔王だし元々そう言う素養にあふれていたに違いない。
まぁわかる。
あの作品を手にすれば、そう言う気分にもなるだろう。
かつてミリアリアにはハマっていたことがあった。
レベリングを終え、さてやりこむかとミリアリアが始めたのは、特殊な素材の収集である。
特に鉱石はいくらあっても腐ることはないだろうと、毎日日課となるほどにやりこんだのは、メタルプリンプリン狩りである。
その結果生まれた一つが―――アレだった。
燐光を纏うそのボディはフル精霊鋼製の一品もの。
更にはこの国最高の職人と、この国最高峰の闇の精霊術師によって作られたとんでもなく高度な代物である。
着こなすことが出来れば、たとえレベル1だとしても、ラスボスすらひねり潰せるに違いない。
ミリアリアはアノ鎧がそれだけの力を秘めていることをよく知っていた。
それはそうだ。
アレはミリアリアが苦労の末にこっそり作った最高傑作―――の試作品なのだから。
「アレ、前に作ってましたわよね? ダーク精霊鋼ボディの試作機……」
「……うん。ノリノリで作ったが、デカすぎて色々まずいと気が付いてお蔵入りになった奴だ」
「そう……でしたわね。あなたの部屋に運んで、封印したんでしたわ」
「そうだ。いやまさか、こんなことになるなんて。ダンジョンを破壊して出てくるとは……強引なことをするものだな」
「ま、まったくですわね」
いやこれはやられた。
まさかアレに乗り移ることが出来るとは誤算である。
巨大鎧、ダークの新しいボディ製造プロジェクトにおいて、ゼロ号が封印された理由は実に単純だった。
偏にデカすぎたから。
アレが動かせたとしても、出歩けもしなければ意味がない。
ずっこけただけでも家が潰れてしまうような代物を乗り回したら大変なことになるだろう。
精霊鋼を大量に利用したことで生じる桁外れのパワーも、不採用の原因だった。
「なんで作る前に気が付かなかったんだろう?」
「……素材を集めすぎて、収納を圧迫していましたし……。まぁ若気の至りですわ」
「かっこいいことはかっこいいのだがなぁ」
「でしょう? でも鍛冶屋のアーノルドもここぞとばかりに暴走したのも悪いんですわよ?」
「クーン……」
ああそんな目で見ないでね? チャッピー? わかってるから。
皆等しく悪い、それがミリアリアの結論だった。