悪役姫は突入する。
「見つけましたわよ! さぁフィナーレですわ!」
やって来た階層は地下50階。
元々ダークが封印されていた、記念すべき場所だった。
今もまだ硬い扉に閉ざされているその場所の封印はすでに解けていたが、立派なダンジョンの中心部である。
「もはやすべてが懐かしいですわね!」
「ああ。もはや嫌がらせにしか思えない……なぜよりにもよってここに逃げ込むんだ?」
確かに。ダークに精神的ダメージを与えるという意味では、これ以上ない逃げ場所だった。
「確かにダークの引きこもり部屋とは意表を突かれましたわ」
「コラ。引きこもり部屋とか言うな」
「そんなに不機嫌そうにしないでくださいなダーク。思い出深いことには変わりありませんわ。ところで……今この部屋ってどうなっているんだったかしら? 前のこと過ぎてちょっと記憶がないのだけれど?」
最後にここに来たのは一体いつくらいの事だっただろう?
ダークが仲間に加わってからも、起点になりやすいこの部屋はちょくちょく利用していたはずだ。
特に闇の気配が濃くて、ミリアリアの精神力もよく回復するし、他のモンスターもダークに気を使っているのか寄ってこず、セーフルームにも使えて色々と捗ったのである。
しかしダークもまた首を傾げた。
「ああ、ここはな……そう言えば何だったか?」
「色々実験とかしていた気がするんですが……まぁ色々やりましたからね」
つまるところ誰も知らない秘密の空間は、第一王女には都合が良すぎたわけだ。
「まぁ。入れば思い出しますわね!」
「そうだな! 気合を入れろよチャッピー!」
「キャン!」
パーティーメンバーの気合の入った声を聴きながら、ミリアリアは扉を開ける。
だが扉を開けた瞬間、部屋の中にぼんやりと漂う影を見つけてミリアリアは表情を引き締めた。
アレが魔王の魂か。
こうして相対してみるとずいぶんと弱々しい。
ただ陽炎のように揺れる魔王はもう逃げる様子はなく、こちらに意識を向けると愉快そうに笑っていた。
「よく来たな。……喜べ、お前は新たな魔王の誕生に立ち会うことになる」
わけのわからないことを言う魔王に、ミリアリアは鼻を鳴らして、扇を突き付けた。
「馬鹿なこと言ってないでさっさと成仏しなさいな。さもないと強制的にアンクラシアですわよ?」
「おお、怖いな。……だが、そんなことをいつまで言っていられるかな?」
不穏な言葉を残す魔王の気配が薄まってゆく。
逃げ出したのかと思ったがそう言うことでもなく、ミリアリアは意味が分からなかった。
「いえ、なんですの? 何かに入り込んだような?」
気配が入り込んだのは、背後にある大きな布の中だった。
あれは何だったか? だが猛烈に覚えがあるそれを見てミリアリアは眉間に皺を寄せる。
ただ、次の瞬間に布の中から放たれる強力な闇の気配は、ダンジョン全体を震わせた。
「え?」
「おい! なにかマズイぞ!」
「と、とにかく! いったん逃げますわよ! テレポート!」
ミリアリア達は崩れ始めたダンジョンから撤退する。
そして外に脱出した瞬間、王城が砕けて地下から巨大な人型が姿を現した。
「な、なんだあれは!」
誰かが叫ぶ。
それも無理はなかった。
だって城にも匹敵する大きさのあんな鎧が身に纏えるわけもなく、動いているなら化け物にしか見えないだろう。
「この精霊力は……なんだ、普通じゃない」
震えているのは、精霊術師だろう。
確かにあの鎧から感じる精霊力は魔王のモノすら遥かに超えていて、誰でも感じることが出来るはずだった。
どう見ても化け物。そんなモノが崩れた城の地下から出てくればこの世の終わりだと思っても無理はない。
ないのだが―――ミリアリアだけが、驚く理由がまるで違う。
「……!」
ミリアリアはその全貌を見て、ただ一人滝のような汗を流していた。