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魔王は導かれる。

 思えばケチの付き始めはどこだったのか?


 考えてみれば、そうあれは、ライラの体を使って女王クリスタニアの襲撃に成功した時の話である。


 魔王はある時ライラの意識を乗っ取り、クリスタニアをこの地下に呼び出すことに成功した。



「よく来てくれました、お母様……」


「お母様と呼ぶのは止めなさい、ライラ」


「これは申しわけありません女王陛下。しかし……どうしても直接お話したいことがあったのです」


「そうか。……ミリアリアの事だな。ここでなら、少しは話すことが出来るだろう」


 呼び出した手紙には、ライラと、そしてクリスタニアが気にかけていた人物。ミリアリアと言う姫について綴った。


 そしてこれが効果抜群で、クリスタニアは驚くほどたやすく呼び出しに応じ、都合の良いことに人目まで避けて、この場を用意した。


 魔王にしてみたらすべてが好都合で、ここまでは笑いが止まらなかった。


「こんな場所が城にあったのですね」


「王族に伝わる迷宮の入り口だ。封印のカギで閉ざされているが……いつかお前に託されるだろう」


「そうですか……では―――」


 だから魔王は動いた。


「今すぐにいただくと致しましょう」


「!」


 ライラの突き出したナイフは、クリスタニアに深々と突き刺された。


「油断したな……やはり自分の娘には警戒心も薄れるか?」


「!……お前は、いったい」


 口から血を吐き、クリスタニアの体がグラリと揺れる。


 しかし仕留めたかに思われたクリスタニアの体は、その瞬間まばゆい光に包まれて、現れた結晶の中に封じ込められた。


「なに!」


 強烈な光の精霊の加護を感じて、ライラを操る魔王は飛び退く。


 それが延命を目的とした光の精霊術だと気が付いて、魔王は舌打ちした。


 しかしナイフにはあらかじめたっぷりと闇の呪いを込めてあった。


 これならばいかに強力な光の精霊の加護があろうとも、致命傷を与えられる。


「何をしても無駄だ……光の精霊神。契約者がその状態ではまともな術も使えまい。もはやお前にはどうすることもできんさ」


 このまま放置してもそのうちクリスタニアは死ぬだろう。


 だがいつかではなくクリスタニアには今ここで確実に死んでもらわなければならない。


 魔王がとどめを刺そうと、闇の精霊術を放とうとした時―――そいつは現れた。


「キャン!」


「!」


 魔王は咄嗟に反応はしたが、防御など無駄だった。


「ぬぐぅ!」


 小さな塊が恐ろしい勢いで飛んできたと思ったら、気が付くと壁に叩きつけられていた。


 あまりにも大きすぎる衝撃に気が遠くなる。


 それでも何とか意識を保っていられたのは、防御がギリギリ間に合ったからだ。


「な、何が起こった!」


 魔王は霞む視界で、小さな犬の姿を見た。


「な、なんだ? い、犬? こいつがやったのか?」


「キャン!」


 何をするんだ! とでも言いたげな小さな犬の抗議に魔王は眉間に皺を寄せた。


「な、なんだ意味が分からない。こんな獣のどこにこんなパワーが? ……だがいい度胸だ。この我に喧嘩を売るとは覚悟はできているんだろうな?」


 何が起こったかはわからないが、不意をつかれたことには違いない。


 おそらくこのチビを囮に影からコソコソ狙う護衛でもいたのだろう。


 流石クリスタニア、強かである。


 ならばこの囮を早々に出来るだけ残虐に始末し、これほどの屈辱を味合わせてくれた愚か者をあぶりだすとしよう。


「まったく、面倒な……」


 魔王は闇の術をナイフに集中して振り上げる。


 する手目の前の犬は低く唸り一声鳴いたと思ったら―――魔王は吹き飛んでいた。


「ガッハ!」


 壁にめり込みながら、魔王はようやく気が付いた。


「……お前がこれをやっているのか?」


 正面から放たれたのは間違いなく犬が放った技だった。


 その声を衝撃波としてぶつけてきた犬からは、膨大な精霊力が溢れ、恐ろしい殺気が放たれていた。


 魔王は、怯える。


 取るに足りない小動物にしか見えないそれは、確実に殺気だけならばクリスタニア以上だったのだ。


 しかし見た目とは、重要だった。


 クリスタニアに負けることはあっても、犬に負ける事なんて許されるわけがない。


 深刻なダメージに鞭打って、魔王は立ち上がる。


「ふざけおって……こんなところで負けられるか!」


「キャン!」


 今度は手加減抜きにぶつかり合う犬と魔王。


 その結果は―――魔王の敗北だった。


 ボコボコである。



 命からがら地下から逃げて来たことは、魔王の歴史の中でも五指に入る最大の屈辱だった。


 そしてあのミリアリアとの対峙―――アレはもう正直恥とも言えない。


 ただの人間。いくら闇の素養に恵まれていようと、自分の敵ではない、そう思っていた。


 だがあれはもう人間とかそういう次元ではない。


 恐怖にかられた魔王は、無意識に闇の気配に惹かれて、城の地下へと逃げ出した。


 ただ目先の安全を求めて、暗い方へ暗い方へとその中心に向かう。


 そこは恐ろしい迷宮だった。


 何でこんなことになったのかわからないが、あまりにも強すぎる闇の気配が充満している。


 だがこの力に魔王はどこか懐かしさを感じた。


 そして魔王は、まるで導かれるようにその場所へたどり着いた。


「……ここは。なんだ?」


 闇の中心。


 そう思われる場所にはただがらんと広い部屋があった。


 ただ何かとんでもないものが戦った戦闘跡が、生々しく残り、砕けた玉座がそこにある。


 だが、部屋にあったのはそれだけではなかった。


「これは……素晴らしい」


 部屋に鎮座するそれを見た魔王は魂を掴まれたような感覚に陥った。


 すさまじい力を内包していると一目でわかる。


 そして早く器を見つけなければ消滅してしまう魔王にとって、それはこれ以上ないほどに都合がいいものだった。


「ああ……小娘共の体などもういらん。これさえあれば……世界など我一人で滅ぼせる!」


 勝利を確信した高笑いはダンジョン中に響き渡った。


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