悪役姫は鍵を開ける。
疲労がピークに達して、眠るクリスタニアをその場に寝かせ、布団を術で作り出すと、ミリアリアはほっと息を吐いた。
「なんか、危なかったですわね……。正直魔王を相手にするよりドッと疲れました」
「なんてこと言うんですかミリアリア様。ダメですよ? メッ!」
「だって……仕方ないでしょう? 気まずいからってぶっ飛ばせるわけもありませんし……」
「何でもかんでもぶっ飛ばしたらダメだぞ?」
「くぅん……」
「わかってますわよ。軽いジョークですわ」
原作キャラ達は、最終的に殴り合っていたけどねとは言わないでおこう。
今度こそ脳みそ筋肉扱いされそうな気がする。
いやまぁもう手遅れな気もするが、これから挽回しようとする姿勢は大切である。
しかしミリアリアも、多少なり混乱しているところはあった。
時期的にはかなり早いはずなのに、ここまで進行が進んでいるとは思わなかった。
どうやらミリアリアがいなくなった弊害は思っていた以上に大きいらしい。
まるで物語が、悪役を求めて暴走しているようだと、ミリアリアは嫌な想像に眉をしかめた。
だが解決方法は決まっていた。
逃げた魔王を今度こそ倒す。その魔王はたいして強くもなく、今は完膚なきまでに弱らせて、自分のホームとも言える場所に逃げ込んでいるのだから、ミリアリアには精神的に余裕があった。
「お母様の救出、助かりましたわ。さてさっさと片付けてしまいましょうか?」
ミリアリアは礼を言い、気合を入れて地下に続く扉を睨む。
まさか正規の方法でこの扉を開ける日がこようとは夢にも思わなかった。
「チャッピー。アイツを追いますわよ、あなたの鼻にも期待していますからね?」
「きゃん!」
長き封印を解かれ、重い扉はゆっくりと開く。
ただし、中身を熟知しているダンジョンの中ははっきり言って庭である。
「こんな場所に逃げ込んだところで無駄ですわ」
「ああ、どこへ逃げようと無駄だな」
「きゃんきゃん!」
頼もしい仲間たちと共に、ミリアリアはダンジョンの中に散歩をするように足を踏み入れた。