悪役姫は取り逃がす。
怒りでイライラしながら、ミリアリアは地下へ向かっていた。
探索がてら被害を確かめながら進めば、城内はほぼ洗脳によって占領状態。
ライラは乗っ取られ、お母様までいないらしい。
いくらなんでもしてやられすぎなハミング王国には、ミリアリアもがっかりだ。
そして消滅寸前まで追い込んでいたというのに、逃がした自分も許せない。
それが良くなかったのだろう。
ミリアリアは普段外に漏れないように抑え込んでいる精霊力が駄々洩れだった。
地下迷宮の扉に行きついた時、全員の視線に怯えが混じっていることに気が付いて、ミリアリアは慌てて精霊力を引っ込めた。
「これは恥ずかしいところを見られてしまいましたわ。ごきげんよう」
お漏らしなんてはしたない。
ミリアリアは扇を広げてホホホとごまかし笑いを浮かべた。
「キャン!」
「チャッピー!」
そして久しぶりに会った仲間の顔に、ミリアリアは歩み寄ると、思うさまわしゃわしゃしてあげる。
おお……可愛いなチャッピー。見た目は完全にマメシバである。
ミリアリアは思うままにチャッピーの頭をなでて、荒んだ気分を浄化した。
アニマルテラピーの確かな効果を実感しながら、先にいたメンツに改めて尋ねた。
「こっちに変な悪霊来ませんでした? 危ない奴なんですけど?」
「ああ来たな。さっきまでそこに……いないな?」
「あら? 逃がしましたの?」
「いや、お前がやたら威圧しながらくるのが悪い。ずいぶん弱っているようだったから油断した」
「くぅん」
「いいんですわよチャッピー。もはや袋のネズミですわ」
落ち込むチャッピーをミリアリアは再びわしゃわしゃ撫でる。
これは中々面倒くさいことになったが、追跡はしている。
後は追い詰めて決着をつければすべて終わる。
「でもよりによって、ここに逃げ込むとは……もう終わりかもしれませんわね」
「それはそうかもしれんな」
ただここから先に逃げ込むのは、予想外であり危険でもある。
それは魔王にとっても同じ事だった。
地下からさらに続く最難関ダンジョン「闇の墳墓」は魔王なんて足元にも及ばないモンスターの巣窟なのだから。
あんな状態の魔王が足を踏み入れて無事で済むとは思えない。
それよりもと、ミリアリアは結構な大問題の直面していた。
「……」
意識を失っていたらしいお母様の目が開く。
パチリと開いた大きな目は、すかさずミリアリアを捕らえていた。