悪役姫は不覚をとる。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……な、なん何だお前は! お前! 中に何を飼っている!!!!!!!!」
「まぁ飼うなんて失敬な。皆とてもフランクなわたくしのファンですわよ?」
「わ、わけのわからないことを! 危うく飲まれかけたんだぞ! この我が!」
「そりゃあ……あんなに敵意満々でマウントとってたらダメですわよ。ただでさえわたくし達は誤解されやすいんですから。人当たりはソフトにしないと叩かれまくりですわよ?」
「……!」
何言ってんだこいつという視線を感じるがスルーである。
それよりも、これですべて思惑通りに言ったことを喜ぶべきだろう。
これでこいつは無防備だ。
ミリアリアは自分の体から出た魔王の魂を、ガシリと素手で捕まえた。
鷲掴みである。
ミリアリアにがっちり魂を握られた魔王はジタバタしていたが、抜け出すことなんて叶わない。
「あなたのハートをがっちりキャッチといったところですわね」
「馬鹿な! なぜ掴める!」
「ハートを掴むなんて、美少女の嗜みですわ!」
「ハートじゃない! なぜ霊体の我を掴んでいる!」
「ああ、そっちですか? 術の応用以外ありますの? 自分だって死んでるくせにしゃべっているじゃありませんか。反則もいいところですわ」
霊やら、悪魔やらちょっと不気味なものはだいたい闇属性を扱えればどうにかなる。
とっても便利な術、それが闇なので覚えて帰ってもらいたい。
「ぐ! こんなところで―――終われるものか!」
「!」
もはや抵抗などできないと、冷ややかに見下していたミリアリアは、目の端に飛び込んできた人影を見て完全に意表をつかれた。
「ライラ!」
飛び掛かって来た妹のライラに、ミリアリアは咄嗟に反応した。
白目をむいてヒロインにあるまじき顔のライラは、術で操られているようだった。
「ちょっと荒っぽくいきますわよ!」
だが操られていると言っても憑りつかれていないのならタダの術。同系統なら解呪は可能!
ミリアリアはライラの頭にガツンと術を叩きつけ、その闇を祓う。
だがその瞬間は確実に隙になってしまった。
気を失ったライラを抱き留めたはいいが、掴んでいた魔王はするりとミリアリアの手を抜け出してしまった。
「くぬ! こざかしい! 逃がしませんわよ!」
「貴様! これで終わったと思うなよ!」
捨て台詞を残して、逃走した魔王を前に、ミリアリアはぬぐぐと唇を噛んだ。
まさかしてやられるとは思わなかった。
ミリアリア一生の不覚である。
だが、魔王に対抗出来るとわかったことは収穫だった。
そして、ミリアリアはすでに魔王の魂の波長はがっちりと掴んでいた。
「気配は下? 逃げ場なんてないですわ」
城の地下と言えば、面倒な場所が思い浮かぶ。
隠しダンジョン闇の墳墓。
因縁あさからぬ懐かしき迷宮に、ミリアリアは胸を高鳴らせた。