メイドさんは地下へ。
その頃別動隊のメアリーとダークは、城の地下ダンジョン。その第一階層にやってきていた。
ミリアリアが城で大立ち回りをしている間、クリスタニア女王の安否を確認すると言うのが、ミリアリアの作戦である。
何か異変が起きているのは確実。
ならば先に女王クリスタニアにコンタクトを取っておけば、色々と諸々何とかなるはずというのが狙いである。権力とは素晴らしい。
しかし、最悪クリスタニア女王は危機的状況にあるかもしれないから、そこで活躍する予定なのがダークだった。
ビクビクしながら進むメアリーの周囲には霧状になったダークが渦を巻いていた。
「……これ大丈夫ですかね? 私いらなくありません?」
「あのまま待っていてもどうせ危険だ。ならば目の届くところにいるのが良い」
「そ、そうですか? どうにも嫌な予感がしてしょうがないんですが……」
「メアリーよ。心配するな。このダークがついているのだから、何者だろうと恐れるに足りん」
「そ、そうですよね!」
メアリーがダークに励まされながら進んでいると、巨大な水晶のようなものに行き当たった。
「あ、アレは一体……」
メアリーは怯えながら不気味な水晶に近寄ると、中にいる人間の顔を確認して、顔色を蒼白にした。
「ククククリスタニア女王陛下……!な、なぜこんな姿に……」
一方でダークは少年の姿になると、水晶に触れ目を細めた。
「これは……封印だ。強い光の術だな」
「だ、誰がこんなことを?」
「ふむおそらくは光の精霊神……契約者を守ったんだな」
「守ったって……どう見ても閉じ込めてません?」
「いや。この結界は時間を止める。見ろ、ナイフが刺さっている。それだけなら……まぁ精霊神と契約している女王ならば即時に再生できるだろうが、闇の呪いが刃にたっぷり乗っているな。これは古に潰えた術だ。今の術者では解呪は難しいだろうさ」
「えぇ! で、でも女王様ですよ? そんな簡単に!」
「さぁな。だが後れを取ったのは事実だろう。よく今までとどめを刺されなかったものだ」
「そうなんですか?」
「ああ。追い打ちの形跡がない。この結界に歯が立たなかっただけか? それとも何かあったのか?」
「な、何かって何です?」
ダークの低い声に、ゴクリと唾を飲むメアリー。
「例えばだが……もっと恐ろしい何かに出会ったから……とかな」
「……私帰っていいですか?」
「そう言うなメアリー。ここで彼女を救えば、救国の英雄だぞ?」
「それはそうなんですけど……なんというか欲しくなくないですか? その称号? メイドで十分なんですけど?」
「……まぁ、嫌なら。ミリアリアにでも手柄はくれてやればいいさ」
「……ではどうしましょうか?」
「そうだな。いったんこの術を解いて、女王を救出することも可能だ。そうするとお前の協力もなくてはならんが」
「わ、私何もできないと思うんですが?」
「大丈夫だ。我が手助けする。というか人間を通さねばここまで精密な術をどうにかできない。本来術は人間の方が得意なんだぞ?」
「そうなのですか? 精霊神なのに?」
「精霊神なのにとか言うんじゃない。我くらいになれば高度な術も使える。が、それでも限度はあるのだ。でなければ精霊と人間の契約など成立するものか。お互いに利益があるからこそ、契約たり得るのだから」
「な、なるほど」
「我が力を貸せば、お前の体を通じ、結界を解き、ナイフの呪いを解呪できる。そのためにミリアリアはお前と私を一緒に行かせたんだろうさ」
「そ、そうなのですね。が、頑張ります!」
方針が決まり、メアリーも覚悟完了と気合を入れていた。
しかしダークは大きな力を感じて、呟く。
「だが……それはすんなり何の邪魔も入らなければの話だが」
「え?」
メアリーは、寒気を感じて振り返った。
「ぐるるるるる……」
「あ」
メアリーが獣の唸り声を聞いて声を漏らすと―――小さな黒い影が躍り出た。
「ああ、ひょっとして……」
「なんだ?」
いえ別に?
ミリアリアは脳裏に何か過ったがすぐに、それを否定した。
いやいやまさかそんなわけがない。
ミリアリアの知っている子はとてつもなくプリティなのだ。
間違っても化け物なんて形容されるようなことはないはずだった。
「ヘッヘッッヘッヘッヘッヘ」
「「チャッピー!」」
「きゃん!」
ダークとメアリーの声が重なると小さな柴犬のチャッピーは元気よく吠えた。
とある世界ならばマメシバと形容できる小柄な犬は、人懐っこくメアリーの胸に飛び込む。
「チャッピーじゃないですか! 元気にしていましたか?」
「きゃん!」
「こんなところで何をしているのだ?……いや、そうか。お前はクリスタニアを守っていたのだな?」
「きゃんきゃん!」
「やはりそうか! すごいぞチャッピー! 流石我が心の友だ!」
「きゃん!」
ダークに褒められたチャッピーはどこか誇らしげだった。