悪役姫は雷に打たれる。
「はっ!」
ハミング王国第一王女、ミリアリア=ハミングは目覚めた瞬間、世界の真理を見た。
庭で花を見ていたらドンガラガッシャン!
突如として天空から脳天に炸裂した雷に打たれた。
ちょっと中々体験できないエキサイティングなスリルとダメージはミリアリアの意識を飛ばすのに十分だった。
そして目が覚めたミリアリアは、自分の知らない記憶が頭の中にあることに気が付いた。
漠然としているが、確かに存在する知らない謎の記憶。
膨大な情報の中でも衝撃的なのは、自分のいるこの世界がとあるゲームの世界とそっくりだという荒唐無稽な……女性向けシミュレーションRPG「光姫のコンチェルト」をプレイした記憶であった。
「意味不明ですわー……」
ミリアリアは頭を抱えた。
感覚的にはどこからか突然湧いて出たというのがしっくりとくる記憶。
ただ不思議と悪い気はしない。
楽しくも美しい趣味を堪能した、愛と青春の煮詰まった奈落の欠片である。
まぁそれは結構楽しいからいいのだが、問題はこのゲームの内容だろう。
ミリアリアは意識を取り戻して、初めに自分の鏡を見た。
真っ黒なウエーブのかかった長い髪に、ちょっときつめの真っ赤な瞳。
闇の精霊の加護が特別色濃く出た少女は、とあるキャラクターの特徴を的確に押さえていた。
生まれてから何度も見た、自分の顔。
しかしその名前と顔は、このゲームのラスボスであった。
「……」
二度見しても結果は同じである。
かっこよく言えば天才的な才能を持ちながら、恋に溺れ、嫉妬に狂った第一王女。
簡単に説明すると絶大な権力でわがままの限りを尽くし、主人公を苛め抜く悪役。
挙句に魔王にその体を乗っ取られて攻略キャラにズンバラリンと……××されてしまう悪しき女ライバル。
それがこのわたくし、ミリアリア=ハミング人生のダイジェストなのだ。
「いやいやいや……それはさすがにないですわー」
妄想の類だと無視するのは簡単だ。
だがそうするには、妙に真に迫った現実味がある。
ミリアリアは深くため息をつき、そして呟いた。
「そう……わたくし、このままでは破滅するのね」
顔色が青ざめ―――はしたのだが、アンニュイな気分になったのも一瞬の事だった。
悪役王女ミリアリアとどことも知れない異世界の記憶は綺麗に混ざり合い、その瞬間ガッチョンといい感じに弾けたのである。
ミリアリアは俯かずに立ち上がる。
そもそも絶望で俯くような安いプライドは持ち合わせてはいないのだから。
「ホーッホッホッホ! 冗談ではありません! このミリアリア=ハミング! 運命程度に屈するほど弱くはありませんわ!」
高笑いはビックリするほど響き渡る。
何、勝算がまるでないわけじゃない。
それどころか新たに得た知識は確実にミリアリア=ハミングを一段上の領域に昇華させる可能性にあふれているのだから。
「そう! 世界の真理はこの手の中にあるのです!」
宣言し手を伸ばしたこの日から、ミリアリアは雷に打たれて頭がおかしくなったと噂が流れた。
残念ながらミリアリアは頭はいいけどちょっぴりわがままで―――確かに悪役と呼ばれるにふさわしい評判の悪い女児だったのだ。
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