愛の呪い
王太子は屑です。
日間異世界(恋愛) 2021年7月10日 44位 ありがとうございます。
彼女なら大丈夫。
きっと許してくれる。
分かってくれる。
どんな 暴言を吐いても。
どんな 酷い仕打ちをしても。
何度浮気しても。
彼女以外の女を妻に迎えても。
きっと 許してくれる。
きっと 分かってくれる。
私は真実の愛を見つけたのだから。
彼女は強いから
きっと 私を理解して
何も言わなくても、許してくれる。
これが 彼女に対する甘えだと。
彼女との婚約を破棄しても。
犯罪者の焼印をその肩に押しても。
彼女を国外追放しても。
彼女の両親を殺しても。
彼女は私を愛する事を止めないだろう。
彼女は私に愛を誓ったのだから。
その赤い唇で「好きです。愛しています」と言ったのだから。
彼女の私に対する愛は永久なのだから。
だから私は【愛の呪い】をかけた。
彼女が私を愛する限りこの国は繫栄する。
彼女が不幸であればあるほどこの国は豊かになる。
それが王家に伝わる【愛の呪い】
愛する者にかける呪い。
追放された彼女が、たどり着いた小さな村で結婚した。
そう私の影が告げる。
彼女にかけられた呪いが【真実の愛】で解けたと言う。
バカな有り得ない‼
それならば彼女の私に対する【真実の愛】は偽物だったと言うのか‼
そもそも平民などに【真実の愛】など存在しない‼
高貴なる王族の身が【真実の愛】を捧げられるに相応しい。
そのはずだ‼
まさか‼ まさか‼
おのれ‼
尻軽女め‼
許さない‼
私を国を裏切る事など、許せるものか‼
私は影を率いて隣の国に行く。
そこで彼女は一人の若者と共に畑を耕していた。
みすぼらしい服。
農民が着る服だ。
それでも彼女は美しかった。
私には一度も見せたことのない笑顔をその男に見せていた。
心臓を握り潰されるような痛みを感じた。
これは……嫉妬?
久しぶりだなと声を掛ける。
彼女は首を傾げてどちら様ですかと答える。
農夫が知り合いかと尋ねるが、彼女は首を振る。
彼女は私の事を忘れていた。
彼女と農夫は小屋に帰る。
後を追うが。
突然霧に阻まれる。
彼女と農夫を追う事が出来ない。
影達を見ると彼らは何処にもいない。
逸れたのか?
おかしい。
小屋は100mも離れていないはずなのに。
たどり着けない。
気が付けば、いつの間にか地面は砂になっている。
霧が晴れるともう夜だ。
空には満天の星。
それに砂漠と廃墟が広がっているばかりだ。
はめられた‼
誰に?
不意に老婆のひしゃげた笑い声がする。
後ろを振り向くと。
老婆が一人、焚き火の前に座っていた。
愚か者よの。老婆は杖を振る。
シャンシャンと杖の先の金輪が鳴る。
老婆は王太子を嘲り歌う。
___ その昔愚かな王族がいた ___
___ 愚かな王子は聖女に【愛の呪い】をかけた ___
___ 【愛の呪い】は聖女の魔力を吸い、国は栄えた ___
___ 聖女が不幸であればあるほど魔力は吸われ国土は潤う ___
___ それを見て女神は怒り、聖女に掛けられた【愛の呪い】を解いた ___
___ 女神は、愚かな王子が追放した聖女に会いに行った時、国を滅ぼした ___
___ そして女神は王子を100年後の帝国に連れてくる ___
___ 愚かな王子に神の怒りを見せつける為に ___
バカなここが100年後の帝国だと言うのか‼
そうじゃと老婆は笑う。
おのれ‼ 妖怪め‼
私を謀ろうとしても無駄だ‼
私は剣を抜き、老婆に切りかかる。
ひらりと老婆は身をかわす。
襤褸布を脱ぎ捨てると、聖女に似た美しい女が現れた。
___ 傲慢なお前には砂と廃墟が似つかわしい ___
まさか‼ ここが我が国だと言うのか‼
女神は頷くと笑い声と共に消えた。
ただ一人王太子を残して。
王太子は廃墟を突き進む。
月明かりの中、城の中に入る。
城もやはり荒れ果てていたが、玉座の後ろに飾られている旗には見覚えがあった。
本当にここは帝国でローデン城なのか……
がしゃりと何処からか音がした。
振り返ると骸骨の兵士がいる。
ガシャガシャガシャガシャ錆びた鎧を纏い、次々と骸骨の兵が現れる。
穴の開いた目には眼球の代わりに、赤い怨嗟の炎が揺れ。
生者に呪いの眼差しを向ける。
中には冠を被った者までいる。
父上……母上……
ひっ‼
来るな‼ 来るな‼
夜の廃墟に王太子の悲鳴が上がる。
彼を助ける者は何処にもいない。
~ Fin ~
***************************
2021/7/10 『小説家になろう』 どんC
***************************
感想・評価・ブックマーク・誤字報告よろしくお願いします。