2話
数百年前に、勇者とその仲間たちにより、世界は救われ、魔王の呪縛から解放された魔物たちと人間は、平和な日々を過ごしていた。
……そんなある時、突然 魔物が暴走を始める。不思議な石「時の雫」を手にしたネイトと、同じ石を持つキオの二人は、平和な世界を取り戻すために、新たなる旅へと出発した。
「ここは……」
ふと目を開くとネイトは、大量の小箱が積み上げられた、不思議な石造りの部屋に立っていた。ふと左手に固い感触を感じてそちらを見ると、全く覚えのない、金属製の小さな鍵を握っていた。
「これは……小箱でも開けるんかな」
そうつぶやくと突然、目の前の空間が歪む。そして、その歪んだ空間から、黒いフードを目深にかぶった男とも女とも分からない人物が現れた。
「正解!さすがだねー、ネイトちゃん」
初対面のはずなのに名を知られ、その上ちゃん付けで呼ばれてネイトは驚く。が。
「へっへへ、さすが?やっぱ俺って天才なんやな!」
さすがと言われた喜びの方が勝ったようだ。
「あ、そーそー。ボクは王の付き人なんだ。まぁ、付き人さんとでも呼んでね!」
「了解っす付き人さん」
友人のようなノリで来られると、いつものコミュ症も出てくる間がない。何よりだ。
「えーっと、その鍵だったらー……」
付き人は、すぐ横の小箱タワーに手を突っ込む。ネイトの身長(168cm)の二倍をも超えてそうな小箱タワー。それに手を突っ込むなどしたら、思い切り崩れてきそうだが、タワーは崩れるどころか揺れさえもしない。
(……夢やけんか!)
ということにしてネイトは納得した。
「はい、これだね!早速開けてみてよ」
付き人はネイトの持つ鍵と同じ材質の小箱を差し出す。ネイトはそれを受けとると、言われた通り早速鍵を回した。
鍵は音もなく回る。そして、最後にカチッと音がしたかと思うと、その鍵は、さらさらと光となって消えていった。
「そーいえば、この場所って一体……ん?」
付き人に尋ねようとしたとき、突然視界が霞みだす。
「ありがとう、ネイトちゃん。……この場所はね、」
「ネイト、朝ごはん」
キオの声で目を覚ます。そこはテントの中で、外からは魔物の声が聞こえてくる。
「……おはよーキオ」
「おはよー」
二人旅を始めてかれこれ三日。ネイトとキオは、お互い呼び捨てで呼び合うくらいには仲良くなっていた。
「何か夢見てたんやけど……忘れた。やっぱ聖水ってすげぇなー。一瓶200円で、10時間魔物に気付かれんって」
「でも、あと2瓶しかないから、早めに町に着いて買い足さないとだね」
「やな。あ、冷めない内に朝飯食おーぜ。いただきまーす!」
「いただきます」
◇・・・
「よし、出発!」
テントを片付け、いざ聖水をまいた部分の外へ出る。すると魔物たちは、早速ネイトらを認識して襲いかかってきた。
「うぉっ……と!」
「朝から元気だなぁ…」
ネイトとキオはよろづ屋で購入したナイフで魔物と戦う。この三日間で分かったこととして、現在のように周囲にいる魔物との戦闘では、時の雫での変身(?)はできない。そして、能力は普段から使えるようにはなっているが、好きなだけ使えるわけではないようだ。効果の弱いものであれば何度でも使えるし、強力なものであれば、その後使える回数は減る。加えて、能力があとどれくらい使えるかは自分達で何となく分かるようになっているようだ。
「よっし撒いた!」
「それじゃあ、早く進もっか」
何とか魔物たちを撒き、二人は町へと向かう。魔物と戦う際、二人は、出来る限り魔物を傷つけないようにすると決めていた。魔物が暴れているのは、何者かの支配下にあるからで、魔物たち自身の意思ではないと考えているからだ。
「ところでキオ。地図ないんやけど、本当にこっちであっとんの?」
実は一昨日、二人は地図を濡らして使い物にならなくしていた。そう訊かれてキオはうなずく。
「うん。……多分」
「おいおいおいおい!!聞こえた!聞こえたぞ!!何や『多分』って!!」
「だ、大丈夫。えっと……聖なるおぬこ神がこっちって言ってる」
「それネコ!!!」
◇・・・
何やかんやで進むこと三時間と少し。二人は奇跡的に村にたどり着いていた。
「奇跡や……。神はおったんや……」
ネイトはそうつぶやきながら村の宿の方へと向かう。
「ストップネイト。宿代ないよ」
「ピエンやん……」
せっかく村にたどり着いたのだが、宿代(食事なし一人1000円・食事付き1800円)がないため結局その日も野宿が決定した。
「とりあえず何する?俺は、キオのおばあちゃんが言っとった『世界を救う二人』についてが気になるんやけど」
「そうだね。じゃあ、片方は勇者や魔王の伝説について本で調べるために古書店。もう片方は、伝統がありそうな建物で色々お話を……」
「やったら俺本屋!人と話したくない!」
ネイトは、キオよりもコミュ症をこじらせていた。キオはやれやれ……といった風に言う。
「分かった。それじゃあ、お昼の音楽が鳴るくらいにまたここに集合ね」
「おー」
◇・・・
「おじゃましまーす」
村の隅にある古書店。ネイトがそこを訪ねると、レジ番のおじいさんは優しく微笑む。
「いらっしゃい。ゆっくりしておいき」
「ありがとうございます!」
早速ネイトは、伝説関連の本が置かれている棚へ行く。その棚は店の一番奥にあり、ネイトは軽く店内を見回しながらそこまで向かった。どうやら店には客がおらず、現在店内にいるのはネイトとレジ番のおじいさん、それと一匹の黒猫だった。
「あの黒猫、どっかで見たことあるよーな……まぁいーや」
店の一番奥まで行くと、ネイトは目次に「勇者」や「魔王」の言葉が入っているものを探す。
「お、勇者伝説やん、なつかしーなぁ。ちっちゃい頃好きで、よく兄ちゃんと取り合いしとったわ」
ひとりごとを言いながら、それっぽい本を四冊手に取りレジに向かう。……途中、好きな漫画の続きを見つけたので、こっそりそれも持っていった。
「これください」
「はいはい。えーと、二冊で100円の本と、100円の本が二冊、それと漫画が200円だね。消費税が3%だから……合計で、415円になります」
「はーい」
ネイトは会計を済ませると、軽く頭を下げて店を出る。店内の黒猫は、そんなネイトをじっと見ていた。
◇・・・
その頃キオは、村の中心にある神社に来ていた。覗いてみると、どうやら人はいないようで、せっかく来たんだからとキオはお参りをしていくことにした。
(二礼二拍手一礼だったっけ)
うろ覚えの作法を思い出しながら、お賽銭の5円を投げ入れる。お参りを済ませると、どこでなら話を聞けるだろうと考えながら神社を出た。
大根畑の前を通りかかったとき、背後から声をかけられた。
「お姉さん、ティッシュ落としたよ」
振り向くと、キオよりも5つばかし年下風の子どもがティッシュを差し出している。
「あぁ、ありがとう」
「どーいたしまして!じゃあねー」
子どもが手を振りながら去っていくのに手を振り返し、しばらくしてから再び歩き出す。
「いい子だなぁ。最近の子は、道行く人に挨拶もあんまりしないって言うし……」
ティッシュをポケットにしまいながらそうつぶやく。そして今度は、村唯一の宿へやって来た。宿の外の看板には、「お陰さまで創立140年!」と書かれており、もしかしたら神社が建てられる前からあったのかもしれないと思わせるようなオーラをかもし出していた。
「おじゃましまーす…」
声をかけながら宿にあがると、穏和そうなおばあさんが奥からやって来た。
「いらっしゃい。一晩泊まるかい?それとも、夜までかい?」
「あぁ、いえ……えっと、勇者や魔王の伝説に詳しい方がいないかと思って。宿に泊まれるほどのお金はなくて……。すみません」
キオが言うと、おばあさんは「そーかい」と微笑んだ。
「いいんだよ。うちはこんな田舎のボロ宿だからねぇ…お嬢さんみたいに若い子が訪ねてくれるだけで嬉しいんだよ。
ああ、伝説だったね。だったらこの、生まれて98年のおばあちゃんに任せなさい。ほらほら、そこの席にお座りなさいな」
「ありがとうございます!」
おばあさんと向き合う形で椅子に座り、キオは勇者についての話をしてもらう。
「昔、勇者様が魔王を倒した…ってことは知ってるね。その勇者様は、ごくごく一般の青年だったらしいんだよ。それがねぇ、城の占い師の占いから、勝手に勇者にされたらしい」
「へぇ……親の都合で転校させられる、みたいな」
「まぁ、そんな感じだねぇ。
その占いを聞いた王様の命令だから、勇者様もその家族も断れなかったんじゃないかしらね。その代わり、宿代や道具代は王様が支払ってくれたそうよ」
そこは勇者伝説のゲームと違うんだ……と思いながら、キオはうなずく。
「何やかんやあって、勇者様は魔王城へとたどり着く。……ここまでは、わりとよく聞くお話ね」
「ですね。宿代のところは知らなかったけど…」
「うふふ。さて、ここからが、あまり知られてないお話だよ」
ずっと誰かに話したかったのか、おばあさんは少しワクワクしている。
「そのあと……勇者様は、魔王に倒されてしまうのよ。命は奪われなかったけど、ボロボロにされて。
その日の翌日、勇者様が再び魔王城へ向かうと、城はなくなっていた。そして、魔王の姿も、そのすぐ側にいた二人の魔物の姿もなくて……世界は平和になったのよ。
何故魔王たちが姿を消したのかは分からないけど、『世界が平和になったしまぁいっか☆』で終わったらしいわ」
「なんて軽い……」
「それで終わってしまったから、世界はまた……ねぇ」
それではおしまい、とおばあさんは立ち上がる。
「このお話は、わたしのお母さんのおじいさんのお姉さんからずっと語り継がれてきたんですって。またお話が聞きたくなったらいつでもおいで。
もうすぐお昼の音楽が聞こえてくるからね、急いでお行き」
「えっ、もうそんな時間?!あっ、ありがとうございました!」
キオはおばあさんに120度くらい頭を下げると、慌ててネイトとの待ち合わせ場所へと走っていった。
――何故、おばあさんが待ち合わせのことを知っていたかを気にも止めず。
◇・・・
1分間の音楽が止む頃、ネイトは待ち合わせ場所で本を読んでいた。バレたら怒られるため、買った漫画はリュックサックの奥に突っ込み、四冊買った内の一冊である「無慈悲の王」という本を読んでいた。
「『その時、未来の王は笑っていた。両親が深い谷へ落ちて行く様を、それはそれは楽しそうに見ていた』……ふーん、王様やべぇやん」
そう呟いたとき、ちょうどキオがやって来る。走ってきたのだろう、少し息を切らしながら、
「遅くなった……ごめん」
と謝る。
「おー、別にいいぜ。俺、本読んどったし」
「そっか、ごめん。ネイト、何か分かった?」
「おう。あのなー、昔の王様がやべぇってことが分かったぜ」
「そっか……」
二人は村の公園に行き、そこのベンチでおにぎりを食べながら情報交換をする。宿代はないが、おにぎり代はある。
「『若き王は全てを失くした。その代わり、人間を超える力を手に入れた。
……その翌日、王に剣を向けた兵士は消えた。王に怒りを向けた民も消えた。王を、王でなくした国も。
王を裏切った何もかもが、世界から消え去った』……か。
まじで王様やべぇな」
「ネイトそれしか言ってないね。とりあえず分かったのが、この本に載ってる王様が魔王ってことと、勇者は魔王を倒していないってこと……かな」
キオがざっくりまとめたのを聞き、ネイトは本の入った紙袋をじっと見つめる。
「300円と消費税払って分かったのがこれだけかぁ」
「時の雫についても書いてないし……」
「やったら次は、お城について調べてみよーぜ!」
「そーだね。……本買うお金はもうないけど」
二人合わせて所持金は23円である。
「はーぁ、お金欲しいなぁ。バイトとか何かないんかなぁ」
「本当ね…。……よしっ、とりあえず、そろそろ出発しよっか。
そしたら日が暮れる前には次の町に着くと思うし」
「宿には泊まれんけどな」
そうと決まれば早く出発しようと二人は荷物をまとめる。……といっても、何か道具を出していたわけでもないため、おにぎりのゴミを捨てるだけで終わった。
「今思ったんやけどさ、魔物が暴れとんのが魔王のしわざかも分からんし、魔王やったとしてもどこにいるかも分からんのに……何で俺たちウロウロしとんの?」
「……レベル上げ?」
ネイトとキオのぐだぐだな旅は、いつ終わるのだろうか。そんなこんなで村を出ようとすると、一人の子どもが声をかけてくる。
「さっきのお姉さん!と、お友達?」
キオの落としたティッシュを拾ってくれた子どもである。
「さっきの子!どうしたの?あ、この人はただの知り合いだよ」
「えっ何言ってんのキオさん?」
何とも言えない顔をしてキオを見るネイトは無視され、会話は続く。
「あのねー、お姉さん旅してるんでしょ?おれも着いていきたい!」
子どもがキラキラ目を輝かせて言うのが、申し訳なさそうにキオは言う。
「ごめんね。最近は魔物が暴れてて、旅するのは、すっごく危ないんだ。それに、君の家族も心配するから……」
「おれは大丈夫だよ!」
どうしようかとキオが困っていると、何とも言えない顔のネイトは、その顔のまま言う。
「でもな、本当に危ないんよ。もしかしたら魔物に食われるかも……」
「うるさい!おれ、顔のいい男の言うことは聞かない!弾け飛べ!!」
「最近の子ども怖い」
その後、キオが何とか説得すると、子どもはしぶしぶ分かったとうなずいた。
「…ごめんね。また世界が平和になったら、その時は一緒に旅しようね」
「うん。……約束したからな!」
「分かった。約束だね」
二人が指切りするのを見ながらネイトは、「女大好きなんやな……」と子どもに対して思っていた。
「あ、そーだ!あのさあのさ、村の宿屋泊まっていかん?それでからさ、旅の話してよ!」
子どもが言うが、今度は二人とも悲しそうな顔をして答える。
「所持金23円なんだ……」
それを聞くと、子どもは「全然大丈夫!」と笑う。
「宿屋のばーちゃん、おれんばーちゃんやし。ほらほら、泊まっていこーよ!」
二人はお言葉に甘えることにした。
◇・・・
「……あの子、帰ってこないね」
宿の部屋で、キオが言う。少し前、例の子どもが飼い猫を探してくるとのことで部屋から出ていったのだが、もう30分も経っている。
「いつも宿屋の周りにおるけん一人でっち言っとたけど……30分は少し心配やな。ちょっと見に行くか」
「そうだね」
二人は上着を羽織って外に出る。村には外灯が少なく、日の沈んでからはどこもかしこも薄暗い。と、ふと足音が聞こえてきた。
そちらを見ると、例の子どもがパタパタ走っている姿が見える。その前方に黒い影が見えたため、どうやら猫を追っているようだ。しかし。
「あっちって、村の出入口やない?ちょ、急いで追わな!!」
日中でも危険な村の外だが、夜になるとさらに危険が増す。魔物たちの力が強くなるのだ。
村や町などの中は、遥か昔から魔導師たちの力によって特殊な結界が張られているためいつでも安全なのだが、囲いを一歩越えるだけで、即座に魔物が襲いかかってくるのだ。
「おいっ、早く戻っ……は」
「何、あれ……」
子どもより少し遅れて二人は村から出る。
「クグォオオオオォォォ……オ゛、オオ゛、オ゛」
周囲の魔物が、何種類も合体させられ混ぜられたかのような、気味の悪い……とても巨大で、体内から痺れるほどの闇の気をかもし出す化け物が、黒猫を抱えた子どもにゆっくりと、ゆっくりと手を伸ばしていた。
「ッ!!」
ネイトは化け物に手を向け強力な竜巻を発生させる。それに化け物は巻き込まれ、動きを止めた。そして、化け物の動きが止まっている隙にキオは子どもを抱き抱えて救出する。
「ねっ、お姉さん?!」
「大じょ……大丈夫?」
村の入り口で子どもをおろす。キオの問いに、子どもと黒猫はコクコクとうなずいた。
「そっか……良かった。それじゃあ、村に戻ってて。すぐに戻るから」
キオはそう言ってネイトの元へ戻る。
「普通のまんまで竜巻ってまじきついな。吐きそう」
「わりと余裕に見えるんだけど。あの子は……村に戻ったみたい。よし、やるよ!」
二人は時の雫を取り出し、強く握る。目を閉じ、深呼吸。そしてネイトが大声で言う。
「変身っ!!」
すると、時の雫から光が発せられ、二人はそれに包まれた。……光が消えたとき、二人は前回同様、何かよく分からない衣装を身にまとっていた。
「ねぇネイト、『変身っ!!』ってダサいよ。そーいうのは、ベルトがあってポーズがあるからかっこいいんだよ」
「だったら何だよ!『スターマジカルパワー!チェンジアップ!!』とでも言えばいいのか!!」
「そっちもモーションとかブローチがあるから可愛いんだよ」
少し距離があるからと二人が余裕のある会話をしていると、化け物はあっという間に目の前にやって来る。
「あーぃよっと!!」
ネイトは高く跳び、化け物にいくつもの風の刃を食らわせる。
「んー、やっぱ変身してたら能力に限界がない感じがする。永遠に使えそう」
「とか言って、最終決戦のときすっごいギリギリになるんでしょ。この前そーゆーやつ、漫画で読んだよ私」
刃を食らい、化け物はゆらゆら揺れる。……そう、揺れただけである。
「うっそ全然効いてないんやけど?!何、風が効かんの?それとも能力が弱いん?!」
「ちょっとネイトうるさい……よっ!」
あわてふためくネイトに一言、そしてノールックで、キオは化け物に水の槍を飛ばす。
しかし、それは化け物に命中したのみで、ダメージにらなっていないようだった。
「効いてない!!!二話目にして大ピンチやん!ちょ、どーするんキオー!!」
「風も水も効かないのなら、物理あるのみ!!」
主人公のくせしてヘタレなネイトを置いておき、地面を思い切り蹴って、キオは化け物に拳を放つ。
「ブォオオ゛……」
化け物は、グラリと揺れる。
「え?マジか……よっし、やったら俺も続くぜ!スクリューローリング……キーック!!!」
ネイトは高く跳び上がると、刺さる勢いでスクリューローリングキックを放った。
「横文字使ってたらカッコいいと思ってる?ネイト、そーゆーとこ嫌いじゃないよ」
「なるほど、キオはツンデレやな」
刺さりはせず、化け物のボルンボルンなボディーに跳ね返されたネイトだが、変身により身体能力が跳ね上がっているため無事キオの横に着地。そして化け物は、恨めしそうに二人を見る。
「めっちゃ見つめられてる……恋が始まっちゃうの!?はわわ、どーしよぉー!?」
「本当ネイトうるさい。……来るよ!」
化け物は、腕かどうかも分からないモノを振り上げ、二人に向かって落とす。
しかし巨体のせいか動きはとても遅く、たやすくかわすことができた。だが、腕の振り落とされた部分を見ると、地面は割れるどころかボロボロと砕けていた。
「うわ……え、何あれ一発でも当たったらおしまいやん!」
「当たらなければ大丈夫。あのスピードなら、全然かわせるから」
「それをフラグって言うんで、キオ」
ネイトの発言を無視し、キオは化け物に思い切り殴りかかる。……が。
「ッ……!」
声を発する間もなく、キオは化け物の腕に吹き飛ばされた。
「キオ!!」
秒でフラグを回収したキオに気を取られ、ネイトは化け物の腕に気がつかない。いや、気がついたとしても、どうしようもなかったが。
「うがっ……」
化け物は、先ほどのスピードが嘘だったかのように、訳の分からないほどの速さで腕を振り回す。その内の一振りに、ネイトも吹き飛ばされてしまった。
「ゲフッ、カッ……あー、痛い!!」
これもまた変身の効果か、地面を砕くほどの威力を持つ化け物の腕をくらっても、ネイトは動けなくなるほどの怪我はしていない。
「これやったら、多分キオも元気やな」
しかし、どうすれば良いのだろうか。能力を使ってもダメージは与えられず、物理攻撃を仕掛けようにも腕を振り回している化け物に近付けば……まず、近づく前に吹き飛ばされる。
ネイトが微妙な頭をフル回転させていると、先ほど思った通り、大きい怪我は無いキオがやって来た。
「ネイト、大丈夫?」
「おー。……でも、アイツどーすればいいんやろ」
腕を振り回す化け物を見ながらネイトはつぶやく。
「んー…あの子、さっきから腕を振り回すだけで、全く動いてないよね」
「子て。せやな。……あ、もしかして」
ネイトが何かに気づくと、キオはニヤリと口角を上げる。
「その通り。地面に埋めるよ」
ネイトとキオは、化け物の背後に回る。そして、キオは地面に手を当てて集中。ネイトはいつでも風を起こせるように、化け物に手を向ける。その間も化け物は動かず、腕だけを振り回していた。
「……よし、ネイト!」
「おう!大地に沈めっ!!」
ネイトは、キオの合図で化け物の足元に竜巻を発生させる。すると地面が割れ、どろどろになった土の中に、化け物は沈み出す。化け物は、腕を振り回すのをやめて、液状化した地面から抜け出そうともがき出した。
「よっし成功!キオ、さっさと倒して上手い晩飯食おうぜ!!」
「うん!」
もがき、攻撃も防御もできない状態の化け物に、二人は物理で畳み掛ける。
「ヴガ、ァ、ア゛ア゛ア、ア……」
化け物は、呻きながらも、もがくのをやめる。
「光に……還れ!!」
最後の一発。化け物は、淡い光の粒子へと変わり出す。
「アア゛、ァ……イッ、ガ……」
何か声を発し、化け物だった光は、空へと吸い込まれて行く。その光は、星のように瞬きながら、消えていった。
◇・・・
「つっかれたぁ……」
村の宿に戻り、二人はそれぞれの布団に倒れ込む。すると、誰かがトントンと扉を叩いた。
「あーい……どうぞぉ」
ネイトが返事をすると、先ほどの子どもと黒猫が夕食を持って入ってきた。
「お兄さん、お姉さん!おれとイチを助けてくれてありがとう!」
子どもは扉のところのテーブルに食事を置くと、そう言って頭を下げる。黒猫も一緒に頭を下げていた。
「あ、ありがとうなんてそんな……へへへ、どういたしまして!」
「二人に怪我がなくて良かったよ。どういたしまして」
「あ、そーや。俺はネイトって言うんよ」
「私はキオだよ」
食事を終え、三人と一匹は話をする。そこで、今まで自己紹介をしていなかったことに気付き、ネイトとキオが名乗った。
「おれはソール!で、この子がイチ。『いっち』って呼んでるんだー」
「ソールにいっちやな!よし、覚えたぜ!」
「ソールにいっちちゃん、よろしくね。いっちちゃん……んー、いっちゃんでいいかな?」
「にゃーん」
「いいだってー」
それぞれ名乗り終えると、再び三人と一匹は話を続ける。そして夜は更け、翌朝……。
「それじゃあ行ってきます!一晩ありがとうございましたー」
「ご飯、おいしかったです。また今度、ちゃんと宿代持って、遊びに来ます」
ネイトとキオは、宿屋のおばあさんにお礼を言って宿を出た。そして、村の出入り口で、見送りに来てくれたソールにも挨拶をする。
「ありがとう。ソール、いっちゃん。楽しかったよ」
「また遊びに来るけんなー」
「うん!今度はお土産持ってきてね!」
「にゃっ!」
「何と図々しい……が。おう、約束するぜ!」
そうしてネイトとキオは、ソールに手を振って村を出発する。出会いがあり、二話目にしての大ピンチもしのぎ、二人は随分成長したことであろう。二人の旅は、まだまだ続く。
前回に比べて量が増え、戦闘シーンも延びましたが、最後までお疲れさまでした。これから、もっと激しく楽しい物語にできるよう、精進したいと思います。今回は「卍」を入れれず少し残念……(もはや卍中毒)




