第4話:ダンジョン
「ふごっ」
「リリィ!」
白濁した粘液に塗れたリリィを念動力でローションスライムの山から引っ張り出す。「けほ、けほ」と咽せるリリィに詰め寄って、背中をさする。
「服溶けてない?」
「み、みたにゃん?」
「みてない」
「目があってるのにどうしてそんな嘘がつけるにゃ?」
「じゃあ聞くなよ」
「一人だけ裸なんてはずいにゃん! ルルも脱ぐにゃん!」と訳の分からないことを叫ぶリリィの尻に目を、ではなく尻目に、ローションスライムの山がヌルヌルと迫ってくる。飲み込まれたら窒息は免れない。茶色と白の斑模様のしっぽがローションでグジョグジョになっている。
目玉はどう考えても弱点だ。そいつらを念動力で握りつぶす。すると、ローションの山がブルブルと震え、崩壊し始めた。ローションの大波が迫りくる。
「おい、リリィ引っ張るなよ」
「ひ、一人で立てないにゃ~」
足元にしがみ付いてくるリリィを引き離そうとして、滑って仰向きにずっこけた。全裸で全身ドロドロのリリィが、波の立つローションの沼の中を這って、俺の体に覆いかぶさってくる。
「ルルの服もとかすにゃ」
「ばか、やめ」
孤児院からそのまま着ていた麻の服が溶けていくにつれて、リリィの胸の小さなふくらみの感触があらわになっていく。
「き、気持ちいい……かにゃん?」
「う、動くなって」
真っ赤になったリリィの頬に白濁したローションがトロトロと流れて、俺の肩に落ちてくる。
「た、助けてくれたお礼……だにゃん」
リリィはそう言うと俺の首元に顔をうずめてしまった。俺の上から滑り落ちそうになったリリィを衝動的に抱き支える。柔らかいお腹の感触を通じて、お互いの呼吸が速くなっていくのを感じる。
「いやじゃなかったら、教えてほしい。ルルのこと」
リリィは顔を小さく上げて問いかけてきた。
「今かよ」
しばらくリリィの濁りのない茶色い目から視線を逸らして、呼吸を落ち着けた。俺は違う世界から来たこと、超能力が使えること、そして、その世界の超大国の工作員として、暗躍する怪人共と戦っていたことを話した。
「生まれた時から最強なんて、そんなの、ずるいにゃ」
「なんか、ごめん」
彼女はぷいと顔を背けた。そして、ローションの沼の中から、溶けずに残った俺のステータスプレートをたぐり寄せた。
「Lv1でMaxって?」
「たぶん、もうレベル上がらない」
「なんか、ごめんにゃ」
とんでもなくエッチな状況なはずなのに、気まずい沈黙だ。リリィと触れ合っていない肩に当たる風が冷たく感じられた。こういうのは、あんまり得意でない。うつむくリリィのネコミミを撫でた。
「みゃ! み、耳はやめるにゃ〜!」
「俺の乳首見てたろ」
「み、見てないにゃ〜!」
再び顔を赤くしたリリィが暴れて俺から地面に滑り落ちた。
「ふぅ、そういやダンジョン行ってみるか」
「そういやってなんにゃ! てか、ルルも見てんじゃねーにゃ!」
俺は羞恥心を取り戻したリリィの胸から視線を外して、念動力で2人の体からローションを引きはがし、一か所にまとめる。
「どうして平気な顔してるにゃ。逆にむかつくにゃ。初めからそれするにゃ」
「はぁ」とリリィはため息をつく。
「裸でいくの? さすがに危ないと思うのにゃ」
「中に落ちてるだろ」
「ダンジョンをなんだと思ってるのにゃ」
近くの山肌に、いかにもと口を開けている洞窟に足を踏み入れた。もはや太陽光が届かないほど奥へと進んだ。足元もおぼつかない暗闇に、魔法陣が浮かび上がっていた。
「こっから本番だにゃ」
「乗るとワープする?」
「うにゃ」
リリィは俺の手を取って、俺はそれを握り返す。そして、リリィの「いち、にの、にゃ~」の合図で魔法陣に飛び込んだ。
天井を見上げると小さな輝きがプラネタリウムのように広がっていた。
「きれいにゃ~」
「こんなところに星空が?」
「魔石にゃ。ミーもダンジョンは初めてだからちょっと感動にゃ。ふぇ、明るいと恥ずかしいにゃ! こっち見みないでにゃ!」
リリィは左腕で両胸を隠しながら、俺の顔にグイグイと手のひらを押しつけてくる。ふんわりと膨らんだお尻から生えた尻尾がゆらゆらと揺れる。
このドーム状の部屋の奥から呻き声と足音が聞こえてくる。
「何だ?」
「うにゃー……。リ、リザードマンにゃ! リリィは多分一撃で死ねるにゃ」