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第3話:初クエスト


 リリィは跳び退いて、ハゲとの距離をとる。まさに猫っ跳びだ。腰に携えた2本の短剣を腕をクロスして引き抜いた。


「Fランクが俺に勝てるわけねぇだろ」

「やってみにゃきゃ、わかんないにゃ!」


 ハゲ相手にネコミミ少女は引けをとらない。

 リリィは腰を屈めて地面を蹴る。5メートルの距離を猛ダッシュで詰める。


「うりゃー」


 リリィ目掛けハゲの蹴撃が迫る。リリィはそれを避け──


「おっせぇよ、Fラン」


 ギルドの壁に穴がもう一つ増えた。避ける隙も与えられず吹き飛ばされたリリィをお姫様抱っこの要領でキャッチする。


「おい、生きてるか」

「お前こそだにゃ」

「Fランのくせに無理すんなよ」

「お、お前に言われたくないにゃ」

「お前言うなし」


 リリィが蹴られる瞬間にバリアを展開していなかったら、今頃彼女の内臓はボロボロになっていた。思ったより重いリリィを地べたに落としてハゲのもとへ向かう。

 

「おい、ハゲ。よくも俺のパーティメンバーをやってくれたな」

「ああ? 俺またなんかやっちまったか」


 ハゲの踏み込みで薄汚れたフローリングが爆ぜる。上段の正拳突きが音を置き去りにして迫る。


「おっせぇよ、ハゲ」


 ハゲの拳は俺の左手に納まっている。


「Fランがどうして俺の渾身の一撃を」


 格下に渾身の一撃使うな。ハゲの拳を握り潰そうかと思った時、ギルドの扉が勢いよく開いて、神官服の金髪の少女が現れた。


「スカルさん! お待たせしました。って、また喧嘩ですか」

「おせぇぞ、ボケ」

「ごめんなさい、ハ、スカルさん」

「おめえ、ハゲって」

「お怪我はありませんか」


 体感、ハゲの半分ほどの身長しかない少女が俺とリリィに向かって声を掛ける。


「あ、いや、えっと、大丈夫です」

「リリィも大丈夫にゃ」

「え、ほ、本当ですか。あのハ、スカルさんの攻撃を食らって無傷って」

「心配ご無用にゃ。ところで、お名前はなんにゃ? よくあんなやつと一緒にパーティやってるにゃ」

「あれでも私の大事な相棒なので。あ、私はマリアです。ご一緒する機会があればよろしくお願いしますね。あと、最近この辺に竜が──」


 「おい、行くぞ」と声を掛けられたマリアはちょこんとお辞儀をしてテコテコと掛けて行った。あいつら絶対付き合ってるな。本気でぶっ飛ばしたらよかった。


「改めて、ミーはリリィって言うにゃ。言いにくかったらリリでいいにゃ」


 リリィは俺に向き直って手を差し出した。


「俺は、ルルカ・スミス。ルルでいいよ」

「さっきはありがとにゃん。てか、普通に話せるにゃん?」

「さっきは20年ぶりぐらいに人と話したから」

「はは、20年て冗談が下手にゃ。二度と言わないでほしいにゃ」

「リリィも普通に話せるのかにゃん?」

「にゃ……! 解散にゃ! この話し方はヤマネコ族の誇りにゃ」

「わかったにゃん」

「わかってないにゃー! まあ、助けられたしぃ、ちょっとは頑張ってみる……」


 リリィは俯いて小さく「にゃ」と言って赤面させていた。


「あ、あの、イチャついてるところすみませんが、最初のクエストをうけていただけますか」

「い、イチャついてなんかないにゃ!」


 俺はそれっぽい掲示板からそれっぽい羊皮紙を引きちぎって受付嬢に渡した。


「ローションスライムの討伐ですね、承りました!」

「ちょっと──」

「南方に、馬車で半日ほどの距離に新たなダンジョンが発見されました。しかし、そのダンジョンの周りにローションスライムが住み着き調査の妨げとなっております。今回のクエストはそのローションスライムの殲滅です。くれぐれもダンジョンには入らないように。死なれても困りますから」

「わ、わかったにゃ」


 ラッキークエストを引き当てたようだ。ギルドから借り受けたボロボロの馬車で早速クエストに向かう。リリィは御者の心得があるようだ。


「ルルはどうして冒険者になろうと思ったの?」

 「やっぱ恥ずかしいにゃ」とこぼすリリィの横顔が眩しい。俺は冒険者として、細々とやっていきたいという話をした。


「じゃあ、このクエストが終わったら本当に解散なのかにゃ……」


 リリィは元気な女の子という印象だったが、それは表面上のものだったようだ。こんな悲しい顔を見ることになるとは思わなかった。


「いいや、手伝うよ。リリィの、魔王だっけ」

「うん、ありがと。まだまだ弱いけど、リリィ、強くなりたい」

 

 どうして魔王を倒したいのか聞くことは出来なかった。聞いてはいけない気がした。心を読む超能力を仲間に使うのはマナー違反だ。


 それから俺たちが口を聞くことはなく、馬車はクエストの現場に到着した。


「嫌な予感的中にゃ……」

「強くなってこい」

「う、い、行くにゃ。行けばいいんだにゃ!」


 「うーにゃー!」と雄叫びをあげながら、白濁したドロドロの山に突っ込んでいった。血管が浮かんだギョロ目が2つ、ローションスライムの中に埋まっている。


 リリィはスライムに触れる直前で大きく飛び上がり、目玉目掛けて双剣を振り下ろした。だか、ギョロ目はスライムの中をゆらりと移動し、リリィの双剣はスライムの表面をなでた。そして、案の定リリィは白濁スライムに突っ込んだ。



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