第2話:底辺
待ちに待った15才。やっと成人を迎えることができた。中身が20才の元特殊作戦群では、孤児院で友達を作ることは出来なかったが。
隣町の冒険者ギルドだ。早速受付のきれいなお姉さんに話しかける。
「あっ、あっ、えっと」
ん? そういや人間と会話したの前世から何年ぶりだ?
「冒険者希望ですか」
「あっ、あっ、はい」
お姉さんがきれいなせいで上手く話せない。たぶん。
「それでは、このステータスプレートに手をかざしてください」
「えっ、あっ、ちょっと」
ステータスプレート? RPGでよくあるやつか?
恐る恐るタブレット大のステータスプレートに手を触れる。すると、それは淡く光りだして、文字通りステータスを浮かび上がらせた。
ルルカ・スミス Lv.1(Max)
職業 無職
体力 69/100
魔力 0/0
攻撃力 4
防御力 3
魔法攻撃力 0
魔法防御力 0
素早さ 2
知力 5
スキル:無し
アビリティ:無し
「む、無能すぎる……。も、もしかして赤ちゃん!?」
「ば、ばぶ?」
「は?」
「あっ、すみません」
超能力は考慮されていないのか。それより、きれいなお姉さんの素の「は?」は心に刺さる。もう冗談なんて言わないよ絶対。
「あの、申し上げにくいのですが、これでは冒険者の資格を認めることはできません」
「えっ」
「初めて冒険者になられる方はステータスを見て、冒険者ランクをつけさせていただくのですが、あなたのステータスは、その」
「その?」
「最低のFランク以下の底辺です」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「うるさい!」
「あっ、すみません」
クソ。すべてを超能力に頼ってきた人生を恨む。みかんぐらい手で剥けばよかった。
「その、どうしてもと言うなら、パーティで登録して頂ければ、なんとか、こちらも手を尽くします」
「パ、パ」
「パーティは2人以上の冒険者で作られる、ともにクエストこなす相棒のようなものです」
「あ、あい」
「はい。相棒。あ! そういえば、先ほどFランクの冒険者さんが登録されたので、その方とパーティを組んでみてはどうでしょうか? リリィさん! こちらにどうぞ!」
「えっ、えっ」
「みゃみゃ」と小走りで駆けて来たのは、茶色い毛、いや猫毛のネコミミ少女だった。首にFと書かれたステータスプレートをぶら下げている。
「リリになにか用かにゃ?」
「あっ──」
「この……ルルカさんとパーティを組んでいただけませんか。この方はFランクにも満たないステータスしかお持ちにならないので、リリィさんとバランスがいいかと」
全方面に失礼だ。
「みゃ、パーティかにゃー。まあ、いいですにゃ」
いいのかよ。
「えっと、私はリリィにゃ。今日冒険者になった、ヤマネコ族の15才にゃ。目標は魔王討伐にゃ!」
「ま、魔王? えっと、あっ──」
「面白れぇこと言うじゃねーか、野良猫の分際で」
俺の後ろに並んでいた、筋骨隆々すぎるスキンヘッド男がリリィに声を掛ける。
「の、野良猫とはなんにゃ! リリは魔王軍に奪われた故郷をとりかえすのにゃ!」
「へー、そんなしょっぼいFランステータスでか」
スキンヘッドのステータスプレートをチラ見する。
スカル=キッド Lv.34(3300/3400Exp)
職業 Cランク冒険者
体力 322/330
魔力 80/120
攻撃力 434(+200)
防御力 180
魔法攻撃力 100
魔法防御力 80
素早さ 150
知力 -47(-50)
スキル:馬鹿力2・格闘3
アビリティ:剛拳・剛脚・パンプアップ・挑発
馬鹿しか分からん。こいつが進化してゴリラになるのか。
リリィのステータスも横目に拝見する。
リリィ・ド・アルシェ Lv.7(20/700Exp)
職業 Fランク冒険者
体力 99/107
魔力 0/0
攻撃力 7
防御力 5
魔法攻撃力 1
魔法防御力 12
素早さ 22
知力 15
スキル:ネコミミ・隠密1・短剣1
アビリティ:無し
ギフト:青天井
まるで成長してない。さすがFランク。
「いまはFランクでも、いつかは強くなるにゃ。心配ご無用にゃ」
「じゃあ、俺と腕試ししようぜ。俺が勝ったらお前をペットにしてやるよ」
「にゃ!? じゃあ、の使い方も分からない馬鹿はいやにゃ。ハゲこそ動物園がお似合いにゃん」
「殺すぞ、猫」
ハゲのステータスプレートの魔力が減少し、攻撃力が100ほど上昇するのが見えた。左腕が一回り膨らむ。そして、右腕・胸筋と脳味噌以外が肥大化していく。
「にゃ、にゃ、ま、町中でスキルを使っちゃだめって、し、知らないのかにゃ」
「ハゲじゃねぇ。絶対殺──」
「おいハゲ。俺のパーティに手出すんじゃねぇ」
「喋ってんじゃねぇ、ゴミ」
再度ハゲの魔力が減少する。爆裂する右ストレート。腹にまともに喰らって、視界が回転する。気が付くと青空だった。ギルドの壁には人型の穴が開いている。
「みゃっ……。よ、よくもパーティメンバーをヤってくれたにゃ!」