01.ある冬の日
それは、少年、ジルにとって不思議な1日だった。
いや、ジルだけではない。ジルの住む孤児院にいるものは、皆口々に「珍しい」とその花を見ていた。
なんせここはマルセニア王国の隅にある田舎の辺境の地。よっぽどのことがなければ誰も立ち寄らない。だから、孤児院の子供たちしかいないここでは、その花が何故今咲いているのか誰も分からなかった。
「今って、冬だよな?ジルにいちゃん」
「ああ。冬に咲く花か。珍しいな」
ジルはちらりともう一度窓から見えるその花を眺める。冬の花ではないような、暖かな色だ。
何故か目が離せなくなり暫く1人でボーッとその花を眺めていると、茂みの奥から猫が1匹、その花に向かって歩いてくる。真っ白な猫。猫なんていたのか、ここ。なんて考えていると、その猫はその花をプチっと、抜いてくわえた。
「へんな猫…」
俺のその声が聞こえたのか、ピクリと遠くを見た猫が、なぜか俺を見た。
なんだ?なんなんだ?猫の青い瞳が揺れる。そして、森の中へ走り出した。
「ちょ!まて!」
「ジルにいちゃん?!どーしたのー!」
「ちょっと出かけてくる!!先にメシ食っとけ!」
何故かわからない。でも、猫が俺に何かを伝えようとしていた。あの、ブルーの瞳が、ついてこいと、そう言った気がした。
****
猫は本当に俺についてこいと言っているようだった。
見失ったと思えば走るのをやめ俺がくるのを待っている。俺が猫に追いつくと猫はまた森の奥へと走っていく。
なんだ、何があるんだ?一心不乱にその猫を追いかける。すると、何故かそこだけ開けた場所があった。冬のはずなのに、暖かい空気が溢れている。少し疲れて、ゆっくり歩きながらその場所へ向かえば、猫は花をぽとりと落とし、ゆっくりと鳴いた。
「にゃーあ」
そこには、グリフォンに包まれながら眠る、女の子がいた。