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殺人鬼キング  作者: 柘榴アリス
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ディオスとの出会い

飲み物を買いに行ったフレッドを送り出し、ソフィアはベンチに座って待っていた。すると、足元にどこから転がってきたのかボールが当たった。ボールを拾うと、小さい女の子が小走りで駆け寄ってきた。ソフィアは女の子にボールを渡した。女の子は嬉しそうに笑ってボールを受け取った。女の子が戻った先にはその両親らしき二人の男女がいた。ソフィアと目が合うと、笑顔で会釈をした。ソフィアはそれに会釈を返し、女の子に手を振った。親子の姿が見えなくなると、ソフィアは首元に下がった金のペンダントを握り締めた。僅かに痛む胸を落ち着かせるように息を吐く。

―大丈夫。私は…、

「お優しいのですね。」

声を掛けられ、見上げると一人の紳士が立っていた。紳士は、ソフィアと目が合うと、微笑んだ。

「あの…、どちら様でしょう?」

「おや。わたしが誰だかお分かりにならない?」

紳士の言葉にソフィアは戸惑う。本当に見覚えがないのだ。

「ならば…、これで如何でしょう?」

紳士は懐から仮面を取り出し、それを身に付ける。

「その仮面…、さっきのナイフ投げの?」

「ご名答。」

紳士は仮面を外し、茶目っ気たっぷりにソフィアに笑いかける。

「あの、どうしてここに?」

「実は、さっきまで集団に追われていてね。漸く捲いた所なんだ。」

そう言い、紳士は溜息を吐いた。その疲れ切った様子にソフィアはベンチに座るように促した。紳士は礼を言い、ソフィアの隣に座った。

「突然話しかけたりして、申し訳ない。僕の芸を見てくれた客がいたものだから、つい目をやってしまって…、」

「あ、いえ。私は全然気にしていません。でも、私が客の一人だってよく分かりましたね。あんなにたくさんの観客がいたのに…。」

「僕は昔から、人の顔を覚えるのは得意でね。客の顔は覚えるようにしているんだ。それに、君は目立っていたから。」

「目立っていた?」

「初めて見る顔だとも思ったけど…、とても綺麗な子だなと思ったんだ。」

「えっ…、」

「失礼。」

不意に男が手を伸ばした。髪に触れ、さらりと撫で上げられる感触がした。あまりにも近い距離にソフィアの頬が赤く染まる。

「枯葉がついていたので。」

そう言って、男は手に持った葉を見せた。

「あ、ありがとうございます。」

ソフィアはそう答えるのが精一杯だった。

「ああ。そういえば、まだ名乗っていなかったね。僕はディオス。君は?」

「私は…、ソフィアよ。」

「ソフィア…。知恵という名の意味か。いい名前だね。」

「よくご存じね。」

「…昔、同じ名前を持つ親しい人間に教えてもらったんだ。」

目を細めてそう言う男にソフィアは言った。

「へえ。私と同じ名前の方?どんな人なの?」

「君によく似ているよ。その娘は…、一見満たされるように見えていたけど、寂しい目をしていた。さっきの君みたいに。」

「えっ…、」

心臓が嫌な音を立てた。

「な、何を言っているの?私は別に、寂しくなんか…、」

「君は…、欲している。それが欲しくて、欲しくて堪らない。そんな目をしている。まるで、迷える子羊のようだ。何が君をそうさせているんだい?」

「っ、違う!変な言いがかりはやめて!」

否定するソフィアだったがその直後、衝撃音が響いた。何事かと音の方向に視線を向ける。

「な、何が起こったの?」

「待って。僕が様子を見てくるから、君はここにいて。」

そう言って、男は現場に向かった。男の姿が見えなくなった。丁度、そこにソフィアの横を通り過ぎる男がいた。

ーこの、匂い…。

ソフィアは男を見た。男はソフィアに視線を向けることなく、通り過ぎた。帽子を目深に被り、足早に通り過ぎる男からは火薬と薬品の匂いがした。

「ソフィア!大丈夫か?何か事故が起こったって…、」

「フレッド!」

丁度そこにフレッドがこちらにやってきた。

ソフィアは先程の男性の存在が気になりながらもフレッドから状況を聞いた。

あれから、戻ってきたディオスと合流し、ソフィアは現場に行き、怪我人の応急処置や病院と警察の手配をした。ディオスも協力してくれたおかげで迅速に動くことができた。

後処理を片付けたソフィアはディオスに礼を言った。

「今日は本当にありがとう。ディオス。あなたのおかげで被害が大きくならずにすんだわ。」

「僕は別に…。君こそ、女性の身でありながら冷静で的確な行動力だったよ。とても感心した。」

「そんな事は…、」

次期当主ならば当たり前のことだと言おうとしたが貴族であることを彼には明かしていないため、口には出さなかった。

「それよりも。…さっきは失礼なことを言って、申し訳なかった。君があまりにもあの娘と似ていたから…。つい感傷的になってしまって。」

「い、いいの。私も大人げない態度をとってしまって、ごめんなさい。それに…、あなたの言っていることは間違ってはいないから。」

「え?」

「な、何でもないの!ごめんなさい。今のは忘れて。あ、あの…、それじゃあ私はこれで…、」

「待って。」

ディオスはソフィアの手を掴んだ。

「良かったら…、また会ってくれないかな?」


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