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殺人鬼キング  作者: 柘榴アリス
2/22

親友の結婚

「お嬢様?如何なされました?」

「あ…、いいえ。何でもないの。少し…、昔の事を思い出して…。」

花壇に咲いている花を目にして、幼い情景を思い返していたソフィアは心配する侍女に微笑んだ。しかし、すぐにその表情は悲しげなものになる。

―ジャック…。あなたは、一体今はどこに…。

ソフィアが心の中でそう呟いていると…、

「ソフィア。何だか雲行きが怪しいから、そろそろ屋敷に戻らないか?」

付き人のフレッドにそう促され、ソフィアは頷いた。

あの幼い日から、十年の歳月が流れた。ソフィアは貴族の娘として生まれ、次期当主として育てられた。幼い頃は無邪気で天真爛漫な少女だったソフィアは今では、立派な淑女に成長していた。ソフィアと同じ年頃の少年だったフレッドは今ではソフィアより背が高くなり、穏やかで柔和な顔立ちをした青年になっていた。

食事の時間、一人で食事を摂っているソフィアは空いた二つの席に視線を向けた。

「お父様とお母様は?」

「旦那様と奥様は、昨晩からローデンハイム伯爵と商談が長引いたそうだから、屋敷には戻らずにそのまま次の仕事に向かうらしくて…、」

「そう…。」

ソフィアは、フレッドの言葉に頷くと、そのまま食事を続けた。

「ソフィア。何だか今日はぼんやりしているけど、大丈夫か?」

朝食をあまり口にしないソフィアにフレッドが心配そうに声を掛けた。

「あまり食欲がなくて…、」

「だ、大丈夫か!?具合でも悪いのか?もしかして、何かの病気かもしれない!すぐに医者を…!」

「大丈夫よ。昨晩、少し寝酒を飲みすぎてしまっただけで…、」

―どうして…、急に昔のことを思い出してしまったのだろう。

ソフィアはそう思いながら、そのまま普段通りに過ごした。そんなある時、ソフィアが書斎で仕事をしていると、

「ソフィア!アニーから電話が来ているぞ。」

「アニーが?今、行くわ。」

ソフィアは電話を受け取った。

「アニー。どうしたの?」

ソフィアは弾んだ声でアニーに訊ねた。

「え…、ウィルが?まさか…、やっぱり!わあ…、おめでとう!アニー!良かったわね!」

親友からの電話にソフィアは嬉しそうに話していた。

「信じられない…。まさか、アニーが…、」

「ソフィア?」

「聞いて!フレッド!アニーとウィルが結婚するらしいの!」

「ええ!?」

驚くフレッド。ソフィアは満面の笑顔でフレッドに言った。

「もっと、後になるかと思っていたけど…、ウィルがやっと求婚をしたみたいね。二人が結婚をするなんて…。」

ソフィアはアニーもウィルも学生時代からの学友だったので二人が結婚するのはとても喜ばしい知らせだった。結婚のお祝いは何を贈ろうかと考えているソフィアは黒い影が忍び寄っていることに気づかなかった。

不意に、部屋の開け放たれた窓から風が吹いた。テーブルの上に置いてあった新聞紙が風で捲られる。風が止まった時、新聞紙の見出しには巷で騒がれている連続殺人犯について記事が載っていた。

後日、ソフィアとフレッドはアニーの結婚祝いの品を買い求めに街に趣いていた。

「結局こんな時間までプレゼント選びか…。」

「そんな顔しないで。ちゃんと買えたからいいでしょう?」

「そうだとしても、何でここまで買い物長いんだよ。もっと早く決めればいいのに…、」

「二人の結婚祝いなのよ。色々と吟味して決めたかったの。」

「それは…、」

「あら?何かしら?」

買い物を終えたソフィアは人だかりのある集団に目を留めた。それは、曲芸の見世物だった。

「面白そうね。フレッド、ちょっと、見に行きましょう!」

「え、ちょ!ソフィア!」

フレッドが止めるまもなく、ソフィアは人だかりに入っていった。

「では、お次は…、ナイフ投げといきましょう。華麗なナイフ投げの手捌きご覧あれ!」

司会のピエロが紹介した直後、一人の紳士が現れた。仮面を被り、シルクハットの帽子を被った男だ。その男は仮面を被っていても、隠しきれない色気と美貌があった。彼が姿を現した瞬間、女性陣は黄色い声を上げた。その人気ぶりにソフィアは目を瞠った。

「凄い人気…。」

「そ、ソフィア…。き、君って何でそんなに足が速…、」

丁度そこにフレッドがソフィアに追いついた。人ごみを掻き分けてきたせいか息を切らしている。

「フレッド!ナイフ投げが始めるみたいよ。」

そんなフレッドにソフィアは弾んだ声を上げた。

ナイフ投げは、的に当てる形式になっている。ナイフ投げの青年は数本のナイフを目にも止まらぬ速さで投げ、見事に命中させた。

「ソフィア。もう遅いからそろそろ…、」

フレッドの言葉に聞く耳を持たずにソフィアはステージに釘付けになった。次は、空中で回転するナイフをキャッチする芸当だ。投げたナイフは徐々に高くなり、複雑な形をしている。しかし、それらの技を見極めて全てのナイフをキャッチした。

「キャー!ディオス様―!」

「素敵―!」

青年の曲芸が終わった途端、女性の歓声が殺到した。ソフィアは驚きながらも、拍手をした。女性の歓声に仮面の青年は麗しくお辞儀をし、優雅に手を振った。その時、ソフィアは仮面の奥の瞳と一瞬だけ目が合ったような気がした。が、すぐに視線は外れ、青年は観衆の女性たちに手を振った。

―気のせいか…。

そうソフィアは思い直し、それ以上気に留めることはなかった。

曲芸が終わり、まだ先程の余韻に浸っているソフィアは感心したようにフレッドに言った。

「素晴らしかったわ…。あのナイフ投げ…。それに、あの男の人凄い人気なのね。」

「何であんな仮面かぶった怪しい男なんかに夢中になるんだろうな。女って分からないなあ。」

「フレッドったら、ヤキモチ?」

「ば、違うよ!あんな気障で優男なんかに誰がなりたいもんか!」

フレッドの言葉にソフィアはクスクスと笑った。

「ソフィア、喉渇いただろ?何か買ってくるよ。」

「ええ。ありがとう。」


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