破壊
「マイク、シーウォーター!」
ハルカが叫びながらこちらにやって来た。sea water?海の水ってことか?
海水が何だと言うんだ?そうだよ、俺たちは海水に閉じ込められている。
「ほら、マイク。海水を使って上がるんだよ。こ〜ンな感じで」
「ジャージャー」
海水が部屋に入ってくるジェスチャー。
「フーフー」
手の平を上にして上下に振り、部屋の水位が上がって行くことを表現する。
「アップ!アップ!」
自分を指差した後、人差し指を天に伸ばす。指の先は天井。
「I understand! (そうか、わかった!)」
この部屋に外の海水を入れる。部屋が海水で十分満たされれば、我々人間は水に浮いているだけで上まで行けると言うこと。
「お、わかったっぽい?」
ハルカは得意げな顔で微笑んだ。もう一仕事終えた気でいる。
一方マイクは次の段階に行っていた。どこをどうやって穴を開けるか…
床にレイアウトされたアイテムを観察する。
尖っているものはハサミだけだ。
化粧品も多少あるが、これで壁を溶かす劇薬は…作れない。もし作れるなら、顔に塗るだけで大変なことになる。そんなもの販売中止だ。
堅い鈍器になりそうなのは…水筒。
他は役に立たなそうな紙…
「マイク先やっとくよ」
ハルカはハサミを取り出し、壁に打ち付けはじめた。
しかし、最初の一打が中々上手く入らない。壁はかすり傷でハルカを挑発する。
「もーマイク手伝ってよーワタシより力あるでしょ」
文句は言いながら、手を動かし続ける。
ーハルカのやっているのは最悪のパターンだ。もっと最適解があるはず。
部屋を見渡す。一面コンクリートの様な白い壁と床、天井。唯一違う点は奥のガラス張りの水槽…
「If we break something, glassー(壊すとするなら、ガラス)」
壁の厚みは分からないし、意地悪にも途中で鉄板があったら…
そう考えると、割れば確実に海水が部屋に入ってくるガラスだ。
あとはどうやって割るか…
もう一度アイテムたちを観察する。
ーこれか!
「Hey, Haruka」
マイクは作業中のハルカに話し掛ける。
「何?手伝ってくれんの?」
振り向くハルカにそっと、電子辞書の表示盤を見せる。
【私はこれからガラスを割ります】
「え?ガラスってあの部屋の?」
でも水族館のガラスと一緒でしょ?あれめちゃくちゃ頑丈らしいし…
【なので、あなたの靴下を私に貸してください】
「はぁ?変態ぃぃぃ」
気弱なおっさん相手ならまだしも、相手は体格が桁違いの黒人。本能で逃げようとしたが、後ろは壁。逃げ道が無い。
「Wait! Wait!(待て、落ち着け)」
ハルカの誤解を解くべく、駆け足で電子辞書に話の続きを打ち込む。
【あなたの靴下と水筒でハンマーを作ります】
「なんだ、そう言うことかよー」
安心して腰の力が抜ける。
「うん、分かったよ。諭吉3枚ね」
どこで覚えたのか意味深な台詞を発しながら靴を脱ぎ、靴下も脱ぐ。とは言ってもその冗談はマイクには通じない。だから普段人前で出来ないおふざけをやってみた。
裸足になったハルカは立ち上がり、水筒を拾ってハンマーを作る。
靴下の中に水筒を入れ、口ゴム同士を結ぶ。2つの靴下を連結させた手回しハンマーが完成した。
ハルカはブンブン振り回す。これでいいかとマイクの目を見る。マイクは「OK」とサムズアップ。
【それでは、今から作戦を説明します】
どうやって頑丈なガラスを割るか考えてみて下さい。マイクの唯一の持ち物にヒントがあります。




