しょうたい2
どこからか、優雅な音楽の演奏が聴こえてくる。どうやら、別世界に来てしまったらしい。
いや、よく考えたら、いつも行っていると言えば行っている別世界。
ただ、この別世界は、俺には無縁だと思っていたからな。
シャンパンを運んできたウェイターに、皿を渡された。
「あちらからご自由にお持ち下さい」
そう言われて、視線を移したところには、シェフが沢山待機していた。
「では、行くとしよう」
長老の影をポチポチ踏みながらついて行く。
俺からしたら焼き肉なんだが、どこの部位をどのくらいで焼きますか? ソースは、果汁の効いたもの、酸味のあるもの、トリュフをのせるだけにするかetc. どういたします?
食べる前に頭がグラグラしてくる。
とにかく、一番美味しいところを焼いて、一番美味しいソースをかけろや! と俺は心の中で叫び。
「お勧めでお願いします」
と小さな声でオーダーした。
席について食べてみたが、もうなんか味もよくわからん。
長老は、モッチャモッチャ食べていたけどな。
もう、デザートとか食べる気もなく、早く謝罪して帰りたいのに、長老は、岩のように動かん。
もしや、戦国武将の生まれ代わりでは……。
等と妄想しながら、平静を保っていたのだ。
ファンファーレみたいな音楽が鳴り響き、ざわざわと騒がしくなった会場。
いや、もう王様出て来ても驚かんぞと。
白いタキシードを着た若者が、仕立ての良いスーツを着た紳士と並んで登場。
中央の、白大理石で出来たオブジェの前に立った。
おんや?
げふんげふん。
あれは、まさか、あ奴では……。
知らず自分の頬をツネっていた。
紳士が挨拶を始める。
「紳士淑女の皆様。本日は、私、竹之木進明日麿の孫、紗久眞の婚約パーティーに出席いただき誠にありがとうございます」
な、な、なんと! 竹之木進財閥!
「ちょろ、あで、たけの……財閥」
「落ち着かんか。ワシゃチョロ等ではない!」
そこ、どーでもよくね?
冷たい表情を浮かべて、奴は礼をした。
結婚式じゃなく婚約だったのか。じや、婚約者はどこなんだ?
俺がキョロキョロしていると、美しいお召し物を着たお姫様登場!
「「「おーっ」」」
会場からあまりの美しさに、ため息がもれた。
紹介をされていたが、俺の目も耳も全てが、彼女に向けられていたので、聞こえなかった。
あんな女が、世の中には居るんだなあ。
やや、もしや、あの招待状は、俺宛で合っていたんだな。
あ奴も水くさい男だな。ちゃんと話してくれれば俺だって、お祝いぐらいしたのにな。
皆が拍手していたので、俺も盛大に拍手した。
あ奴の挨拶の番になり、いつになく、俺は寛大にニコニコしていた。
「お集まりいただいた皆様に一言申し上げたい。私が、今、夢中なのは、ダメタンだ!」
全員ポカーンである。
俺だって、あ奴が何を言ったのか理解できないでいるし。
長老は、手を額に当てて「あの、馬鹿が」と困惑しているようだ。
「ダメタンって誰なんですかね?」
すると、長老は、俺の事をまじまじと見詰めた。
なんで見られてるんだ?
「お主、名はなんと?」
「嫌だなぁ、デメタンですよ。今更なんですかあ?」
「………」
「………」
「「ハハハハハ」」
あれ? 前にもこの流れが、あったような気がするんだが?
今の会話を聞いて、何故か俺の周りに集まっていた黒子軍団は、散開して行った。
解せん。
結局、この後は、奴の言った相手が誰なのかと、すったもんだと揉めていた。
御曹司って、大変だな。少しは、あ奴に親切にしてやろうと俺は思った。




