これはいったい
準備が出来れば、いつものようにとばされる。
ウェップ。
さて、着いた場所は……なっ。
「おい! 捕まっているぞ。なんでじゃ?」
「さぁ? 観察対象が、この中にいるんじゃないですかね?」
「この中? いったい何を観察するんだ?」
「あ、あそこ、ボロ布かと思ったら、人じゃないですかね」
こ奴のタレ耳が邪魔なので、縛っておいた。
いい仕事したな俺。
俺達がいる場所は、パイプベットの縁の上だ。
そして、そのボロ布は隅の方にあった。
モゾモゾしている。
「あの中は、本当に人なのか? 出てきたら……ドヒャーっ、なんて化け物なんじゃないだろうな」
「化け物ってなぁに? 恐い物?」
目をくりっとさせて聞いてきた。いや、もともと凄く可愛い着ぐるみなんだが、こ奴の裏声も、なんでか可愛いく聞こえるから腹立つなあ。
「そうだよ。口が大きくて歯が剥き出しで、おまけにキバが尖ってるんだ。お前なんて一咬みだ」
「キャー恐い」
ピルピル震えはじめた。
何、か弱さアピールしてんだよ! 俺は騙されないんだからな。
よせ、止めろ! つぶらな瞳をこっち向けんな!
俺は、縛ってしまった耳を解放してやり、撫でてやった。
いかん、いかん、ほだされているじゃないか。
気をしっかり持て。うむ。
「おい! あれ、まさかずっとモゾモゾしているつもりではないよな?」
「難しくて、よくわかんない」
クワーッ。普段のアヤツであれば、ノックアウトしてやるところだが、(当たらないがな)これではなあ。
小首を傾げたりして、なんてラブリーなんだ。
そもそも、この着ぐるみを作った奴は誰なんだ!
そいつが憎い。
対象者は、ボロ布から出てくる気配もなく、時間は過ぎていった。
そして、キィーッ、ガシャンと謎の音と共に、カチャカチャと金属の当たる音が近づいてくる。
「あの音はなんだ?」
「モゴモゴ。何か美味しい匂いがしてくるよ」
「そうかそうか、よしよし」
はっ! またしても、奴の術中に嵌まってしまった。恐るべし。
「食事だ。これでやっと、ボロ布から出てくるな」
キィーッ。小窓を開ける音。
スッと食事のトレーが入ってきて、ガシャンと閉じられた。
いったいどんな奴が入っているのかと、好奇心を膨らませていると、ついに動きが!
ガサササッと近づいて、真っ黒に汚れた細い腕が、ニョキーっと伸びてトレーを引き寄せたのだ。
そして……。
モソモソモソ。
「おい! なんだあれは! 監獄の中の引きこもりなのか?」
「ラビちゃん、オツム弱いからわかんなーい」
なんかイラッとするのに、この容姿。
俺には無理だ。こんな愛らしい(容姿)生き物に、強く言うことなんて出来ない。
「おじさん、ちょっと、あっちに行って確認してくるね。ラビちゃんは良い子で、ここで待ってくれるかな?」
「えー、ラビ待たされんのって、ちょっとねぇー。おっさんが待っててくんない?」
のわっ。なんじゃ、JKきたこれ。
止める間もなく、走って行ってしまう。
俺がハラハラしているのに、ボロ布に潜ったラビは、しばらくしたら戻ってきた。
「なんかあ、ラビのこと見たんだけどー、無視決め込んでやんの。なんかアイツキモくない?」
微妙にJKっぽくないけど、いやいや、元からJKじゃないし。
「ラビたんが無事でよかった」
「なに、あんた、オタクにクラチェン? 超キモい」
なんか、言われた内容にガッカリしてるのか、微妙にJKじゃないことにガッカリしてるのか、わからないのが不思議だった。クスン。
「じゃ、じゃぁ、次はボクタンの番だね」
「ウッワー、引くは」
なんか、裏声じゃなかったような?
とにかく、ボロ布目指してトテチテ走った。羽根いらなくね?
俺がボロ布に入って、目があったのは……。
「「ウギャーーーッ!」」
お互い驚いて、ボロ布から脱出。
「ゴキ、ゴキが出たー!」
檻にしがみついて絶叫する囚人。
一方、俺は。
「出た、出た。白髪のお化け出た」
途中、腰を抜かしたところで、奴が来てそのままワープ。
う、うぇっぷ。
「ご苦労。よくぞ、あの毛布から出してくれた。今回は、衛生法に引っ掛かるからと、困っていたところの依頼だったので、報酬はたんまりじゃぞ。下がってよし」
何が報酬はたんまりじゃ! おかげで俺は、それから悪夢にうなされるようになったというのに。
「いやあ、親ビン。とうとう、きもオタからクラスチェンジして、ゴキオタですね。おめでとうごさいます」
なんだ、そのゴキオタって! そんな言葉誰も使っておらんわ。




