チョコレート工場
俺は、すっかり嫌気がさしたので、長老様にお願いして、とある街のチョコレート工場で、しばらく働くことにした。
負傷して、何らかの後遺症のある者は、他の仕事につくことが出来るのだ。
えっ? 俺の後遺症? んなの決まってる。心の傷だ。
それはさて置き、早速出社。
浮き浮きと、携帯で入室&打刻。
大勢の人が集まった場所には、仕事を指示した掲示板があり、その掲示板で、皆が自分の名を探していた。
俺のは……中央口広場、夢のチョコ作り参加会場作り。となっていた。
会場作りなんて、チョコ作りとなんら関係ないだろう?
まあ、仕方ない。ちまたでは、バレンタインなる行事がもたらされて、大騒ぎだからな。
中央口広場に集合すると、ノートPCを持った社員から指示される。
倉庫から、カートで運ばれたイスを設置するように言われた。
俺は、セッセと運びイスをひろげていった。
が、次から次へと、こんなところにいったい、幾つ並べるつもりなんだよ!
お昼になりやっと食事となったあ。お弁当にお茶かあ……普通だ。
なんかコレも、チョコ作りとは関係ない気がするなあ。
途中から、わらわらと手伝いの人達が来てくれたので、あっという間に終了した。
次は、会場整理に回ってくれと言われたので、テケテケ行った。
すると、工場前には長蛇の列が出来ていたのだ!
今日は、アイドルでも来るのかな?
危なくないように列を分断して、向こう側に誘導したり通行人を守ったり、トイレに行く人の代わりに順番待ちしたりしていた。
ちょっとは、お役に立つのだ。
そんな事をしているうちに、列が動きだしたので、どうやら会場に入れたようだ。
最後の1人が、門に入り終了です。
とりあえず、待機しているように言われたので、設置会場の横に立って見ていたのだ。
舞台に司会者が上がると、花火があがり音楽が流れだした。
「こんにちは~皆さん。今日は、〇〇チョコレート工場主催の、夢のチョコ作りに沢山お集まりいただいて、ありがとうございます。私、司会をさせていただく、△△△局の元アナウンスをしておりました、アンダギューと申します。今日は宜しくお願い致しま~す」
拍手が凄いなあ。人気のアナウンサーだったのかな?
「続いては、審査員の方々をご紹介致します。〇〇チョコレート工場の専務………」
お偉いさんのご紹介だな。俺は、ちょっとしゃがんで、靴ヒモを結んでいた。
「「「キャー!」」」
突然の歓声で、コケた。
耳が痛いなあ……。いったい、どんなアイドルが来たって言うんだよ。
にじにじと舞台に寄ってみれば。そこには……。
ヌオーッ! なんで、アヤツが舞台上に!
しかも、なんだその服は! 革ジャンにサングラス。おにょれは、どこかのスターですか?
こっちに、爽やかスマイルで手を振りやがった。
俺が、変顔を返したら、目を丸くしていたな。
ざまあ。そこで笑うわけにいかないだろう。
しかし、ゾワワとしたのは俺だった。
横の観客から、物凄い視線が浴びせられている。
なな、なんだ。何故俺が睨まれるんだ? 解せん。
「次は、厳選な抽選により、参加して下さる皆様のご紹介です」
さすが、有名アナウンサー。スルスルと進行して、早くも試食となった。
会場のお客様にも、チョコレートをお配りするように言われ、配り歩く。
ところが、どうしたことか、俺はお客様の足を踏みまくったのだ。
だが、幸いにもお客様は皆さん寛容で、顔をひきつらせながらも許してくれたのだ。
良かった。
チョコを食べながら審査待ち。
舞台では、アヤツがお客様と写メや動画を撮っている。
何故だ? 解せん。
∈∈∈∈
審査結果が出たようだ。入賞者の人達は、みんなアヤツにチョコを渡し、ハグしたり握手したり、記念撮影をしたりしている。
またなのか? 解せん。
そうして、優勝者に賞金が渡され、盛大な花火とエンディング音楽が流れた。
やっと終ったぞ。って片付けですか。
遅くまでかかってしまったが、俺は帰宅する。
「お帰り、親ビン。ずいぶん遅くまで仕事なんですね。大変だ」
なんか、ムカつく。
「お前なんで、あそこにいるんだ?」
「そりゃぁ、モデルの仕事をしてましたから、お世話になった事務所の社長の頼みじゃ、断れませんからね」
「も、モデム?」
噛んでしまった俺に、真っ直ぐ答えた。
「俺は、電気信号じゃありませんからね。冗談はさて置き、チョコレート食べませんか? 沢山あるんで、良かったら全部あげます」
なんと!
俺は、喜んでもらった。
アヤツもたまには、役に立つんだなあ。
イソイソついて行って、受け取ろうとしたら、風呂敷包みを背負わされた。
何でじゃ?
するとアヤツは、「親ビン。今日の変顔より、今の顔の方が面白いのは、なんでなんですかね?」
ぬあ? ペタペタと自分の顔を触ってみたが、特に変わったところはないな。
ぬお、俺を騙したな!
肩越しに振り返って、奴を下から見上げた。
「ブーッ、こそ泥親ビン、面白い」
ギャハハハと笑っている。
奴は、俺が可愛いくてしょうがないんだな。
可哀想な奴め。
「親ビン。たま~に、毒や針が入ってる事がありますから、気をつけて下さいね」
なんちゅうもんをくれるんじゃ!




