1話 ありきたりなきっかけとありきたりな転送
昨日、告白してきた娘がいる。非モテ童貞の俺にありえない事だった。舞い上がっていた。注意散漫になっていた。まさか死ぬとは思っていなかった。
今になって思えば半分冗談の罰ゲーム的なあれだったんだろう。お約束だ。非モテ童貞に告白なんてだいたいそんなもんだ。しかも校舎裏なら尚更のこと。そんなテンプレにも気づかず舞い上がっていた俺は赤信号に飛び出した。いや、正確に言うと赤に変わった瞬間の信号機だ。そこに運悪く居眠り運転のトラックが突っ込んできた。お約束すぎる。あれは異世界転送トラックと言うやつなのだろう。なんか魔法陣みたいなの見えたし。しかし、テンプレとは違うことがひとつある。彼女も轢かれたのである。もっとも、トラックが歩道にのりあげたなどではない。俺を助けんとしてタックルをぶちかましてきたのだ。だが到底間に合う訳もなく二人同時にトラックの餌食となったわけだ。ここまではオタク特有の早口でお送りしている。喉が渇いた。
まぁここまでで察しがついたと思うが、俺は異世界にいる。異世界召喚と言うやつだ。召喚された俺は勇者、彼女は聖女として扱われている。これまた絵に書いたテンプレだ。もう大体の流れは読めた。帰れない帰れないと思ってたらひょんなことから自由に行き来できるようになる。もしくはこっちへは帰って来れない、だな。うむ。そんなこんなで旅に出された訳だが。まぁなんとかやっている。
あぁ、もちろん初戦闘だがスライム相手にすら苦戦していた。彼女、スライムが可愛いからって撫でに行ったのよね。案の定やられるよね。服とかされてるよね。童貞俺(と俺のムスコ)ピンチよ。助けろったって全身くまなくスライムでおおわれてんだから攻撃(というか直視)できないし自分自身でなんか魔法かけてくれよ…と言いつつなにかやってみる。
うん、やっぱ弱いねスライム。電気流したら瞬殺よ。…何やら彼女の新しい扉開いてしまったみたいだけど。なーにが「電流きもちいいのぉぉぉ!」だ十分気持ち悪いわ。そういうのは2次元に限る。俺は2次元に生きている(事実)。
あの子は危なっかしいところが多々ある。元々動物好きなのだが、ハウンドウルフにすら「かわいい〜!!」って向かっていくんだよ…良かったね…テイマースキル持ってて。なんとかペットにできたよ。うん。なんで勇者聖女よりペットが強いのかはうん。もうどうだっていいや。頑張ろ。
こんな初戦で始まった俺らの冒険譚だが、戦闘なんてものはしばらく戦ううちに慣れてしまうもんなんだな。今では雑作もない。
この世界のシステム…のようなものだが、完全にゲームである。マジでテンプレやん。よくあるやつやん。…まず、職がある。そして職に関連する武器や魔法のスキル、メインスキルがある。その次にメインスキルを補助するサブスキル。近接職には申し訳程度の遠距離攻撃スキルが付く。続いて先程のテイマースキルのような様々な職の派生スキル。そして最も大切なスキル、転送転生者専用スキルと思われる固有スキル。俺は『全魔の真勇』。ある程度までの全ての属性を使役し、魔法に耐性を持つことができるようになるスキルだ。もちろん常時発動型のパッシブスキルだ。彼女は『女神の祝福』。回復魔法の効能が格段に上がるパッシブスキルだ。ただし自身への効果には影響しない。
今はもう王城で魔王討伐を言い渡され、旅に出てから3週間ほど経過している。素人同然だった立ち回りも、今ではいくつかのパターンを作り、一般兵と同等のレベルにまで成長した。
聖女サマは攻撃スキルがないらしく、常に俺へのバフを切らさずに掛けてくれている。だがもう1人近接職が居ないとバランスが悪い。俺でも多少の回復魔法は使える。しかし、近接は苦手だ。中遠距離、回復はいるが近接が居ない。近接職は基本的にヘイトをとり、味方の被弾を減らす。中遠距離は討ち漏らしにとどめを刺す、ヘイトの分散などである。次の街にはギルドの支部がある。そこで近接職の冒険者を雇う予定である。街まで少し遠いのだが。
次の街までに町を2つ経由しなければならない。ギルドの支部がある町は街として認定される。支部設立にはいくらか制限がある。例えば人口、人口維持率などである。高齢者割合も鑑みる場合もある。
次の町は宿屋と武器屋、雑貨屋があるというRPGものお馴染みのThe最初の町である。
話は変わるが、ギルドでパーティを組むにはいくらか条件がある。
1つ目はギルド加入してからの研修修了の有無だ。これは冒険者の安全を守るという点で設定されている。
2つ目は予め組む予定であるパーティであるか否かである。今回の俺らはこれに当てはまり、元々組む予定でギルドに登録したので、パーティを組むことが出来た。この場合はパーティで研修を受けることとなる。どっかの聖女サマのおかげで2回落ちたが。
3つ目は素行である。これまで問題を起こした者には制限がかけられる。
4つ目はメンバーランクだ。登録してすぐは最低ランクのスチールだ。パーティを組むにはブロンズランク以上が求められる。そのため、ブロンズになるまでは採集クエストや市民の手伝いなどの依頼をこなす。俺たちみたいなひよっこギルダーが旅に出ているのは例外的ではある。旅に出ることが出来るのはパーティを組んでいるもしくはブロンズ+のギルダーだけである。時々スチールのギルダーが出ていくことがあるが、瀕死で戻ってくる。
このように厳しい制約があるのはこの世界に───ただ一部を除き───死に戻りシステムがないからである。プラチナランクのギルダーが一瞬の油断の末に下級モンスターに襲われ、亡骸…しかも白骨化した状態で見つかったと言う。それはつい先日、王都の付近で起こった事件だ。ゲームという単語と感覚は封印しておくべきのようだ。
同時連載3作…どうにも未完になりそうですが頑張ります…