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Lv1の剣  作者: 豚野朗
王都
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リッチ討伐後の夜の事(カノンの心臓)

「立ち上がっても、大丈夫そうだね」とピョイ教授に触診をされながら、ベットから起き上がり、身体にあまり痛みがなく問題ないと言われた。

「うまく新しい心臓も稼働しているようだ。ちょっとぐるぐると歩いてみてくれるかい?」

 ピョイ教授にいわれるまま戦いの後のぐちゃぐちゃになっている部屋の中を歩く。


「気分が悪いとか力が入らないとかはない?いつも通りにあるけているかな?」

「はい。いつも通りです」

 歩いているとちらちらと目に入る永遠に動かないカノンの身体が目に入り、心がズキズキと頭がそれは心の中にしまっておく。

 カノンの心臓は俺の中に組み込まれたから、もう二度とカノンは動く事はない。

 俺が俺を守れなかったから、カノンは自分から自己犠牲で心臓をくれた。

 俺のせいで……。


「……い、おーい!聞こえているかい?」

「は、はい。聞こえてます」

「ずっと歩いていたら疲れるだろ。もう動作の確認は終わったから、ベットに横になるなり、椅子に座るなりして良いよ」

「はい。じゃあ……」

 俺は近くの横になっていた椅子を起こして、椅子についた土を払い除けて座る。


「アリスの話だともうすぐにでも出発するのだろう。もう少し経過を見ていく方が良いけど、国の一大事なのでそれも言っていられない」

「すみません。片付けとかも手伝えないまま出発する事になって……」

「いやいや、君達のお陰で、魔法都市に蔓延っていた魔王の幹部を倒せただけでもめちゃくちゃありがたいよ。もし君たちがいなかったら、僕たちは今日、死んでいたかもしれない。感謝するのは、こちらの方だよ」

「いや、それは、その、みんなで頑張った結果ですし……」

 真っ直ぐに褒められると、小っ恥ずかしい。


「本当にありがとう。と、話しをカノンの心臓に戻そう」

 ピョイ教授はこほんと咳をする。

「君の左胸にあるカノンの心臓は、知っての通り、僕の作った魔力を無限に生成し続ける物だ」

「知っています。魔力があるって事は、俺も魔法を使えるようになるのでしょうか」

 ピョイ教授の作った魔法の杖も同じような物で、その石に触れると俺の中に魔力が流れて、魔力の少ない俺でも魔法を使えた。

 それで何回かピンチを乗り越えられた。


 しかしピョイ教授は首を横に振る。

「いいや。だからきいただろう。気分は悪くないかと。君が魔力を受けた時、魔力の上限を超えてしまい、魔力酔いをしただろう。でも今はないのだろう」

「確かに、魔力酔いはありません」

「カノンの心臓を埋め込む際に、血を循環させるとかの生命維持のための魔法を仕込んでいる。けど、それだけだと余った魔力で君が魔力酔いになってしまうから、心臓が放つ魔力のギリギリの容量まで色んな魔法を仕込んだ」

「色んな魔法ですか?」

「些細なものさ。常に発動するから、発動しても問題なさそうな回復魔法とか解毒魔法とかだね。まあ、多少健康的になるようなものさ。多少、これからは生き易くなるんじゃないかな。回復魔法もかかっているから、これまでよりは死ぬ危険はなくなるよ」

 あははとピョイ教授が笑う。


 常に回復魔法がかかっているのならば、これまでよりは生き残りやすいだろう。

「それはありがたいですけど、つまりそれって俺が使える魔力は零ってことですか」

「その通り。それとも、常に魔力酔いでいたいのかな」

「魔力酔いは御免ですけど、何も得られていない気がして……」

 カノンを失ったのに、俺は魔力を使えないままで、ちょっと死ににくくなっただけ。

 それがどこか空しく感じてしまう。


「魔王の幹部がこんな場所に現れて、命が助かった。それで十分だと思った方が良い。君は魔王の幹部相手によくやったよ。だから気に病むことはないさ」とピョイ教授が慰めてくれるも、やはりカノンの事を考えると重く考えてしまう。

 はあとため息が出る。

「ほら、お茶でも飲みなさい。落ち込みすぎるのは、身体に毒よ」とアリスが、俺になみなみとお茶が継がれたカップを差し出してきた。

「ありがとう」

 お茶を飲んで、心を落ち着ける。

 温かいものが胃の中に落ちて、徐々に内側から暖かさが広がっていく。ざわざわと揺れていた頭の中が徐々に落ち着く。

 カノンの死からまだ全然時間が経っていないから、心の整理がまだついていない。

 早く整理をつけなければいけない。


「また話を元に戻すけど、カノンの心臓を君の心臓の代わりにしたが、君には魔力は一切備わっていない」

「分かりました。魔法が簡単に使えないのは残念ですけど、魔力酔いがしてしまいかねないのなら仕方ないです。魔法を使いたければ、あの杖を使えば……。あれ、俺が持っていた杖ってどこですか」

 ピョイ教授からもらった魔法を使えると欺くための魔力を放つ杖。

 あれの先端についている石に触れると、魔力を自分の体の中に取り入れて、魔力酔いにはなるが魔法を使える。ただ魔力酔いになると、酷く気分が悪くなるのであまりしたくはない。しかしそれをしないと生き残れない事が多かった。


 ぼろぼろになりながら、進み続けた俺の肩割れのような杖が今は自分の手の中にない。

 周囲を見回すも、荒れた研究室の中で杖は見当たらなかった。

「あの杖か……。あれは……」とピョイ教授が何かを説明しようとした時に、「あの杖はオレがもらったで」という声が唐突に聞こえた。

「その声は……」

 ぼろぼろの扉を開けて、研究室の中に入ってきたのはアカガだった。


「アカガ!無事だったのか。良かった」

「オレの心配をしてくれたんか。本当、優しいなぁ。黒幕の一味に、そんな優しさを向けてくれる奴はそうそういないで」

 軽口をたたきながら、近づいてくる。

「アカガは俺の友達なんだから、心配するなんて当然だろ。それで杖をもらったっていうのは、どういう事なんだ」と俺はアカガに尋ねた。


「僕たちは君たちに説明する義務があるYo!」

 そしてアカガの後ろから入ってきたハイテンションな学長に遮られる。

 踊るようなステップを踏みながら、散らかった研究室を転ばずに進んできた。

「説明ですか」

「そうDa!聞きたいだろう。ゴーレムになった生徒たちのことを」

 学長の言葉を聞いて、俺はゴーレムたちの事を思い出した。


 俺の目の前で、死んだフリョ・リダ以外にもゴーレムにされた生徒たちが暴れていたはずなのだ。

 その人たちがどうなったのか、ピョイ教授から聞けていなかった。

 ゴーレムになった人たちは、元の姿に戻れたのだろうか。


「カノンの件で、途中までしか参加できていなかったから、自分も知らないんだ。それで学長どうでしたか」

「そうね。私の方もこっちで忙しかったから、分からないわね」

 ピョイ教授とアリスも知らないようで、学長の言葉を待っていた。


 学長は立ったまま、はっきりと口にした。

「残念ながら、ゴーレムになった全員の死亡が確認されたZe!」

 無慈悲な一言。

「もともと死んだ存在をゴーレムにしていたから適切な表現がないから、死亡したとするYo!アカガくんのゴーレム作成魔法と魔王の幹部のリッチが合わさってできた特殊な魔法だったZe!それを複製する方法はなかったZe!だからゴーレムが形を維持できず、崩れ去った所で救命作業は断念したYo!」

 学長は変わらぬ口調で言ってはいるが、どこか元気が無さそうに聞こえる。

 そしてどうしようもなく、残酷な結果だった。

 誰もあの魔法を再現できず、ただ見ているしかなかったのだろう。

 きっと俺と同じような無力感に打ちひしがれたことだろう。


「すべてダメでしたか」

「猶予がなかったZe。半日も持たなかったYo。せめて一日あれば、変えられたかもしれないけど、ダメだったZe」

「そうですか。残念です」とピョイ教授が首を振る。


 がくりと肩の力が抜けて、ため息が出る。

 お茶で持ち直した気分が再び下降する。

 魔王の幹部のリッチの被害は、とても大きいようだ。もし最初から最後まで、被害者をカウントしたらどれほどの人数になるのだろうか。

 なんて救われない戦いだったのだろうか。


「それと報告はもう一つあるZe!魔法都市を訪問していたリダ家とその関係者を、アカガくんの証言を元に拘束したZe!まだ聞き取り調査という名目だGa!魔法都市から出られたら、こちらの権力では貴族を捕まえられないから、何としてでもこのまま容疑を確定させて、捕まえたいZe!」

 学長がゴーレムの件から話を変えて、貴族の話になった。

 貴族というのは、なんだろうか。

 リダ家というと、フリョ・リダの名前が思い浮かぶが、どういう関係があるのだろう。まるでその貴族が犯罪をしていたような話しぶりだ。


「尋問は進んでいるのかしら?」とアリスが口をはさんだ。

「残念ながら、さっぱりSa!口を割る気は無しで、だんまりSa!」

「私が行った方が良い?リダ家との関係は確定なのでしょう?」

「アリス様はまだ控えていてYo!まだアリス様の事は気付いていないから、まだ泳がせておきたいZe!もし暴力や権力をふるってきたら、お手伝い願うZe!」

「そう。なら、その時まで任せるわ。私がいられるのも明日までだから、急いでね」

「イエス。もちろんDa!」

「でも良いの。だんまりなんでしょう。どうやってしゃべらせるの?」

 アリスは学長に尋ねた。


「それで、さっきの杖の出番って訳や」

「杖?」

 唐突にアカガが不思議なことを言った。杖が何の役に立つのだろうか。

「黒幕のオレの証言だけじゃ足りないけど、かかわりの深い被害者がいれば、詰めることができるって訳や」

 アカガの言葉が良く分からない。

 被害者というのは、誰だろうか。ぱっと思いつくのは、ゴーレムにされた人たちだけど、さっき学長は全員亡くなったと言っていた。

「ゴーレムにされた人たちは全員亡くなったんじゃないのか?」と聞き返すと、アカガはにやりと笑った。

「いるやろ。唯一の例外が」と不敵な笑みを浮かべる。


「入ってきていいZe!」と学長が外に向けて声を掛ける。

 するとこつんこつんと杖を突く音が響き、その人は入ってきた。

 そして入ってきた人物のその顔には見覚えがあった。

 ゴーレムにされた人たちは全員死んだと報告を受けていたけれど、ゴーレムにされた人たちというのは巨大なゴーレムに改造された人達ということなのだろう。

 だから巨大なゴーレムにされなかった人は、例外だ。


「せ、センダイ!」

 俺は彼の名前を呼んだ。

 唯一彼は俺たちと一緒に行動していたために、ゴーレムにされなかった。

 そして俺たちと一緒に戦って、途中で操られて、戦いから離脱していたはずだ。

 そう、彼だけは例外的にリッチの魔の手から逃れていた。

 そして彼の手には俺の持っていた杖があり、俺が魔法を使うときのように先端の石を掴んでいる。


「ゴーレムの身体が崩れるのは、魔力を失って形を保てなくなるからや。だから魔力を補給してやれば良いんや。普通は魔力を渡すことは無理やけど、これなら魔力を補充できるやろ」と簡単に説明してくれる。

「センダイ、無事だったのか。良かった」

 本当に心からほっとする。

 たった一人でもこの戦いで生き残った被害者がいてよかった。少しは心が軽くなったような気がする。


「ああ、何とかな。途中で記憶が飛んでいて、あまり覚えていないけど、話は全部聞いた。この身体はゴーレムなんだってな……」

「そう……だな……。身体は大丈夫なのか。崩れたりとか調子が悪いとか……」

「それはない。お前の杖のおかげだ」

「いや、それは貰い物だし……。でも本当に良かったよ。また会えて」

 俺はセンダイの手を取って、その人間と変わらない手を力強く握る。


「ああ、これでフリョ・リダたちをあんな目に会わせた奴に、やり返せる。リダの親父がそうなんだろう」

 センダイは般若のような恐ろしい顔をした。

 復讐をしようとしている顔。

 歯を軋らせ、目をにらみつけるように細め、顔を興奮で赤くしていた。

 きっと俺もこんな顔をしているのだろう。だけどそれを俺がたしなめることはできない。なぜなら、俺も魔王に復讐を誓ってしまっているから。


「そうや。オレは父親と一緒にそいつと何回もあっているんや。資金を途中から支援してくれたのも、そいつやで」

「あいつをぶっ殺したら、次はお前だからな、アカガ」とセンダイの憎しみのこもった眼がアカガに向く。

「分かっとるで。尋問が終わるまでは、仲良くしようや。逃げたり隠れたりはせんよ」

 アカガはにやりと笑う。

「ふん。どうだか、いずれ怖くなって逃げるだろ」

 センダイが鼻で笑う。


「ケンカしないで、仲良くしなYo!これから仲良く尋問しに行くんだからSa!」

 学長がアカガとセンダイの間に入り、センダイを宥める。

「これからですか?」

「時間がないんDa!明日になったら、強引に逃げられる可能性があるのSa!だから今日中に決めたいのDa!」

 貴族というものを俺はあまり分かっていないが、そういう面倒くさいものなのだろう。

「さあ、行こうZe!まだ今日は長いのDa!」

 学長が二人の背中を押して、ぼろぼろの研究室から出て行った。


「さてと、カノンの心臓について、最後に君に一つ説明しなきゃいけないことがある」

 ピョイ教授は3人の背中が見えなくなってから、ピョイ教授が口を開いた。

「カノンの心臓について?まだ何かあるんですか?」

「ああ、魔力を使えないと言ったが、逆に魔力を使う方法がある……。これも説明してあげないとと思ってね」

「本当ですか。魔法を使えるようになるってことですか?」

「そうだ、だけど、それを使えば君は死ぬだろうね。簡単に言うと、リセットボタンさ……。すべての魔法を解除して、ただの魔力の放つ石に戻す方法だ」

 それは肉を切らせて骨を断つような危険な方法だった。


「教えてください」

 俺は間髪を入れずに、ピョイ教授に教えを乞う。

 力が手に入るのであれば、どんなものであっても手に入れなければならない。

 もう無力感に打ちのめされたくない。

 しかしピョイ教授は首を横に振った。


「ダメだ。今、教えれば君は安易に使ってしまうだろう。きっと君はどこかで一人で力を使ってしまうだろう。だからその時が来て、使わなければならないと思った時にはアリスに聞きなさい。アリスは作業を見ていたから知っている」

「ええ、分かっているわ」とアリスが頷く。

「だから君とアリスが使うべきだと判断した時、使いなさい」

「でも、アリスがいる時に俺の力なんか必要ないんじゃないですか。アリスがいない時には、どうすれば良いんですか」

 アリスがいない時に、何かできる力が欲しいのに。


「君はそれを今回、何度も乗り越えただろう。君ならばできる。無茶をさせたいために、この話をしている訳じゃないんだ。それならば、こんな話などしない。君が確実に死ぬ方法なんて、教えはしない。ただいつか君が成し遂げなければならない時に、アリスと一緒に力を合わせて欲しい」

 その言葉は正しいかもしれない。

 ピョイ教授は俺の心配をしていて、そして俺の気持ちも最大限理解しようとしてくれている。

 それは分かっているけど、納得できない。


「そんな殺生な。お願いします。教えてください。アリスも教えてくれ」

「ダメだ」「ダメよ」

 二人に一緒にダメと言われる。

「その時になったら、教えてあげるわ」とアリスが言って、俺はそれで納得するしかなかった。

 俺にこの二人を説得できるほどの力があれば……。

自分の命と引き換えにする技を手に入れたぞ。

これで死ぬキャラはいるのだろうか。

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