エリザベスの来襲(対策会議)
「う……うぅ……」ぽろぽろと大粒のなみだを流す。
「そんな大変な想いをしてきたのね。うぅ……、なんて悲しい話なのかしら……。ミコさんもカノンさんも、とても優しい方なのに命を落としてしまうなんて……。ひどい話ですわ……」
アリスが俺のために借りた宿の部屋を突然に訪れたエリザベスを何とか座らせて、話を聞いてもらう事に成功した。そして俺は身の潔白の証明のために、アリスと一緒に旅をした事をこと細かに話聞かせた。
王族の人に高級そうだけど、俺が使うような宿の椅子を使わせるのは心苦しかったが、無理やりにでも聞かせないと俺の命が危ない。
それにここに来る前に話を聞くように釘を刺されていたのか、俺を睨みつけながらも昨日とは打って変わって、すんなりと話を聞いてくれた。
お茶も宿に備え付けの物を下手な手際で作ったものだけど、出したら文句も言わずに飲んでくれた。
するとエリザベスは俺の話を聞いている内に、態度を軟化させ、俺の旅の話に同情してくれるほどにまでなった。
そして俺の話を聞き終わるまでと、それはもう滝のように涙を流した。
「あなたの話は良く分かりました。しくしく……。とても辛い旅をしてきたのですね。それに恋人様まで失っていらしたのですね。失礼しましたわ。アリスお姉さまといかがわしい事をしているなんて、勘違いをしてしまいましたわ」
誤解が解ければ、エリザベスはすんなりと謝ってくれた。
しかも王族なのに、俺に頭まで下げてくれる。
ここまで態度を軟化させてくれるとは思っていなくて、逆にびっくりする。
「い、いえ、誤解が解けたならいいんです。もう処刑とかは、言わないですよね」
「ええ、もちろんよ!ああ、でも勘違いであなたを殺そうとしてしまったなんて、お恥ずかしいわ。何かお詫びをしなければなりませんわね。何かお困りごとはありませんの?何でもいいですのよ。お金はいかがかしら、私も王族の端くれですのよ。あなたをご満足させられるほどの金額を出せますの」
エリザベスは前のめりになりながら、俺に聞いてくる。
「いや、お金はその間に合ってます」
そもそもお金に関しては、アリスから死ぬほどもらえられるらしいから、流石にいらない。
「そう。では何かほかにありませんの?土地とか家とかはいかがかしら」
「えっと、それも……。アリスから……」
「そうですの……。アリスお姉さまから褒美の約束をとりつけていますのね。でしたら、私にできる事なんて……」
エリザベスが肩を落として、落ち込んでしまった。
必要以上に落ち込んでいるのを見ると、エリザベスとアリスは姉妹だし、比べられるのも多いのかもしれないな。
アリスは勇者候補だったから、なおさらだろう。
そうだ。エリザベスさんの来襲に驚いて忘れていたけど、アリスに別れを告げられてどうしようか困っていたところだったのだ。
そして目の前にはアリスの妹のエリザベスがいる。
「エリザベスさん、そのお詫びの件ですけど、図々しいですが一つお願いをしてもいいですか?」
俺がそういうと、エリザベスはぱっと目を輝かせて、「もちろんですわ。どうぞ、何でも仰って」と快諾してくれた。
「俺をアリスに合わせて欲しいんです」
「アリスお姉様に?どうしてですの?」と不思議そうに首を傾げる。
「それが……」と俺はかくかくしかじかと手短に昨日の出来事を話した。
「まあ!そんな事がありましたのね!分かりましたわ、私が早速……」
エリザベスが立ち上がって、勢いよく外へ出ようとすると、「お待ち下さい」と先ほどまで静かにしていた従者の人がエリザベスを止めた。
「どうしましたの?早く行きましょう」
「無策のままアリス様とお話をしても、昨夜のようになるだけです。まずはアリス様を納得させる言い分を準備する必要があると愚考します」
エリザベスはそれを聞いて、「そうね」とあっさりと受け入れた。
「いったん座って考えましょう。あなまの話しを聞く限り、アリスお姉様の言い分の方が通っているわ。戦場にまだレベル1の人間が立つ事は難しいでしょうね」
先ほどと打って変わって、エリザベスは冷静な口調で話し出した。
「確か最前線に行った事があったわよね」
「はい。教育として、最前線の後援部隊として一時期入っていました」
「それで最前線を経験した者として尋ねるけど、最前線にレベルがまだ1の者を連れて行く余裕はあるかしら?」
「ありません」と断言される。
「最前線は特に激しい場所でした。魔王軍も馬鹿ではありません。空や土の中からの奇襲や搦手もあり得る環境です。そこへ自分で身を守れないようなレベル1を放り込んだ所で、何もできず死ぬのがオチでしょう」
辛口の言葉に、がっくりとくる。
昨日はエリザベスを止めてくれたが、俺に全て肩入れしてくれている訳ではないらしい。
「そうね。私も同意見よ。今までは一対一の環境を作られていたから、その心配は無かった。だけど最前線では多方面からの対応を必要とするわ。もし砲撃の着弾点にいたら、その爆風だけでも死にかねないわね」
確かにそれでなんども死にかけたのは否めない。
「不慮の事故で死んでしまうことをアリス様は案じているのでしょう。でしたら、自分の身を守れる手段を見つけるのが最短ですが、アリス様以上のボディーガードなどいるはずもありません。アリス様の心配をすべてはらう事はできないと思われます」
確かにアリス以上に強い人間はいないという事を考えると、アリスが自分で守るよりもいい方法はない。
だけどそれができないから、アリスに別れを告げられているのだ。
「だとしたら、あなたの有用性をアリスお姉さまに示すしかないわね。何かないかしら……。その剣だけでは難しいのよね。アリスお姉さまには国宝のレッドローズがあるから、それ以外の何かを提示するしかないわね」
エリザベスが難しい顔をしながら言う。
「他と言われても、レベルが上がらないからスキルもない。ミコの植物魔法と……、それとカノンの心臓くらいしか……」
「植物魔法とカノンさんの心臓……。植物魔法は聞いたことがない魔法ですわ。話を聞いている限り、ダークナイト・グランドの極大魔法をアリス様と二人で止めるほどの力を持っているのでしょう。どうにかして、使う事はできないのかしら」
エリザベスは植物魔法に目を付けたけれど、俺は首を振った。
「植物魔法に限らず、魔法は全部使えない。魔力がそもそもほとんどないんだ」
「そうですの……。そういえば、ピョイ教授という方からもらった杖はどこに行きましたの?それにカノンさんの心臓は魔力を放っていて、それでカノンさんは生きているとの事ではありませんでしたか?その魔力は今はどうなっていますの?その魔力で魔法を使えませんか?」と言った。
魔力を余剰に回復させて、魔法都市では魔法を無理やり使っていた。
ピョイ教授からもらった魔力を出す杖を身体に使って、魔力を補充した。カノンの心臓はそれの効果を強くしたものだ。
エリザベスはそれを使って、その時のように魔力を補充すれば魔法を使えると考えているのだろう。
「どちらももう使えないんだ……、まだ説明していなかったけど」
「そうですの……。何がありましたの?ご参考までにお聞かせくださいますか?」
エリザベスに促されて、俺は魔王の幹部リッチを倒した後の話をエリザベスに語る。




