弁解(Zzz)
「勘違いなんです」
「もう良いわ……。疲れたから、帰って良いわ。また後日処刑してあげるわ」
「いや、処刑をやめて欲しいんですけど……。本当に俺は下心があってアリスに近付いたわけじゃなくて、成り行きなんです」
「分かったって言っているでしょう……。もう、今日は帰りなさい!」
訓練が終わり、部屋に戻ろうとするエリザベスを引き留めて、弁解を何度もするが取り付く島もない。
そして帰れと言われるが、何度も処刑されるために誘拐されてはたまらない。俺には力がなくて抵抗できないから、毎回誘拐されてしまう。
だからここで何とか彼女の誤解を解いておかないと、何度も危険な目に会わなければならなくなる。
「お願いですから、俺の話を聞いてください。俺がこの剣を持っているのは、女神からもらったからで……」
説明しようと迫るが、エリザベスは俺に背を向けてきびきびと城の廊下を歩き続ける。
聞く耳すら持っていない。
「どうか聞いてください」
何度も廊下でエリザベスに話しかけるも全く相手にされない。
そして話ができないまま俺が攫われた部屋まで戻って来てしまった。
ぎいとドアを開けて、エリザベスが部屋に入っていこうとする。
このまま入られてしまってはまずいと思って、彼女の手を掴む。部屋に入られてしまったら、もう今日中には会う事はかなわないだろう。
先ほど剣を何度も振っていたとは思えないほどの細い手首を握って、「待ってください!」と引き留める。
すると彼女はやっと振り返ってくれた。
「離し!……なさ……い……」
まるで電池の切れた人形のように途中で勢いを失い、床にへたり込んでしまう。
「はっ?……大丈夫ですか!」
エリザベスの肩を支えて、呼びかける。
もしかして何か病気があるのだろうかと心配していると、返ってきたのは寝息だった。
目を閉じて、うっすらと微笑みながら気持ちよさそうに眠っているようだ。
「あの……」
自分の腕の中で眠ってしまったエリザベスの対処に困り、俺は周囲を見回す。
すると近くに侍っていたメイドがさっと俺の手からエリザベスを奪って、部屋の中に入っていってしまう。
ドアの隙間から、部屋の中に置かれたお姫様ベットへ寝かしつかされているのが見えた。
「エリザベスさんは何か病気とか……」
黒服さんに聞くと、即座に首を横に振った。
「いえ、エリザベス様はお疲れです。ただの睡眠不足でしょう」
「よくあるんですか?」
「いいえ。ここ数日だけです。『大侵攻』が起きてから、国王様からの命令で訓練と軍事の勉強を課され、それはもう、朝から夜までびっちりと入れられているのです。夕食後には、また軍事の勉強が寝るまでの間までスケジュールが組まれています。すみませんが、寝かせてあげてください」
「分かりました。でも倒れるまでやるなんて、エリザベスさんは大丈夫なんですか」
「それは……。エリザベス様が受け入れているのであれば、我々からいう事などありません……」
黒服もこの状況には納得し切れていないこともあるのかもしれない。
エリザベスさんのような高校生くらいの年でも疲れ果てるくらいなんだから、一緒に訓練していたさらに小さい王子はもっと大変なのではなかろうか。
「俺からアリスに言ってみます。アリスならもしかしたら手伝ってくれるかもしれません。エリザベスさんが頑張る理由も分かりますが、流石に倒れるまでやるのと一生懸命に頑張るというのとは違うと思うので」
「ありがとうございます。ただくれぐれもアリス様に伝える時にはエリザベス様の名前を出さないようにしてあげてください」
「どうしてですか?」
「エリザベス様は少々いじっぱりなかたなので……。もしばれたら、少し困ったことになるかもしれません」
「良く分からないけど、分かりました。アリスに伝えるだけ伝えてみます。それで変わることはないかもしれませんが」
一応保険を掛ける。
アリスの性格なら、もしかしたらぬるいとか言って、さらに厳しくするように言ったりしたりして。
それは無いと祈ろう。
その後、黒服の人に城の一室に案内してもらった。
そこで待つように言われ、なんか高そうなお茶とお菓子を出してもらい、凄く高そうな机と椅子に座っていると、数分もしない内に部屋の扉があく。
「修平!城の中にまで入ってきたなんて、やるわね!」
明るい声を響かせながら、アリスが入ってきた。
眩しい黄色のドレスに着替えていて、一瞬どんなお嬢様が入ってきたのかと身構えてしまった。
声と動きを見れば、すぐにアリスだと気付けた。
普通のお嬢様なら、ドアを蹴破るような勢いで開けはしないだろう。
「話は終わったのか?」
「大体はね。お菓子食べてもいい?」
「良いよ。というか、自分が用意した物じゃなくて、ここにあった城の物なんだから、アリスの物だろう」
「それもそうね。久しぶり、お菓子なんて、二週間ぶりだわ」
「始まりの町で隠居していた時か?」
「そう。美味しいものは用意してくれたけど、本当に暇だったわ。あなたと一緒に旅をして、楽しかったわ。毎日、いろいろあって、退屈しなかった」
「いろいろありすぎだよ。どれだけ大変だったか」
始まりの町から、王都に来るまで、何度戦って何度死にそうになったか。数えるのも億劫になる。
「そうね。それも今日まで、ね。これからは、『大侵攻』と戦わなければいけないわ」
「そうだな。『大侵攻』と後、魔王もだろう。魔王の所に行くためにも、これからも頑張らないとな」というと、何故か流ちょうだったアリスが口籠った。
「魔王……ね……」
「どうした?魔王を倒すために、隠居していたのに、飛び出して内緒で旅をしていたんじゃないのか?」
「そうね!魔王も倒してしまいましょう!」
俺がアリスに疑問をぶつけると、アリスはうんうんと何度もうなずきながら同意してくれた。
「良かった。そうだよな。もしかして、魔王の所への行き方が分からないとか?」
「行き方?いいえ、それはあるわよ。でも今は使えないわ」
「よし。まずは『大侵攻』に備えないとな」
立ち上がって、気合を入れる。
『大侵攻』、そしてその後に、魔王を倒す。
ミコやカノンが死んだ恨みを晴らしてやるんだ。
「その前にやることがあるでしょう」
俺が気合を入れている横で、アリスが口をはさんだ。
「やること?何かあったっけ?」
「もう忘れたのかしら?」
アリスはにやりと笑った。
「打ち上げよ。魔王の幹部、リッチを倒した打ち上げをしようって言ったじゃない。うふふ、軍資金ならたっぷりあるから、お腹が破裂するまで食べて、食べて、食べて、食べつくしてやりましょう!」と楽しそうに言った。
そしてアリスはどこからか出したのか、重そうな革袋を天高く掲げる。
その革袋は重そうな金属音を立てた。王族のアリスが言う軍資金とは、果たしてどれほどのものなのか。
目の前に並ぶごちそうを妄想して、ぐうとお腹がなった。
そうだ、もう隠れる必要も何もないのだ。
アリスの軍資金任せに、腹いっぱい食べてしまおう。




