血筋(王族)
「89、90、91……」
晴天の下、剣が空を切る音がする。
俺を殺そうとした黒いドレスの女は、厳しい貌のまま、まじめに剣を振っている。
彼女の隣には、彼女よりも背の小さい子供たちが一緒になって剣を振っていた。
そして彼らの前にはガタイのいい老人が立っており、剣を振る彼女たちに厳しい声を浴びせている。
どんなに厳しい声を言われても全く言い訳せず、剣をただひたすら振り続ける。
彼らの目は真剣そのものだ。
「あの……助けてくれてありがとうございます。あの人を止めて下さって」
俺は背後に立つ男性へお礼を言う。
「いえ、エリザベス様の暴走を止めるのが、私の役目ですので」と謙虚に答える。
彼は黒いドレスの女、エリザベスの護衛らしき黒服の男の一人である。
太陽が照り付ける中、黒い服を着ていながら、彼は暑さをものともせず俺の後ろで全く動かずに立ち続けている。
エリザベスによって、俺の首が斬り落とされようとした時に、「エリザベス様、そろそろ鍛錬のお時間です」と口をはさんだのだ。
そのおかげで、彼女は俺の処刑を急に取りやめてしまった。
顔を真っ青にして、彼女は慌てて部屋から飛び出していったのだ。
そして俺はエリザベスを止めてくれた黒服に連れられて、城の中の訓練場のような広場に連れられて、訓練の見学まがいの事をしていた。
「あの……今更ですけど、エリザベスさんってアリスの妹なんですか?アリスお姉さまと言っていましたよね」
俺は黒服に先ほどから頭に浮かんでいた疑問を尋ねた。
「はい。その通りです。エリザベス様はアリス様の妹です。ただ母親が異なりますが……」
「異母妹ってやつか。アリスと同じようにこの国のお姫さまってことか。それで、何でそのお姫様が剣の訓練をしているんですか?アリスはともかくとして、エリザベスさんは普通の王女なんじゃないんですか。なんで訓練をしているんですか?」
「『大侵攻』があったことを知っていらっしゃいますか?」
またその単語が出てきた。
今日だけで、何回聞いた事だろうか。
「知っています。魔王軍に最前線の基地が襲われたって……」
「はい。前線は崩壊寸前です。アリス様がお戻りになったとしても、このまま持ちこたえるのは難しいでしょう。その前線を指揮しているのは、慣例的に王の血を引いている第二王子と第三王子であるセカンド様とサード様です。しかし『大侵攻』が起きている現在、いつ命を落とされるか分かりません。群を率いるのは王の血を引いている者とされているので、もしも第二王子と第三王子がお亡くなりになった場合、アリス様が軍を率いることになります。そしてその次に軍を率いることになるのは、フォース様、フィフス様、そしてエリザベス様です。つまり今、訓練を受けている方々です」
「なるほど。万が一、第二王子と第三王子がなくなった場合に引き継がなければいけないから、訓練を受けているという事なんですね。疑問なんですけど、なんで王の血を引いていないといけないんですか?というか、女性でも構わないんですね」
「女性か男性かなどは関係ありません。血がなによりも優先されます。もし仮にエリザベス様以下もお亡くなりになられた場合は、王族と血が近い貴族の中から選ばれます」
「そんなに血が大事なんですか?」
王の血とは、そんなに重要なモノだろうか。
「ええ。もちろんです。王の血筋とは、つまり勇者の血筋です」
「勇者の血筋?」
それも今日聞いた単語だ。
「勇者というのは、知っての通り、最も凄まじい能力のスキルの事です。その世代に一人しか現れません。そして勇者はほとんどの場合、王の血筋、つまり勇者の血筋から現れます。勇者の血を引く王家の中から勇者が現れ、軍を率いて、魔王軍と戦うのです」
「でも今は勇者はいないんですよね」
アリスは勇者ではないと言われたばかりである。
あれほどの強さを持っていながら、アリスは勇者ではないのだ。
「はい。知っての通り、現在はなぜか勇者が現れていません。アリス様も勇者ではありませんでした。今期待されているのはエリザベス様以下年若い王子様達ですが、未だに片鱗すら見られません」
「なるほど。今訓練しているのは、最前線に行くための準備と勇者の資格があるかどうかの確認ってことですか」
「ええ。もしも最前線に何かがあった場合は、エリザベス様は王族として、最前線へ指揮を執りに向かいます。その時には、私もエリザベス様とともに行きます」
「そう、なんですか。エリザベスさんは、戦う事は好きなんでしょうか?アリスは好きそうでしたけど……」
重そうな剣を何度も振り続けているエリザベスさんの後ろ姿を見ながら、そんな疑問がこぼれた。
アリスは望んで戦いに向かっていたが、エリザベスさんはどうなのだろうか。
真剣に訓練に取り組んでいるが、本心では戦いをどう思っているのか。
戦場に行けることを喜んでいるのか、はたまた戦いに行くこと恐れているのだろうか。
俺なら成り行きでなければ、戦いから逃げてしまいたい。
これまでも戦いには望んでしていなかったが、毎回巻き込まれて、魔王の幹部との戦いをしてきた。
きっとこれからもアリスに連れられて、魔王の幹部との戦いをしなければならないのだろう。
しかし今は違う。
俺は進んで戦いに巻き込まれて行こうと思う。きっとこれまでとおなじ用にアリスと一緒にいなければいけない。そうだとすれば、最前線に行くことになる。
そして俺は魔王に復讐する。
アリスと共に戦い、俺の大事な人の命を奪った魔王を倒すのだ。
巫女とカノンの命を落とす羽目になった原因である魔王へ恨みを晴らす。
後ろ向きな目標かもしれないけれど、今の俺には何かの目標がなければ折れてしまいそうなのだ。
だから例え人道に反する復讐を胸に抱いてしまっている。
魔王を倒した後、俺はどうするか分からないが、今はこの復讐を目標にしていこうと思う。
例え、また死んでしまうとしても、魔王に一太刀でも浴びせられたら未練はない。
魔王に復讐するためにアリスについて行って、最前線に向かう。
もう俺は魔王の幹部との戦いにおびえない。
どんな地獄になっていようと、魔王の元に向かう道程の途中ならば、逃げはしない。




