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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
89/206

主人公死す(享年2週間)

「了解Da!ゴーレムの解析を急ぐZe!」

 地上に降りるまでに、学長に俺が知った全てのことを説明した。アカガの事やや、行われていた研究、さらに強い魔物や砂化事件の事を。

 そしてゴーレムにされた人達を助けたいという事を。

 聴き終えると学長は否定せずに、どんと胸を叩いて、任せてくれと言ってくれた。

 普段はふざけた語尾をしているけれど、なんだかんだで有能なのだろう。


「君はカノンちゃんの所にいってあげるんDa」

「はい。……うわっ!」

 どんどんと派手な音がした。

 音のする方を見ると、直立して停止しているゴーレム達に向かって、攻撃を誰かがしていた。

 いや、魔法が複数個飛んでいるから、複数人だ。

 もう戦いが終わっているのに、まだ戦おうとしているのか。

「止めないと!」

 ゴーレムの正体を知らないのだ、仕方ない。

 だから正体を知っている俺が止めなければいけない。

 止めるために走ろうとすると、「ちょっと待つんDa」と強い手で肩を掴まれ、引き止められる。


「それは学長の役目Da!言っただろう、君のやる事はなんDa?」

「あっ……。カノンの無事を見る事……」

「そうSa。なら、ここは任せて行くんDa!」

 ぐっとサムズアップされる。

「そうよ。それに、私もいるわ。私なら、学長を守ることができるわ。だから、安心して良いわ」

 アリスがちょうど俺のすぐ近くに着地して、安心させるように言った。


「ほら、行くんDa」

 学長に背中を押される。

「ありがとうございます」

 お礼を言って、俺は守り抜いたカノンのいる魔法学校へと走り出した。

「私たちももう一仕事しましょう」

「そうだNa!気合を入れようZe!」

 背後から二人の気合を入れる声が聞こえた。

 戦いが終わり、後は守った物を確認するだけだ。


 日は既に山麓のすぐ近くにまで傾いている。青かった空も、赤く染まり始めていた。

 もうすぐ夜が来る。

 長かった一日も終わる。

 戦って戦って、死ぬほど頑張った。

 後は、カノンの無事を確認して、家が残っているかはわからないけど、いっその事、どこでも良い。

 きっとどこでたって、この疲れ切った身体なら、明日まで一回も起きずに眠れるだろう


 *


「まだ……まだだ……。まだ、終わっていない……」

 蚊の鳴くようなか細い声が、風にかき消される。

「この身体も……じきに……壊れる……。新しい……身体……、無限の……魔力……。そう……あの者の……作り出した……」

 身体が崩れていく。

 ガラガラと音を立てながら、身体の表面が地面に落ち、粉々に砕け散って砂となる。

 脚も腕も胴体も、乾いた音を立てて、壊れていく。


 遥か高みから地面を見下ろす。

 夕焼けで赤く染まる街並み、多くの家々が戦いの中で崩れていた。

 その中を、走る一人の青年の姿が目に入る。

 眼下で背を向けて、魔法学校へと走っていた。

 既に戦いは終わったとでも言うように、無防備な姿で魔法学校の正門をくぐった。


 何度も彼の企みを打ち壊し、己を一度殺して見せた青年。

 青年がどこへ行くのかは分かっている。

 魔法学校に未だに残っている物は、あれしかない。


 今まさに、己が死にかけている。

 肉体を破壊され、逃げるように潜り込んだ己の作り出した滅びゆく身体。

 残り1時間もない。

 夜になれば、この身体とともに死ぬ。

 しかしそれも再び取り付けば良いこと。


 そしてしぶとく、貪欲だった。

 千年前、邪悪龍ディアボロを打ち倒すエルフを見て、己の道具とし、己に取り入れるため研究を重ね続けた。

 そしてそのエルフが失われ、魔王に殺されかけるも、しぶとく生き残り、人間に取り憑き、生きながらえてきた。

 復讐に燃える研究者に取り入り、更なる研究を重ね、実用段階を迎えた。

 生物でない身体なら、あの膨大な力に耐えうると言う事を。

 全ては千年前のエルフの力を己の力とするために。


「その人形を、寄越せぇ!」

 彼は叫び、ボロボロの身体を酷使して、青年の消えた校舎へと襲いかかった。


 *


 校舎に入ると同時に、背後からまるで地響きのような音が聞こえた。

 言葉のようでもあり、ただの低い雄叫びのようでもある。しかしどこか鬼気迫るような恐ろしさを感じた。

 何事かと廊下を走る脚を止めて、外を見る。

 夕焼けに染まり、今にも夜になりそうな暗くなり始めた景色の中を、暗さに慣れない目で見渡した。

 巨大なゴーレムが近くにある他は、いつもの魔法学校から見る景色のように見えた。

 建物は壊れていることが、昨日までと違うところだが、それが先程の低い轟音と合致しない。


 何か不気味さを感じ、周囲を見渡し、変化は無いのか確認する。しかし何もない。ここだけはいつもの変わらぬ廊下だ。

 カノンに会いに行くときに通る道。

 再び外に目を向けたとき、その異常の正体に気が付いた。


 外が暗い。

 夕方だとしても、まるで夜になっているかのようだ。

 校門の外に見える町では、まだ赤い太陽の光で照らされているのに。


 そしてドドンと重いものが魔法学校の正面に落ちてきた。

 土埃が舞い上がり、目の前が真っ白になる。

「なにが……。ごほ、ごほ……」

 何かが落ちてきた。それだけは分かるが、それが何か分からない。

「おおおおおおおおおおおお!にん!ぎょう!をおおおおおおおおおおお!よこせええええええええええええ!」

 落ちてきたものがしゃべった。

 さっき聞こえてきたものと同じ声だ。あの音は、こいつの声だ。

 土埃が晴れていくにしたがって、あらわになるその物体。

 巨大な隕石のような石の塊。


 それは腰の部分から崩れ落ちたリッチの乗っていたゴーレムの巨大な上半身。

 堕ちた衝撃で、身体中にひびが入り、ボロボロと崩れているが、巨大さについては健在だ。

 ゴーレムは左腕を振り上げた。

 ぞくりと恐怖が、身体から湧き上がる。

 ゴーレムに背を向けて、廊下をただ全力で走った。


 背後から聞こえる雪崩のような音から必死で距離を取る。

 音がなくなって、背後を見ると、自分がいたはずの場所がゴーレムの手によって崩れ去っていた。

 巨大な手によって潰された校舎の残骸の上を這いずり、ゴーレムが這いずり寄ってくる。

 がりがりと固いモノ同士が擦れ合う音が、近づいてくる。


「にんぎょう!よこせ!」

 再び振りかざされるゴーレムの手。

 廊下を転がるように避けて、近くに落ちる手を避ける。

 どおんという爆音とともに、風が巻き上がった。そしてもともとひびの入っていたゴーレムの手が、たたきつけられたことで完全に壊れる。それが風と共に、俺の身体を散弾のようにうつ。腕で顔だけ守ったが、身体中に細かい石が命中する。


 ごろごろと廊下を転がって、奥へ進んで行く。

 身体中が痛みの危険視号を発していた。特に腕はまた骨折してしまっているかもしれない。

「うぐぅ……」

 もし少しでも大きい石が飛んできていたら、死んでいたかもしれない。

 小指の爪サイズのものが周りに落ちていているのを見て、こんなものでボロボロになる自分の身体にあきれる。痛みがひどく動くことすらままならない。

 流石レベル1と言ったところだ。


 ずりずりと近づいてくるゴーレム。

 さっきはギリギリ避けられたが、もうこんな身体の状態じゃ無理だ。

 次、あれをやられたら、もう避けられないし、即死する。

 俺の力では無理だ。

 見渡す限り人はいない。魔法学校は全員避難済みだし、学長に至急ゴーレムの解析を頼んでいて先生たちは出払っているから、今すぐ来てくれる人なんていないだろう。

 これは、死んだ。


「凄い音がシマすが、何があるのデスか?」

 カノンの声が聞こえた。

 廊下が崩れて、景色は変わっているがいつの間にか人形にあふれる箇所まで進んでいたようだ。

 もうカノンの居るピョイ教授の部屋の目の前まで来ていたのだ。

 やはりカノンは無事だったのだと安心すると同時に戦慄する。

 ゴーレムは先ほどから人形という言葉を何度も言っていた。それは周りに落ちているピョイ教授の趣味の廊下に飾られている人形ではないだろう。

 生きた人形であるカノンの事に他ならない。


「そこかぁ!」

 ゴーレムが怒号を上げて、ピョイ教授の研究室の壁を吹き飛ばす。

 壁が破壊されて、カノンの姿があらわになった。いつものようにメイド服を着て、部屋の椅子に座っている。

 その姿を見て、笑ってしまう。場違いというのもあるし、きっと人間ならばこんな大きなものが出てきたらびっくりして怖がってしまうが、カノンは全く恐れもせずに椅子に座ったままだ。


「大丈夫ですカ?けがをしていマスか?」

 巨大なゴーレムがいるが、それを完全に無視して俺の心配をしてくれる。

「大丈夫だ。だからカノン、ここは俺に任せて、逃げてくれ」

 レベル1の分際で何を言っているんだと、自分自身にあきれる。

「ダメです。外出許可は、アリマせん」

 もう壁すらもないのに、カノンはやはり外に出ることはない。

 そこが人間と違う所で、カノンの個性なのだろう。


「分かった。そこから動かないで」

「ハイ」

 だからと言って、俺にできることはないのだが。


「身体!そのからだを、よこせ」

 ゴーレムが身体をぼろぼろと崩壊させながら、近づいていく。

 最初に落ちてきたときと比べて、ゴーレムはかなり貧相な体つきになっている。アカガに聞いた話だと、ゴーレムにされた人たちは寿命と引き換えに、この巨大な体と力を手に入れた。

 このゴーレムの身体は、その短くなった寿命に近付いているのだ。

「お前、リッチなんだな!カノンの身体を奪わせはしないぞ!」

 叫んで、気を引こうとしたが無駄だった。

 きっとゴジョ―先生の身体を奪ったように、そして今ゴーレムの身体を使っているように、カノンの身体を奪おうとしている。

 寿命が近づいているから、カノンの身体に取りついて奪おうとしている。


 カノンのお世話係として、カノンを守らなければ。


 俺は背けていた事実を口にする。

「フリョ・リダ!」

 行方不明になったフリョ・リダの名前を、ゴーレムに呼びかける。

「お前は、フリョ・リダなんだろ!聞こえているんだろ!フリョ・リダ!返事をしろ!」

 俺を追いかけてきたゴーレム。

 それが今まさに目の前にいるゴーレム。

 理解することを拒んでいたが、俺を追いかけてきていたあの時、確かに俺の名前を叫んでいた。

 俺を知っている物は少ない。さらに研究に関わっていた人間で、俺に何かしらの感情を抱いているのは、一人しかいないはず。


「フリョ・リダ。あの試合で負けて、悔しかったんだろ!だから、追いかけてきた!俺を見ろ!ここにいるぞ!フリョ・リダ!」

 身体中の痛みを気力で抑え込み、ゴーレムに叫ぶ。

 俺ができるのは、これ位しかない。

 ただこのゴーレムがフリョ・リダだと信じる。そしてフリョ・リダがリッチの乗っ取りから逃れてくれることを願うくらいしかないのだ。


「フリョ・リダ!目を覚ませ!フリョ・リダ!」

 俺は喉が裂けるかと思うほど、今まで出したことのないような全力で叫んだ。

 あと少しでゴーレムがカノンに触れてしまう。

 おそらく乗っ取りは触れることが条件。

 そうでなければ、こうやって近づこうと思わないだろう。

「早くしろ!フリョ・リダ!お前の力はそんなものなのか!こんな奴に良いように使われるだけで終わるのか!俺を殺して見せろ!フリョ・リダ!」

 息が切れ、めまいがする。


 俺の全力の叫びに、ゴーレムの動きが止まった。

「あら……。……か……」

 ゴーレムに別の声が混じる。

「フリョ・リダ!」

「まさか……。だが、遅い!」

 リッチの声と共にゴーレムがカノンに不格好な手を伸ばす。

 カノンにその場から動くなと言ったばかりに、カノンは椅子から全く動かない。例え逃げろと言ったところで、ここから逃げられないのだから変わらないだろう。


 だったら、フリョ・リダに動いてもらうしかない。

 もっとフリョ・リダの意思を強くするような言葉を。


「フリョ・リダ!あの戦いで負けて悔しいんだろ!なら、今、再戦だ!俺を任して見せろ!」

 フリョ・リダとのつながりなんて、あの戦いのときしかない。

 だからそれを煽るしかない。

「どうした!逃げるのか!フリョ・リダ!このまま負けたまま終わるのか!負け犬のままか!」

 ゴーレムに言葉を投げつける。

 フリョ・リダがリッチを打ち負かしてくれと、全力で願う。

 俺にカノンを助けさせてくれ。

 もうミコのように、何もできないまま死なせないでくれ。


「フリョ・リダ!逃げるのか!戦え!」

 俺の最期の言葉にゴーレムの目が、こちらに向く。

「あらかわあああああああああああああああああああああ!」

 そして方向転換し、俺の方に向き直った。

 それでいい。

 俺は戦いの振りをするために、動かない腕を無理やり動かして、剣を抜く。

 ゴーレムの姿となったフリョ・リダに、剣先を不格好に向ける。既に感覚も曖昧で、剣がふらふらと揺れる。


 フリョ・リダが腕を振るい、剣を吹き飛ばす。

 あっさりと俺の手から離れ、きらきらと剣は弧を描きながら外へ消えていった。

 そしてフリョ・リダは口に光がともる。

 魔法の光。

 何度も戦いのときに放たれてきた人間をゴーレムにした事によって得られた圧倒時な破壊力の魔法。

 そんなものを、俺が喰らったらひとたまりもない。


 しかもフリョ・リダは確実に俺を仕留めるためか俺に近付き、俺の両側に腕をつき、真上からまっすぐに俺の心臓を狙っている。

 フリョ・リダはまだ俺が強いと思っているのだろう。

 そんな事をしなくても、死んでしまうのに。


「そんなものかよ!俺がそんなもので死ぬと思うか?」

 だけど俺は煽り続ける。

 もしリッチにまた乗っ取られたら、今度こそ止める手段がなくなってしまう。

「あらかわあああああああああああああああああああ」

 眩しいくらいに光が強くなる。

 それで良い。


 俺は目を閉じることなく、まっすぐにフリョ・リダを見つめる。

 自分が死ぬというのに、意外に心は静まり返っている。

 今日という日に、何度も死にかける戦いを続けたからかもしれない。それとももう打つ手がなくなり、諦めの境地に至ったか。

 これまでよく生き残った。

 何度も無茶な戦いの中に放り込まれて、生きてきた。

 これで本当に終わりだ。

 あと数秒で、魔法が放たれる。


「いや……」

 か細い声が聞こえた。

 思わず出てしまったというような小さな声。

 誰の声だろうか。

「いや……」

 もう一度聞こえる。

 どこから聞こえるのだろうか。

 目だけでその声の主を見ると、カノンだった。

 先ほどと変わらず、椅子に座ったまま俺を見ている。カノンがあんな声を出すだろうか。いつもなら、ずばずばとはっきりものを言うのに。


「間に合った!」

 外の方からアリスの声が聞こえた。

「今助けるわ」

 しかし既に発射寸前までまばゆく輝いている。

 これはアリスでも、さすがに間に合わない。

「ごめん。殺しちゃうわよ」とアリスが一言謝る。

『シャイニング・セ……』

 真上からゴーレムの頭へ剣を振り下ろそうとしているアリスの姿が見えた。


 しかしそれよりも一瞬早くゴーレムの口から俺の左胸に向かって魔法が放たれた。

 ドンと強く押されるような衝撃が走る。

 その魔法は俺の心臓を正確に貫き焼いていた。

 もうこれはレベル1とか関係なく、死ぬだろう。

 心臓がなくなったからか、急速に視界が暗くなっていく。一瞬で心臓を焼かれたからか、痛みがない事だけが幸運だ。


 ゴーレムの頭に白い光が走る。アリスの魔法が、ゴーレムの頭が真っ二つに斬り裂いた。

 同時にゴーレムの身体が力を失い、砂となって崩れていく。

 リッチも今のアリスの一撃でとどめとなって、死んだのだろう。魔力でできた体だから、死んで魔力を失えば砂となってしまうのかもしれない。

 これでリッチの非道な研究と戦いは終わった。


「いやぁ!」

 誰かの悲鳴が聞こえた。

「死なないで!」

 俺の目の前に、大粒の涙を目に浮かべたカノンが見える。

「いや、いやです。死んでは、いや!」

 まるで人間のように、俺の死を悲しんでいた。

 涙を落とし、嗚咽し、泣き叫んでいる。


 死の間際、作られた存在であるカノンに感情が生まれた奇跡を目の当たりにできるなんて、俺は恵まれている。


 暗くなっていく。

 カノンの泣き叫ぶ声すらも、水底に沈んでいくようにくぐもっていく。

 身体に力も入らない。

 ただカノンの涙が顔に落ちる感触だけは、最期まで残っていた。

 守り抜けて良かった。

 またこの世界で手に入れたものを失ってしまうかと思った。自分が何もできずに失ってしまうのは、本当に虚しいから、本当に、本当に、本当に良かった。


 そして遺言すらも残せずに、意識を手放した。



巨乳メイドの恰好なカノンに身体をよこせと迫るリッチの構図は変態度高いなと思いながら、書いていました。

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