魔法都市(決着)
アリスの後をハカナイさんの杖に乗って追う。
まるでスーパーカーのようなスピードでリッチの乗るゴーレムの胴体に着地して、そのまま垂直に上っていく。
相変わらずとんでもない身体能力をしている。
ハカナイさんもアリスの後ろにピッタリと付くように、ゴーレムの身体の直前で急上昇する。
急な方向転換に振り落とされそうになり、人の目を気にせず全力でハカナイさんにしがみつく。
「すみません。勢いで強引に飛んでしまいしましたけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。俺に気にせず、全力で。そうしないと、二人の戦いについていけないから」
「分かりました」
俺の身体を気遣って、ハカナイさんが危ない目にあったら元も子もない。
振り回されるだけなら、俺が気を付ければいいだけだ。
この降り注ぐ魔法の雨に、一発でも当たることの方が問題だ。
恥ずかしいけれど、ハカナイさんの身体に必死に抱き着いて、振り落とされないように耐えるしかないのだ。
俺は俺の戦いをするしかない。
アリスは俺の持つ剣でないと戦えない。
だからアリスの近くにいてあげないと。
それにゴーレムを攻撃するなと注文まで付けたんだ。
死にたくないから逃げたいなんて言えない。
光の盾を連続で出しながら、上からリッチが打ち続ける魔法の弾を避けながら、進んで行く。
用済みになって光の破片となった盾のかけらが、花吹雪のように下におちて消える。その光の花びらの間を進む。
そしてゴーレムの手が両側から俺たちをはさむように、重機のように迫ってくる。自分の胴体をごりごりと削り、土埃を上げ、凄まじい質量を持って俺たちをつぶそうとしてきた。
ゴーレムの動きは遅いが巨大な手の大きさがあるので、アリスは回避できそうだが、ハカナイさんは間に合いそうにない。このままでは潰されてしまう。
アリスは光の盾を頭上に展開して、魔法の弾を防いだまま、自分だけ真横へ急旋回する。
そしてゴーレムの身体を足場にしながら、迫ってくるゴーレムの右手の下に潜り込む。
ゴーレムの手首部分を両手で持つと、「たああああ!」と叫びながら、下から力を入れて持ち上げ始める。
腕だけでもビルのような大きさがあるのにそんな事をしても、と不安に感じたが、それは杞憂だった。
ゴーレムの手は上へと逸れていく。
俺たちの頭上にずれるどころか、ゴーレムの腕自体が上に跳ね上がる。
「うそ……」
ハカナイさんもゴーレムの巨大な腕が、ものすごい勢いで上に吹き飛んでいくのを見て驚いて声を上げていた。
アリスのレベルが高いと言っても、はじくだけでなく、こんなことまでできるなんて、信じられない。
あんな巨大なものを何十メートルも上に足元もおぼつかない中で跳ね上げることができるなんて。
あの身体にどれほどのパワーが備わっているのだろうか。
俺なんて、皿洗いをするだけでも四苦八苦していたのに、レベル差による力の差はかなり大きい。
もし俺も経験値が手に入って、レベルが上がれればここまでの事ができるようになるのだろうか。
しかし自分があんなデカい岩の塊を持ち上げられる光景など思い浮かばない。
そんな妄想をしている内に、アリスは元のように俺たちの前へ戻って来て、また最初と同じように駆けあがる。
これは30秒にも満たない間の出来事だった。
ゴーレムの恐ろしい質量と力の逃げ場のない攻撃を、アリスは瞬く間にクリアして見せた。
そして俺たちをリッチの魔法の雨から防ぐ。
数分前の逃げ回ることしかできなかった戦いがあったとは思えない。
どおんと音がする。
それはゴーレムたちが放つ魔法が、先生たちが張った結界に当たり爆発した音だ。
振り向いて見てみるが、結界に傷はなく、ゴーレムの魔法が何発も当たってもびくともしない。
もう邪魔は二度と入らないだろう。
後はアリスとリッチが一対一で戦う場面で、俺が剣が戻ってくるタイミングでアリスへすぐに剣を渡すことができる展開を作れればいい。
私見だけど、リッチは自分が戦うのに慣れていない。
これだけ常に大爆発を起こせる魔法の弾を打てるのに、ゴーレムの肩から動かず、他の手段で攻撃しようとしない。
きっとリッチは操り人形に全てを任せて、自分は常に戦わずに隠れてきたんだ。
ダークエルフを操っていた時のように。
しかし今はその戦法を使えない。
ゴーレムたちのほとんどは先生たちが押さえている。
そして自身の乗るゴーレムもアリスがいなしていた。
リッチの得意な戦法をみんなで防いでいる。
さっきリッチを仕留められなかったのは、剣の制限時間があった事とゴーレムの魔法の砲撃があったからだ。
今度はそんな邪魔はないし、制限時間もここまで上までくればアリスなら一足飛びで来れるくらいだ。
リッチ単体の力は、戦闘に特化したアリスと比べるとそうでもない。
死んだ存在を操れる能力と研究。
それに特化した存在なのだ。
だから何もなければ、アリスが勝てる。
もうゴーレムの肘部分を過ぎ、肩のすぐ近くまで迫っていた。
ゴジョ―先生の姿をとったリッチの姿が、影のように見えてくる。
その時、視界の端に白いものが見えた。
すぐ近くで下へ流れていくゴーレムの焦げ茶色の身体に、白い線が入る。その白い線は、次第に量を増しゴーレムの身体を包んでいく。
何かと思って、よく目を凝らしてみてみる。
視界の流れる速度が速くて最初はうまく見えなかったが、次第に目がなれて、その正体をはっきりと見ることができた。
骨だ。
大量の骨が、ゴーレムの身体を伝い、俺たちのところまで登って来ていた。
そして俺たちを追い越して、更に上まで浸食していく。
下を見て、骸骨兵士がきれいさっぱり消え、その上あれだけ地面を覆って大量にあった骨も消え去っていた。
それはすべてゴーレムの身体をツタのように這い上り、ゴーレムを包み込んでいく。
「これは……!」
俺が声を上げると同時に、骨が俺たちに向かって飛んできた。
「きゃぁ!」
ハカごりごりと足や身体に当たり、身体の中から嫌な音がする。や身体に当たり、身体の中から嫌な音がする。
レベル1の俺がこの程度で済んでいるから、きっと本当に不意を打ち、こちらをかく乱する意図しかないのだろう。
リッチの目論見通りか、杖がふらふらと揺れ、俺は振り落とされそうになる。
ハカナイさんは飛んでくる骨に翻弄されて、杖をぐらぐらと揺らす。身体が振り回されて、車酔いになってしまいそうだ。
「ハカナイさん、落ち着いて」
「は、はい。ごめんなさい」
ハカナイさんは俺の声を聞いて、何とか落ち着きを取り戻してくれたようだ。
急速に杖のふらつきが収まる。
振り落とされる危険がなくなって、ほっと息をつく。しかし先導していたアリスと距離が空いてしまってしまった。
そして狙ったように、アリスと俺たちの間に骨がぶわりと壁のようにそそり立つ。
真っ白な壁の向こうに、アリスの金髪が消えていく。
ハカナイさんは急ブレーキをかけて、俺と一緒につんのめりそうになる。
「アリス姫様、バレバレですよぉ。その剣は時間で消えてしまうようですねぇ。だからその男の元へ取りに戻らないといけない。そうでしょう!」と煽るようにリッチが言う。
リッチも馬鹿ではないようだ。
俺とアリスを分断する作戦。
理にかなっている。アリスが持っている女神の剣は、そろそろ制限時間が来るはずだ。
俺がこの壁を突破して、アリスの元に行かなければならない。そうでなければ、アリスはリッチを倒せないだろう。
しかも既にアリスの事もばれているから、油断させることもできないだろう。
「会いたかったぞぉ!アリス姫!お前のせいで、俺がどれほどの苦痛を得たか、身体に思い知ってもらうぞ!」
「そうね、私もあなたに言いたいことがあるのよ!私の友達の友達を、ずいぶんとこき使ってくれたみたいじゃない!」
アリスの勇ましい声が、骨の壁の向こうから聞こえる。
友達の友達とは、リッチが操っていたダークエルフの事だろう。
エルフの隠れ里にいたミコは、千年の記憶を持っていてダークエルフと友人だった。その暴れている友人を止めて欲しいとアリスに相談をしていたはずだ。
そのことをアリスは怒っているのだ。
「すぐこんな壁、壊してあげるわ」
「その前に、殺してやる」
俺たちに覆いかぶさるような白い壁から、いくつもつらら状の物が生えてくる。
何本も何本も、数えきれないほどの量の骨でできたつららが、ギラリと光る先端を俺に向けられていた。
ぞくっと身体に恐怖が蘇る。
再びアリスの居ない戦況になってしまう。
頼りになるアリスの生み出す光の盾が、今はない。
ハカナイさんの結界と魔法だけ。
それだけで、この何十もの骨のつららを防ぎきれるだろうか。
こんな土壇場で、油断した。
アリスが来て、いろんな人が俺たちを助けてくれて、守ってくれて、それで完璧かと思っていた。
だけどまだ足りない。
相手は、魔王軍の幹部。
この世界の人間が、束になって戦っている相手だ。
アリスがいたからと言っても、まだ足りないのだ。
これまでだって、そうだった。
今だってそうだ。
限界まで、試行錯誤し続けないといけない。
腰に差している杖にはまっている石に触れる。
ぐらりと視界が揺れる。
直前に振り回されての車酔いと重なって、魔力酔いが酷く感じる。
『フォレスト・ウォール』
俺は呪文を真上に向けて唱える。
ミコ。俺たちを守ってくれ。
アカガの時とは違って、今度は石から手を離さない。
微弱とはいえ、無限に湧いてくる魔力。
それでも俺の魔力の最大値は超えてしまっているだろう。
魔力酔いで、くるくると天地が回っている。気分が悪い。
だけど手を離すわけにはいかない。
ミコが放った魔法にまだ遠く及ばない。
あれを再現しなければいけない。
ダークナイト・グランドの極大魔法を防いで見せた、あの魔法を。
かすかに目を開けて見る。
俺の手から伸びる木の塊は、まだ巨木一本分しかない。
こんなものでは足りない。
何本も何十本も出さなければ、魔王軍の幹部に届かない。
『フォレスト・ウォール』
重ねて唱える。
少しだけ木が大きくなった気がした。
しかしまだ足りない。
身体から力が抜けた。
ハカナイさんの身体にしがみついていた腕がほどけ、身体が重力に従い、落ちていく。
しまったと思うが、もう遅い。
ゆっくりと手から伸びる巨木は俺たちを辛うじて隠す程度の大きさになってはいるが、俺自身はハカナイさんの手から離れ、空中に放り出される。
それでも手は杖の石から離さない。
まだ足りないのだ。
あの殺人つららを防がなければ、俺たちはあの壁を越えられない。
伸びろ。大きくなれ。硬く。巨大に。
つららのぶら下がる骨の壁を枝を振りかざし塞ぐ巨木。
しかしそれは俺とハカナイさんの狭い範囲だけ。
それだけでは足りない。
魔王軍の幹部と戦うためには、まだ足りない。
「今、助けます!」というハカナイさんの声が聞こえる。
俺を振り向きながら見ているハカナイさんの顔が見えた。
「ダメだ!あれを防がないと!ハカナイさんも、魔法を!」
「え?でも……」
「早く!」
「っ!分かりました」
『スノウ・ブリザード』
ハカナイさんから吹雪が舞い踊り、骨の壁へとぶつけられる。
ぎしぎしと骨の壁が揺れた。
俺の魔法と一緒に壁を打ち破ろうとしているが、しかしまだ壊れない。
「しぶとい」というリッチの声が響き、骨の壁から二本の骨の腕が生えて、巨木を押し返してくる。
予想していなかった反撃に、巨木とつながっている俺の腕が嫌な音を立てた。
「ぐぅ……」
ただ押し返されただけで、腕がクッキーのように折れてしまっていた。
痛みをかみしめて、腕の骨折を見て見ぬふりをする。
そんなものに構っている暇はない。
危険はつららだけではなくなってしまった。
あの骨の手も、充分に危険だ。
壁自体を破らないと。
『シャイニング・セ……』
手の中に剣が折れている方の手に戻ってきた。
そのせいで、壁の向こうのアリスの魔法が不発になってしまった。
そしてアリスの手から剣が消えてしまったのだ。
早くアリスの元へもっていかなければならない。そのためにはあの骨の壁を破らないと。
でも俺の魔法では、足りないのだ。
「くそっ、早く、もっと……もっと……」
俺は落ちながら、己のふがいなさに悪態をつく。
無理をしても、やはり足元にも届かない。
やはり俺が頑張っても無理なのだろうか。
「大丈夫Ka!」
俺は誰かに受け止められる。
学長がいつの間にか追って来ていたようだ。
それで落ちていく俺を、受け止めてくれたのだ。
「だ、大丈夫です。でも、ここは危険です……」
俺の木を腕でどけられて、つららの照準がこちらにも向いている。木がもう盾にも槍にもなっていない。
このままでは、学長ごと俺も。
「ふっ、君たちだけで戦っているわけではないのSa!信じるんDa!」
学長の言葉と同時に、下から上へ光が昇っていく。
そして骨の壁に命中して、何重もの爆発で一面に生えるつららを折る。
下を見ると、いつの間にか先生たちは結界を解いて、こちらへ杖を向けていた。
だけど結界はある。
よく見ると結界は、逆側に曲線を描いている。
つまりゴーレムたちを包み込むような形になっていた。
最初にゴーレムと戦っていた人たちが、ゴーレムを包む結界を作っている。
結界に防がれて、ゴーレムの魔法はこちらへ届かない。
そして役割を終えた先生方は、俺たちに加勢してくれたのだ。
「治しておくZe!よく頑張ったNa!」
腕の痛みがなくなった。
骨折が一瞬で治っている。
口調はふざけているけれど、学長としての実力はやっぱりあるんだ。
「さぁ、行くZe!」
「はい」
俺は学長の肩につかまる。
後ろから伸びる魔法の光に押されるように急加速していく。
魔法都市の魔法使い全員の魔法を受けて、骨の壁から破片が落ちていく。
どんなに固くても、幾種類もの魔法を何度も受けていればヒビは入る。ヒビが入れば、それは広がり、脆くする。
あれほど重圧を放っていた白い壁は、ぼろぼろと崩れ、脆く崩れていく。
手に握った剣の重みを確かめる。
そして俺は剣先を骨の壁に向ける。
壁から伸びる腕は一本が壊れ、もう一本は学長の杖の動きに気付き、こちらへと伸びてきた。
まるで蛇のように、いくつもの関節が連なり、巨大になった腕が迫ってくる。
大丈夫だ。
これがこの魔法都市ができるすべてだ。
もう足りないなどとは言えない。
例え俺に技術がなくて、レベルも足りず、敵に近付くことが自殺行為でも、この剣だけは本物だ。
ただぶつかりに行くだけなら、このままでも構わない。
学長と共に腕にぶつかる。
鋭い剣先が骸骨の腕を引き裂く。
「このまま行きましょう」
「了解だZe!」
骸骨の腕を縦に裂きながら進み、骨の壁に到達する。
剣は脆くなった壁に抵抗もなく沈む。
そして壁がぼろりと崩れ、先が見える。
青い空。
そしてたなびく金色の髪。
「アリス!」
「待ってたわ!」
骨の壁を突き抜けた先にいたアリスの名を呼ぶ。
そしてアリスはただの跳躍で学長の飛行に追いついて、俺と並ぶ。
「アリス様、後は任せるZe!」
「もちろんよ。それが私の役目なんだから!」とアリスが強く叫ぶ。
アリスと俺の手が重なる。
「届けた」
「受け取ったわ」
短い会話。
俺は手を離し、アリスに剣は渡った。
俺たちを追い越して、さらに上へ駆け上る。
ゴーレムの肩にまで骨は登って来ていた。
そしてリッチを守るように骸骨兵士が、そこにいた。
肋骨の内側にリッチは、負けなど知らぬように、堂々と立っている。
骸骨は四本もの腕に剣を持ち、それを四方からアリスへと伸ばす。
未だにリッチは手を残し、自分を守るように配置していた。
だけどここまで接近すれば、制限時間も十分に残っている。もう仕切りなおす必要はない。
アリスは全力で、リッチへ攻撃できる。
宙を舞うように、骸骨の剣を避けていく。
そしてリッチはそれすらも読んでいるように、さらに魔法の弾を周囲へ放ち始める。
一方向だけではない。360度、全方位へ向けて、魔法が放たれていた。避けても、避けた先に魔法の弾は降り注ぐ。
アリスは『シャイニング・シールド』と前方に盾を張る。
それで魔法の弾は防いだ。
しかしリッチの魔力は無尽蔵なのか、絶えず魔法の弾を放つ。
そして盾の中にこもったアリスの背後から、関節を増やし自由度の高くなった腕が、人間では信じられないような動きで迫る。
その手にはもちろん剣がある。
全方位に放った魔法の弾は、もちろんそこら中へ落ちていく。
俺たちの元にも魔法の弾は迫り、学長が器用によける。
魔法学校にも落ちていくのが見えた。あの時、魔法学校を守った学長はここにいる。もしかして魔法学校は無防備なのではと、不安がよぎる。
「大丈夫Sa!信じRo!」
魔法学校に結界が張られているのを見て、ほっとする。
挟み込まれるような形になったアリスは、背後の剣を破壊することによって事なきを得たが、作られた剣はすぐに骨を補充することで再生していた。
「手詰まりよ。アリス姫!お前は私に近付けず、無限に再生する骨どもにやられるがいい!それがお前の最期にふさわしい!」
リッチが勝利を確信して、高笑いする。
アリスの攻撃は剣に依存している近付かなければ、リッチに致命打を入れられない。あの乱打する魔法の弾も威力があり、何個も当たるのはアリスが強いと言っても無視できないダメージとなるだろう。それに当然自分を守る肋骨の部分は、強固にしているはずだ。
生半可な攻撃では、守りを破ることはできない。
「それはどうかしら」
アリスは不敵に笑う。
そして自身の盾にタックルをする。
「何!」
盾ごとリッチへ特攻した。
これなら魔法の弾に直接あたることはない。
骸骨の腕を走り抜け、リッチへ確実に近づいていく。
後少しだ。残り十歩。
「ならば!」
リッチはすぐに作戦を変える。
肋骨の隙間にも肋骨が生え、自分を守りに入る。
魔法の弾の乱射が止まった。
その代わりに、骸骨の腕が増える。
4本が、8本に、そして16本に増えた。
「処理できる本数には限りがあるはずだ!これで、串刺しにしてくれるぅ!それとも逃げるか!」
取り囲むように剣が、アリスを囲む。
逃げ場はない、ただリッチが籠る肋骨の檻の方向以外は。
アリスは盾を不要と判断して、盾を消し、そして大きく踏み込んだ。
「逃げるなんて、とんでもないわ。これだけ必死になってつないでくれたものを、手放すなんてありえない!」
アリスは剣を振りかざさず、大きく引いて、平行に構える。
「そんなちゃちなもの、貫いてあげる」
足元の骨を踏み砕き、リッチのこもる肋骨へ全力の突きを放つ。
『シャイニング・セイバー』
もう一つの太陽のようなまばゆい光が輝き、俺は思わず目を背けた。
アリスの放った魔法を乗せた渾身の突き。
それがリッチの保身のための守りの魔法とぶつかった。
背後から剣が迫り、もし倒せてなければ、その剣がアリスを貫いているだろう。
どちらが勝ったのか。
俺は光が収まると同時に、勝負の決着を見届けるためにアリスの元に視線を戻す。
「はっ……」
剣は深々と突き刺さり、完全に貫通し、命に届いていた。
アリスの背後に迫っていた骨の剣は、アリスの寸前まで迫っていたが、ぴたりと止まっている。
「馬鹿な……。まさか、この私が……」
リッチの声が響き、剣が埋まる肋骨が崩れていく。
そして崩れた隙間から、完全に心臓を疲れているリッチが苦しそうに息をしながら現れる。
「終わりよ!」
『シャイニング・セイバー』
容赦なくアリスは再び魔法を使い、光をまとった剣でリッチを縦に切り裂く。
べしゃりとたくさんの赤い血が、まき散らされる。
リッチはばたりと倒れ伏す。
「おのれ……、おのれ……。またしてもぉ!邪魔をするのかぁ……!あああああああああ!」
断末魔を残し、リッチはぴくりとも動かなくなった。
ゴーレムの肩から流れていく赤い血。
その血だまりの中に立つアリスは、血に染まった剣を掲げた。
剣は太陽の光を反射して、魔法都市にいる全員へと、成した偉業を伝える。
「勝ったんDa!素晴らしいZe!」
学長の言葉で確信する。
俺たちは、魔王軍の幹部に再び勝ったんだ。
「やった。やったんだ……」
興奮よりもまず、安堵が先に立つ。
今日だけで何度死にかけたのか分からない。何度強敵と戦い、死ぬ思いをしたのか。
緊張からの脱力で、危うく学長の杖から落ちかける。
「大丈夫Ka?」
「はい……。今日は疲れました……。家に帰って、寝たい……」
「その前に会わなければいけないんじゃないKa?」
学長の言葉にハッとさせられる。
「そうですね。カノンの無事を確認しないと……」
カノンはまだ逃げていなくて、魔法学校に取り残されているのだ。
何が起こっているか分からなくて、怖がっていないか心配だ。
「そうだNa!」
二かッと笑う学長とうなずき合う。
そして下から湧き上がる勝ち鬨の声に、揺さぶられる。
下を見れば、こんなにもたくさんの人がいたのかと驚かされた。
杖に乗った魔法使いが、数えきれないほどいる。
きっと状況を半分も理解していない人がほとんどいないだろう。だけどそれでも力を貸してくれた。
そしてまだやることが残っていることを思い出す。
ゴーレムにされた人を助けてあげないと。
降りるついでに、詳しい事を学長に説明しないといけないな。
まだ今日は長そうだ。
*
「まだ……。まだ……だ……。終わらぬ……」




