魔法都市(魔法の飛び交う空)
ハカナイさんと一緒に、アリスの後ろを追う。
巨大な骸骨兵士とゴーレムが目の前にそびえたっている。
家がおもちゃのようにしか見えないほどの大きさ。自分がまるでハエにでもなって、人間と対峙しているような感じだ。
そして元の世界の高層ビルを見上げている感覚。
改めてみても、その巨大さに圧倒されてしまう。
しかし俺たちはこの巨大な敵と戦わなければならない、このリッチたちによって引き起こされた事件を終わらせるために。
『プロミネンス・エクスプロージョン・セイバー』
骸骨兵士が振り下ろす剣に合わせて、アリスがいつもの魔法を叩きこむ。
頭蓋骨に命中して、骸骨兵士が衝撃にのけぞる。
骸骨兵士の剣も一緒に空を切って、まったく違う方向へとそれて行ってしまった。
「こいつにかまけている場合じゃないわね。まっすぐにリッチに向かうわよ」
「了解」「分かりました」
俺たちはアリスに続いて、ゴーレムの足元から上へと向かう。
ほぼ垂直の壁のようなゴーレムの身体に沿って、地面と杖を平行にしながら真上に飛ぶ。
杖が完全に垂直になり、杖から落ちそうになってしまい、ハカナイさんの細い腰に思わず抱き着いてしまう。
「きゃっ。突然、どうしたんですか」
「ごめん。落ちそうになっちゃって、な、なんとかできないか?」
勢いよくアリスの戦いについてきたが、さっそく情けない姿をさらしてしまった。
しかもハカナイさんに抱き着くというまごうことないセクハラをかましていた。
後で、訴えられるかもしれない。
その時のことは、その時の自分に任せよう。
「えっと……、私は自分に落ちないように魔法をかけていますけど、それを他人にかけるのは今の状況では難しいです。ひゃっ……」
ハカナイさんは悲鳴を上げながら、上でリッチが放つ魔力弾を避ける。
ぐいっと身体が引っ張られ、思わずハカナイさんに抱き着く腕に力を込めてしまった。
柔らかいお腹に指が食い込む。
ああ、不可抗力だが罪のメーターが加算されてしまった。
「下、気を付けて!」というアリスの警告の声が聞こえる。
ハカナイさんと一緒に舌を見ると、骸骨兵士が倒れた状態のままだが剣は分割され、まるで一本の槍のようにこちらに向かって伸びていた。
杖が傾き、下から伸びてきた骨の槍を辛うじて避ける。
すぐ近くを槍がかすっていった。
そしてその先にいるアリスは、クルンと宙返りをして下へと体を向けて、剣を振る。
『シャイニング・セイバー』
剣から放たれた剣閃は、槍を正面から飲み込み、粉々に砕いていく。
そして地面に横たわる骸骨兵士に命中し、骸骨兵士は縦に半分になってしまう。
「大丈夫?」
「はい。まだ行けます」
ハカナイさんが頷く。
「上からまた来ます」
リッチの魔法の弾が雨のように降り注ぐ。
『シャイニング・シールド』
光の盾がアリスの頭上に現れ、魔法の弾を受け止める。
シールドで防げなかった魔法の弾が、地面に落ちていく。そして爆発し、家一軒を吹き飛ばしてしまった。あれに当たったら、俺は粉々になるだろうな。
そしてゴーレムの身体を足掛かりにして、光の盾の上に乗った。さらにまるで力を貯めるように膝を曲げ、ロケットのように一気にアリスが空へ跳ぶ。
アリスが跳ねると同時に盾は役割を終えて、ガラスのように粉々に砕ける。
「新川さん、そのまま私にしっかりつかまっていてください。速度を上げます」
「わ、分かった」
もう恥ずかしがっている場合でないと割り切って、思い切りハカナイさんに抱き着く。
レベル差もあるから、俺がどんなにしがみ付いてもきっと苦しい事はないだろう。
グイっと身体が引っ張られる。
杖から身体が浮きそうになって、足を杖に絡めて、なんとか落ちないように努力する。
リッチのいる場所を見上げるが、やっと半分だ。
ロックジャイアントと並ぶほどの大きさだ。
空が光り、また魔法弾の雨が降ってくる。
同時にゴーレムの腕が左から薙ぐように襲ってきた。
「向きを変えます」
ハカナイさんは早い判断で、すぐに上へ向かうルートから外れ、ゴーレムの腕から避けるように杖の先を変えた。
アリスも魔法弾を避けながら、ゴーレムの腕から離れるように移動する。
腕が凄まじい速度で、大気を攪拌しながら左から右へ振るわれていった。
発生した風で、ハカナイさんの杖が揺らされる。
「くぅ……。大丈夫ですか。新川さん」
ハカナイさんは杖のバランスを取りながら、俺に声を掛けてくれる。
「大丈夫。……ハカナイさん!右からも!」
右からもゴーレムが俺たちを狙って、腕を振るってきていた。
「はい。でも、杖が……。早く、収まって……。うぅ……」
最初の左腕の風がまだ収まってなくて、まだハカナイさんは飛べないようだ。
「アリス!あの腕を止めてくれ!」
「了解!ちょっと傷付けちゃうかもしれない!」
アリスは足元に光の盾を出して、足場を作りだす。
そして俺たちを叩き落とそうとしている腕に向かって、まるで矢のように跳び蹴りをかました。
ドンとアリスの蹴りとゴーレムの腕がぶつかり、腕がはじかれる。
表面の土が舞い、若干ひびが入るが、ゴーレムの様子を見るに何も問題は無さそうだ。
よろよろとゴーレムが後ろによろけた。
しかし倒れるまではいかないようだ。
肩に乗るリッチも何かの魔法でも使っているのか、全然落ちる気配はない。
「もう大丈夫です」
ハカナイさんは体制を整えられたようだ。
「よし。行こう」
しがみ付きなおし、頷く。
杖が加速し、アリスの後を追う。
アリスは蹴りつけたゴーレムの腕に着地し、そのまま腕を辿って登っていっている。
ゴーレムの腕の表面を踏み砕き、それが土埃となって舞う。
まるでスポーツカーのような速さで腕を駆け上り、リッチへと近づいていく。
リッチはアリスへ狙いをつけ、魔法弾を乱打する。
じぐざぐにアリスは走り、魔法弾の間を縫うように走る。そしてゴーレムの肘辺りを超え、二の腕にさしかかる。
後少しだ。もしかしたらこのままリッチを倒せるかもしれない。
でも制限時間が足りない可能性も。
その時、リッチと真逆の方向で光があることに気付いた。
光の方を向くと、そこにはこちらに向かって歩いていたゴーレムたちが足を止めて、口に光を貯めている所だった。
「ハカナイさん、後ろ!アリスも、気を付けて!ゴーレムから魔法が来る!」
膨れ上がる危機感に身体中が虫に這いずり回れるような感覚に陥りながら、必死で声を張り上げる。
ハカナイさんも気付いて、魔法の発射準備しているゴーレムたちの方を見た。
「つかまっていてください」とハカナイさんは体制を低くして、杖の速度を加速させる。
アリスにも伝わったのだろう。口に光を貯めて今にも魔法を打ち出そうとしているゴーレムを横目に見ながら、足は止めない。分身でもしそうなほどの動きで、リッチへ向かう。
勝負を決めるつもりだろう。
そして剣を両手で強く握り、今にもいつもの魔法を使おうとしているのが目に入った。
確実に当てられる場所に入れれば、すぐにでも打ち込むつもりだ。
しかし俺の手の中に剣が戻って来てしまう。
手が空になってしまったアリスは悔しそうに顔をゆがめる。
それと同時に、ゴーレムの口が輝く。
十数の魔法が俺たちに向かって放たれた。
アリスはトントンと後ろに大きく飛びながら、魔法の射線上から離脱していく。
迫ってくる魔法をハカナイさんが逃げている間、俺はしがみつきながら自分たちへ向かってくる魔法を見つめる。
ハカナイさんは見事な杖さばきで、全ての魔法をよけきった。
そしてアリスも光の盾を出しながら、空中を移動し、魔法を避け防いでいる。
ハカナイさんもアリスも傷一つない。
しかし俺たちに当たらなかった魔法は、リッチの乗るゴーレムに命中した。
激しい爆発が、ゴーレムの身体を包んだ。
爆風にゴーレムの身体の土が混じっているような気がする。
そして一発だけゴーレムから外れて、大きくそれていく。
「まずい!」と俺は思わず声を出してしまう。
その一発が魔法学校へと飛んで行ってしまっている。
あそこにはまだ外出を禁止されて、救出もされていないカノンがいるはずだ。
ゴーレムの魔法は、家を吹き飛ばすほどの破壊力を持っている。
それをカノンが受け止められるとは思えない。
もう既にアリスが止められそうな距離にはない。
「カノーン!」
俺はカノンに向けて、聞こえるはずもない叫びをあげる。
魔法学校が吹き飛ぶ様子が脳裏に浮かび、思わず目を閉じる。
ドカンという爆発音が聞こえた。
リッチにばかり気を取られて、カノンの安全について抜け落ちていた。
ピョイ教授に頼まれていたのに。




