魔法都市(逆転の一手)
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何かがへし折れ、壊れる音が聞こえる。
穴の底から、徐々に大きく登ってくる。
3人で必死になってゴーレムを落とした穴から、音が昇ってくる。
何かが上がり、俺たちに向かって迫ってくる。
そして瞬く間に、その音はすぐそばまで迫り、それは噴き出した。
ゴーレムは勢いに流され、宙を飛ぶ。
穴から間欠泉のように噴き出す大量の骨。
動物の、鳥の、魚の、人間の骨がゴーレムの質量に負けて折れまがりながら、ゴーレムを地上まで持ち上げたのだ。
吹きあがったゴーレムは地上に着地し、再び俺たちの前に立ちふさがる。
「ああああああああああああああああらあああああああああああああああああ!」
俺を見下ろして、ゴーレムは叫ぶ。
やっとのことで穴に堕としたのに、また振り出しに戻されてしまった。
「おい……。どうすんだよ……」
センダイがゴーレムを見上げながら、呆然とした声で言った。
俺が聞きたいくらいだ。
もう一度、穴に落とす?いや、種の分かった策など、リッチがすぐ近くにいるのに決まる訳がない。
倒す?坑道のキメラすら、6人で道具ありで何とか倒せたんだ、無理に決まってる。
逃げる?カノンを連れて。ゴーレムとリッチから本当に逃げられるものか。
その絶体絶命な状況に、自然と呼吸が早く細くなる。
緊張と恐怖。
それが俺に降りかかってきた。
今まで何とかなってきた。だけどそれは俺の力ではない。
ただただ周りが頑張った結果だ。
さっきだってゴーレムを落とせたのは、ハカナイさんが場所を見つけ、そこまで届く魔法をセンダイが使ったから。
今、俺の手の中には使えもしない剣と杖しかない。
植物魔法を今使ったって、油断もしていないリッチになど通用しないだろう。
万事休すという言葉がぴったりだ。
「ほう、ゴーレムを回収しに来たが、まさかこんな場所であなたと会うとは……。面白い偶然ですね。まさかキメラとアカガを殺してきたのですか?あなたは本当に凄まじい力をお持ちのようだ」
リッチが口を開いた。
未だ魔法陣は展開されたまま、穴からうぞうぞと骨が溢れてきている。
地面は良く分からない骨で覆われていく。
この口ぶりだと、あの鉱山であったことのすべてを知らないようだ。
そしてまだ俺の力を測り損ねているようだ。
しかも俺にとって悪い方へ。
「なるほど。ゴーレム一体だけでは、役不足ですね」
ぱちんとリッチは指を鳴らす。
地面がドスンと音を立てる。
何事かと当たりを見回すと、リッチの背後で魔法都市の外側の人たちと戦っていたゴーレムたちがこちらを見ていた。
そしてまるで軍隊のように、そろって足を上げて、こちらへ一歩踏み出した。
ドスン。ドスン。
すべてのゴーレムが、俺へ向けて進む。確実に一歩一歩。
背後から魔法を受けても、気にも留めていない。
地獄。
状況が悪くなる一方で、めまいがする。
センダイの肩に手を置いて、倒れそうになるのを耐える。
もしバランスを崩して、こんな状況で転落死などしたら、お笑い草だ。
いや、下で溢れている骨の上に落ちれば、クッションになって転落死はしないかもしれない。
待て。そんな事を考えている場合ではない。
何とかして、この窮地を突破するんだ……。
リッチかゴーレム、どちらかをどうにかすれば……。どうにかって、どうやって……。片方をどうにかしたところで、もう片方をどうするんだよ。
時間を無駄に使っていたら、あのゴーレムたちも来てしまう。
リッチっていうのは、魔王の幹部だぞ。今の戦力でどうにかできるのか?
千年も前から生きている化け物。
そんな奴に、今からこの急造の3人組で?
「ご、ゴジョ―先生、手伝ってください。このゴーレムを……」
センダイがリッチに向かって話しかける。
「察しが悪い人ですね。この状況で私が、新川君の味方であるはずがないでしょう。やはり、もともとの頭の悪さは、死んで蘇っても治らないようですね」
リッチはため息をつきながら言った。
やれやれと肩を竦めて、首を振る。
「死んで、蘇る?何を言ってんだ。バカにすんなら、これでも喰らえ」
短気なセンダイはリッチへ雷撃を放った。
しかしそれは巨大な手によって、防がれてしまう。
「なに!」
そう、巨大な白い骨の手によって。リッチの目の前に、守るように手が突然現れたのだ。
その手は地面から生えてきていた。
どこからそんな手があったんだと疑問に思ったが、すぐに理由が分かった。
地面から溢れてきている骨が寄り集まって、その巨大な手を形成していた。
よく見ると、何十本もの骨が一つの骨を作っているのが見える。
その手がずるずると地面から引き抜かれるように伸びていき、肘と二の腕ができて肩が現れ、そして人間の頭蓋骨を模した頭が出来上がる。
続いて、肋骨、背骨とどんどんとゴーレムに並ぶほどの大きさの骸骨が出来上がっていく。
「あいにくと私は戦闘ができる訳ではないので、申し訳ありませんが、相手はこちらでさせてもらいますね」
出来上がった骸骨の巨人。
しかも同じ要領で作った剣を持っている。骨を何本も集めて圧縮して作った大剣。
あの魔法陣が消えないのは、この骸骨の兵士を作るためのものだったからだ。
つまりリッチの極大魔法は、この骸骨兵士。
ダークナイト・グランドの極大魔法も、千年の間守り続けてきた強力な結界を破り、アリスとミコが二人がかりで防いだもの。
そうだとするなら、これもそれ相応の力を持っているに違いない。
そんなものとこんな状況で相対しなければならないなんて、運がないと嘆くレベルではない。
「かたき討ちなどの趣味はありませんが、あいにくとあなたを殺さない限り、安心できないのです。研究をするにも、不安要素があると頭の回転が悪くなりますから。それに魔法学校内にも欲しいものが残っていますからね」とリッチは言いながら浮遊して、ゴーレムの肩に乗る。
魔法学校に欲しいモノ?
研究の論文とかだろうか。
いや、そんなものよりも、リッチは確実に俺の命を狙いに来ている。
こんなレベル1で何の役にも立たない俺の命を。
笑える話だ。俺自身は全く笑えないが。
ゴーレムと骸骨兵士。
巨大な化け物が、俺の前に立ちふさがる。
それと比べれば、俺はなんと小さい事だろうか。
絶望的な状況が、さらに悪化して、悪化して、悪化して、逆に冷静になってきた。
「センダイ、ハカナイさん、聞いてくれ。ゴジョ―先生は魔王の幹部のリッチだ。ゴジョ―先生に乗り移って、この学校にやってきて実験をやっていた。状況は俺もはっきり言って、良く分かっていない」
俺は意識して淡々と話す。
少しでも油断すると、弱音が出てしまいそうだ。
「ま、魔王の幹部?そんなバケモンがこんな所にいんのかよ。ふ、ふつうあり得ないだろ……」
「でも極大魔法は魔王の幹部しか使えない魔法。はっきりと私も聞いたので、間違いないと思います」
「そうだ。それと今から俺たちは戦う。大丈夫。すぐに助けは来る」
そう、アリスが来れば、盤面をひっくり返せる。
「助けが?先生たちが来るってことか?」
「いや。違う。今は別行動しているけど、これだけ暴れているんだ。気付いているはず。もう向かっているはずだ」
俺はゆっくりと呼吸して、はっきりと断言する。
そう思わなければやっていられない。
「分かった。ここはもう腹をくくるしかねえな」
「私も。最後まで戦います」
センダイとハカナイさんから快い返事を得て、俺はリッチを指さした。
「全力で前へ!」
「よし来た!」「はい!」
二人は俺の指示に従って、前へ飛ぶ。
そして驚いた顔をしているリッチの横を通って、ゴーレムと骸骨兵士をすり抜ける。
良かった。リッチの意表を突いたおかげで、最悪の場所からは突破できた。
「逃げるつもりですか。だけど逃がしません」
後ろを見ると、剣がまるで糸のようにほどけて、まるで投げ縄のように俺たちに迫ってくる。
「ハカナイさん、後ろに吹雪を」
『スノウ・ブリザード』
すかさずハカナイさんが背後に向かって、吹雪を生み出してくれた。
吹雪に煽られて、細くなった骨は目標を外れ、ばらばらの方へ飛んで行ってしまう。
「よし。これからリッチに攻撃するふりをする」と軽く二人に説明する。
「攻撃するふり?そんなもんしてどうするんだ?」
「時間稼ぎと来てくれる人に知らせるためだ。だから一番大きな音が出そうなセンダイの魔法を強化したい」
「強化?」
ハカナイさんが首をかしげる。
「もうあの魔石もねえぞ」
キメラ戦のことを言っているのだろう。
あの時には、センダイの魔法を魔石で強化していた。
「強化するのは、音と外面だ。ハカナイさんの魔法とセンダイの魔法を合わせればできるかもしれない。いきあたりばったりだけど、やってみよう」
この場を何とかできるのは、アリスしかいない。
まだこの場に来ていないのは、きっと地下下水道で聞こえなかったり遠回りをせざるを得ないからだろう。
今は地下下水道に穴が空いている。そこからなら、きっと届くはずだ。
「強化するのはいいが、お前は何かないのか魔法とか」
センダイからついにその疑問が出た。
「俺は何もできない」と正直に言う。
「何もできない?どういう事だ?」
「俺はレベル1なんだ。だから魔法も使えないし、剣も使えない。もっと言えば、身体能力も赤ん坊レベルらしい」
「は?」とセンダイが絶句する。
毎回同じ反応されて、もう慣れてきた。
「ステータスカードを見てもいいよ。だから俺は戦えない」
「なんだそりゃ、冗談きついぜ」とセンダイが言った。
「だけど、本当なんだ。俺はレベル1で戦えないんだ。俺は何もできないけど、ごめん、こんな事をさせて」
戦えないから、こんな風に誰かに頼るしかない。
「レベル1で、フリョ・リダの奴に勝ったのかよ。化け物だな、あんた」
「何言ってんの?センダイ」
センダイの言った内容の意味が、分からない。
何で俺が化け物呼ばわりなんだ。
「良いぜ。こうなったら、とことんやってやる」
センダイが何故かさらにやる気を出した。
「わ、私も頑張る……。新川さんがこんなに頑張ってるのに、私が怖がってちゃだめだよね」
ハカナイさんもフンスと気合を入れている。
何が何だか分からないが、協力してくれるらしい。
「で、具体的にどうするんだ?」
「もう少し距離を取ったら、雷雲を作ってみようと思う。ハカナイさんの吹雪の魔法に、センダイの魔法を重ねれば似たようなものができないかなって」
「できるかどうか、俺も分からないがやるしかないな。相手はデカすぎるし、はっきり言って強い事は確実だ。何でもやってやらぁ!」
「『スノウ・ブリザード』ですよね。分かりました」
二人から快い返事が来たところで、「逃がさないと言ったはずだが?」と声がして、いつの間にか地面を伝って近くまで伸びていた骨が地面から飛び上がってきた。
「避けろ」と二人に叫ぶ。
何とか避けたが、こんな事では反撃ができない。
飛ぶ速度よりも早く骨が広がっていく。これでは逃げられない。魔法を使う時間が稼げない。
雷雲のような魔法を使えれば良いと思ったが、現実はそんなに簡単ではない。
リッチは未だに魔法陣を張っており、極大魔法がまだ終わっていないのだ。
あの骨を無限に生み出しているような魔法。
まるで波が押し寄せるように、俺たちの足元で骨が広がっていき、的当てのように俺たちに向かって骨が何本も出てくる。
「くそっ、避けるので精いっぱいだ」
センダイが苦しそうに言う。
このままではじり貧だ。最終的には、反撃の魔力すら飛行の魔法に使い切らされてしまう。
次から次に、問題が起こり続ける。
だけど今は何もない。センダイとハカナイさんを信じて、このままよけ続けてもらうしか。
ドン!
何かがぶつかる音。
「大丈夫かYo!」
そして聞き覚えのある愉快な声が聞こえてきた。
そちらをみると、学長が地面の骨へ向かって何度も魔法を放っている。
骨がばらばらに壊れ、僅かに骨の波がそこだけ穴が空く。
「これはどういうことなんDa!ゴーレムが出てきたと思えば、今度は大量の骨Da!説明を要求するZe!」と学長が言った。
「また変なことに巻き込まれているね。避難を完了させたから、僕も助太刀するよ。もう回復薬で全快だよ」と生徒会長やユキ先輩たちがいる。
それにも他にも先生方が集まっていた。
「魔王軍幹部のリッチです。そいつが、今までの騒動の原因だったんです。その骨は極大魔法によるものです。それで骸骨作ったり、武器を作ったりしてくるので気を付けてください」
「魔王の幹部だTo?それはもう、あの方案件じゃないKa!それであの方は、どこDa!」
「分かりません。でもまだ地下下水道だと思います。だからこれから魔法を使って、大きな音を立ててみたいと思います。それが聞こえれば、飛んできてくれるはず」
「なるほどNa!勝算があるってことだNa!こっちはなにをすればいいんだNe?」
「俺たちを守ってください、ゴーレムとリッチの骨から。魔法が完成するまでの少しの間で良いんです」
学長へ無理なお願いをする。
魔王軍幹部なんて、こんな所にいる人たちで立ち向かう相手ではないのだ。
実際、俺の話を聞いてすぐに逃げてもいいはず。
「了解Da!聞こえていたNa!全力で守るんDa!」
学長が周りにいる魔法使いたちに声を掛けると、「はい」とうなずき合い、すぐに俺たちを囲んで結界を張ってくれた。
「ハカナイさん、センダイ。お願い」
「はい」「よっしゃあ!」
ハカナイさんとセンダイは、リッチへ手を向ける。
『スノウ・ブリザード』
吹雪が結界の外で球場の空間で吹き荒れる。
そこへセンダイの魔法が加わると、どうなるか。
センダイが雷の魔法を使う。吹雪の中へ吸い込まれる雷の魔法が、バチバチと吹雪の中で帯電する。
この小さな吹雪は、雲の代わりだ。そこに雷の魔法を入れれば、自然と雷がこの中で大きくなっていくはずだ。
そして巨大な雷となって、威力は望めないかもしれないが、轟音を立ててくれるはずだろう。
それがアリスに聞こえれば、きっと危機を察知して来てくれる。
地面から伸びる骨の槍や矢は、周りの魔法使いの人たちの張る結界のおかげでなんとか防げている。
しかし足が遅いとしても、着実にリッチやゴーレムたちは迫ってきている。
この結界が魔王軍の幹部であるリッチの作り出したあの巨大な骸骨兵士の剣を受け止められるのかははなはだ疑問だ。
何としても、リッチたちの手が届く範囲に入る前に魔法を打ち出さないと。
ちまちまとした骨による攻撃も、ここから俺たちを逃がさないためなのだろう。
早く魔法を撃たないと。
吹雪の中に雷の魔法が充電されて、もうそろそろ撃てそうなほどのおどろおどろしい音をさせ始める。
リッチたちもすぐそばまで来ていた。
「よし。センダイ……」とセンダイに声をかけて、魔法を放ってもらおうとしたとき、唐突にセンダイが頭を押さえた。
魔法がうまく使えないのか、一緒に乗っている杖の高度が徐々に落ちていく。
「センダイ、どうしたんだ!」
「うぐぅうううぐぅううううう……」
苦しんでいるセンダイの肩を掴んで、何が起こったのか尋ねる。
もしかしたら、魔法を使い過ぎたのかと不安になった。
それが原因でミコは、死んでしまったから。
しかしセンダイは俺の心配を無視して、ぐるりと後ろに乗る俺に振り返ってきた。
「センダ……ぐふっ……!」
突然、俺の首に手を伸ばし、首を両手で絞めた。
そして俺たちはバランスを崩して、杖から地面に落ちてしまう。
浮遊感が俺を包み、地面を覆う骨の上に背中を打ち付けた。。
凄まじい衝撃に一瞬、意識を失いそうになる。
センダイが苦しんでいる間に、高度が下がっていたのは幸いだった。もし元の高度のままだったら、俺はそのまま死んでいたはずだ。それに骨がクッションになった。
しかし首を絞めるセンダイの手は、全く緩まない。
何とか逃れようともがくが、万力のような手の力に全く歯が立たない。
首がねじ切れそうだ。
「新川君。今助けるYo!」と頭上で学長の声が聞こえた。
ダメだ、そう言おうとしたが声は出ない。
センダイはただ操られているだけだ。当然考えるべきだった。フリョ・リダたちはゴーレムにされて操られているのに、センダイが逃れられるわけがなかった。
それにふざけた口調をしていても、仮にも立場は学長だ。学長が生徒を攻撃しちゃいけない。
しかしその言葉が、口から出ることはない。
意識が遠くなっていく。
もし首の骨を折る方向だったら、俺は一瞬でも耐えられなかっただろう。
しかしどっちにしろ変わらない。
たかが数秒、俺の命が伸びただけだ。
俺の力でセンダイの手から逃れることなどできないのだから。
しかしされど数秒だ。
轟!
光の柱がリッチの背後で上がった。
ちょうどゴーレムを落とした落とし穴のある場所だ。
その激しい衝撃は周囲の骨を吹き飛ばし、粉々に砕いていく。そしてその吹き飛ばされた骨は、俺の上にのしかかり首を絞めているセンダイの身体に当たり、センダイを吹き飛ばした。
俺は幸い、地面に押し倒されていたおかげで何とか被害を受けずに済んだ。
ギリギリで俺は生き残れた。
「ごほっ……。ごほっ……。良かった。届いていた……」
あの光は見覚えがある。
いつも俺と一緒に戦っていた光。
やっとアリスが来てくれた。




