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Lv1の剣  作者: 豚野朗
魔法都市
83/206

魔法都市(逃走劇)

「くそっ。なんで追ってくるんだ。戦っていたんじゃないのかよ」

 同じ杖に乗るセンダイが愚痴をこぼす。

 背後からどすどすと動きは鈍いが、確実にこちらに向かって歩いてくる。

「あああああああああああああああああらああああああああああああああああ!」

 ゴーレムは声にもならない叫びのような唸り声をあげている。

 寸胴鍋に、適当に作った手足をくっつけたような雑なつくりのゴーレム。

 どんどんとゴーレムの背中に魔法が命中しているが、何がそのゴーレムを駆り立てるのか分からないが、まっすぐに俺たちを追って、手を伸ばしてくる。

 動きは鈍いが巨大すぎるために、一歩足を動かすだけで、飛んでいる俺たちに追いついてしまう。


 このゴーレムもフリョ・リダのグループの誰かには違いないが、もうその外見からでは誰なのかも分からない。

 アカガからは助けられないと断言されている。

 そして後、半日の命だと。

 何とか助けられないか。そう思うけれど、俺には知識もなければ力も魔法もない。

 あるのは、自分の手で戦えもしない剣だけだ。

 これをアリスに渡せば、この状況とも戦える。

 しかしゴーレムにされた彼らを救えない。

 魔王軍幹部、リッチ。

 奴をとらえなければならない。

 そのためにも、魔王軍幹部と戦えるアリスと合流する必要がある。


「あああああああああああああああああらあああああああああああああああああああ!」

「うるさいな」とセンダイが不快そうな顔で言う。

 あれが元人間だと、センダイとハカナイさんには伝えていない。

 伝えた方が良いのかも分からない。

 伝えた結果、センダイがどういう行動をとるのかが恐ろしく感じる。

 フリョ・リダを助けようと動くのか、それともやけになってしまうのか。または信じないのか。

 俺は話す勇気もなく、ただ魔法学校へ進む。


 ここへ来る途中ですれ違ったピョイ教授にカノンを任されたのだ。

 カノンを避難させてくれる人間はいない。

 学長などカノンを知っている人間はいるが、おそらく手は回らないだろうからという事だ。

 だから俺はアリスに剣を渡す役割と同時に、カノンを避難させなければならない。


 アリスが今どこにいるのか。

 ゴーレムと魔法都市の外の人たちの戦いに混ざっていないことを考えると、まだ気づいていないのかもしれない。

 そしてどこにいるのかも分からない。

 こちらに気付いてくれるのを待つしかないのか。

 後ろから追ってくるゴーレムも気にしなくてはいけないし。

 どうにもならないことが多すぎる。


「このまま魔法学校まで行っていいのか。あれも連れて行ってしまう事になるぞ」

 センダイの言う通り、ゴーレムを連れていくのはカノンを連れ出す仕事の邪魔になる。

「でも止める方法がないし……。くそっ、どうすれば……」

 思わず汚い言葉が出てしまう。


 ただ俺はアリスに剣を渡すために戻ってきたのだが、どんどんとやることが増えていく。

 アリスに剣を渡すためには、アリスを見つけないといけないが、背後のゴーレムが追ってきてゆっくりと探せない。

 ゴーレムを倒そうにも、アカガの説明ではおそらく坑道のキメラよりも強いゴーレムを3人いや、俺は役に立たないから2人だけで倒すのは難しい。

 倒すために、どこからか人を集めないといけないが、そんな伝手も今はない。

 しかも他の魔法都市の市民は、どんどんと都市の外へと杖に乗り、飛んで逃げて言っている最中だ。

 生徒会長たちもハカナイさんの説明では避難の誘導をしているはず。

 流石にこんな死地にまた来てくれなんて頼めないし、そもそも頼む暇がない。


「一発叩き込んでやる!」

 気の短いセンダイがキレて、手を後ろへ向ける。

 そして目を細めて、狙いを定め始めた。

「やめろ!」

 咄嗟に強い口調で言ってしまった。

「なんでだよ」

 センダイの怒った顔をこちらへ向ける。

 ぱっと言い返せなかった。


 形が変わったとしても自分の仲間をセンダイに傷つけて欲しかった、などとは口が裂けても言えない。


「それは……、そうだ、下手に刺激して、怒らせたらもっと大変なことになる。今は大人しく追わせておこう。まだ俺たちの方が小回りが利いて、攻撃を避けやすい。このまま作戦が思いつくまで、逃げ続けよう」

「なんか、今思いついたみたいな言い方なんだが?」

「ま、まさか……。ゴーレムを倒すのは、確実に無理だ。倒さなくてもいい。何かで足止めができれば……」

 倒さなくてもいい。

 むしろ倒さない方が良い。

 倒してしまったら、もう戻す手段もタイミングも無くなってしまう。


 足止めをすると言っても、あの巨体の足を止めさせる方法などなかなか思いつくものでもない。

 こんな町中でゴーレムの足を止めるなんて、できるのだろうか。

 現に今も、足元の建物を歩くだけで壊したり潰したりしている。建物すらも軽々と壊して見せるゴーレムをどうやって……。


 アリスが来てくれれば、すぐに解決できるはずなのに。

 まだ地下下水道にいるのだろうか。

 これだけ地上でゴーレムがどたばたしていたら、気付いてくれるものだと思うけど、何かあったのだろうか。

 それとも深すぎて聞こえなかったり、戻れなかったりしているのだろうか。


 待てよ、と自分の考えた内容を再考する。

 地下下水道。

 広く深く魔法都市の下に張り巡らされていた。

 そして地下下水道で戦ったキメラ。

 あれがいた場所は、とても広かった。

 後が大変だろうけど、あそこまで穴をあけることができれば、もしかしたら落とすことができるのかもしれない。


 でもどうやってあの場所を見つければいいんだ。

 残念ながら俺にはそんな力はない。

「おい、黙るな!このまま学校に行っていいのかよ!足止めっていうけど、無理だろ。あんなデカいの」

「できるかもしれない。地下下水道に大きな開けている場所があった。そこにあれを落とせれば……」

 今思いついたばかりの作戦を伝える。


「よっしゃ、なら、俺の魔法でどでかい穴ぶち空けてやる。それはどこにあるんだ」

「分からない。と、友達に連れてってもらった場所だから……」

「大体の場所とかは、分からないのか!」

「残念ながら」

「くそっ!」とセンダイは自分の膝を殴る。

 作戦があっても、それを実行するだけの力がない。

 せめてあのアリスと一緒に地下下水道に潜ったときに、地図をもらっておけばよかった。


「あの!」

 その時、唐突に声を掛けられた。

「うわっ!な、なに、ハカナイさん」

「今の話、私ならおおよその場所が分かるかもしれません」

 隣を飛び、白い髪をなびかせながら強張った表情で言った。

「それは本当か?場所が分かるの?」

「はい。確証はありませんが、私の雪の魔法は水の魔法とつながりが深いんです。だから水魔法の汎用魔法なら使えます。今は使われていませんが、過去には地下水の捜索のために使われていた魔法があるんです。それなら、きっと……」

 がたがたとその手が震えているのが見える。


 ハカナイさんも怖いに違いない。

 さっきキメラを倒したと思ったら、今度は魔法都市でそれよりも大きいゴーレムに追いかけられているのだから。

 この極限状態で、俺の作戦に名乗り出てくれたのだから、感謝するしかない。

 本来なら、一人だけ逃げてしまっても良いのだから。


「ありがとう。さっそくだけど、魔法で探してしまってもいいかな。きっと増水した時のために水がたまるように広い空間があるはずだ」

「分かりました。すみませんが、集中するので、もし危なくなったら教えてください」

「分かった。お願いします」

 ハカナイさんがすうと息を吸い込んで、乗っている杖が僅かに光った。

 魔法を使って、地下下水道を探る魔法を発動したのだ。


 俺は背後のゴーレムへ振り向いた。

 もし何か攻撃をしてきたら、ハカナイさんに教えなければならない。

 今のところは、手を大ぶりに振りながら、のそのそと追ってくるだけだ。

 その手の動きも、俺たちの脅威にはならない。


 だけどもしも他の方法の攻撃が来たら……。


 ガバリとゴーレムが、唐突に口を開く。足を止め、俺たちに狙いを定めていた。

 そこに光が集まり始める。

 それは何度も見たことがある光景。

 あの高威力の魔法を使おうとしているのだ。

 何故。

 さっきまであんな子供の用に俺たちを追いかけて、手を振り回していたのに、唐突に人が変わったように魔法を使い始めた。


 ハカナイさんを見ると、まだ杖が光ったまま。まだ魔法は完了していない。

 危険を教えるか?

 いや、時間が惜しい。それにこの直線状には魔法学校がある。カノンが危険だ。

 バンバンとセンダイの肩を叩いて、ハカナイさんと逆方向を指さす。


「こっちだ!」

 ゴーレムに手を振り、大きな声で俺を意識させる。

 すると口を開いたまま若干、俺の方に向いた。

 同時にセンダイが俺の指さした方向へ曲がる。

「センダイ。何とか避けてくれ、ハカナイさんが魔法が終わるまで」

「了解!」

 俺とセンダイの乗る杖を、ゴーレムは足を止めたまま顔だけを動かして追う。

 それでいい。

 このままセンダイがあの魔法を避けてくれれば。


 しかしガキっと音がして、ゴーレムの顔がハカナイさんの方へ動いて行こうとする。

「しまった!」と俺は叫んでしまう。

 このままだとハカナイさんがあの魔法を食らってしまいかねない。

「センダイ、戻って……」とセンダイにお願いしようとしたとき、もう一度同じガキっという音がした。

 再びこちらへゴーレムの顔が動いている。


「な、何なんだ?」

 そしてガキガキと俺たちとハカナイさんの間を往復し、ついに口の中に溜まった光はまったく狙いの定まっていないまま遠くの山へと一直線に飛び、大きな爆発を起こした。

 結果的には、俺の思惑の通りハカナイさんに当たらなかったが、ゴーレムの動きには違和感がある。

「動作不良って奴か?」

 センダイも呆気にとられた顔で、ゴーレムを見下ろしている。


「分からないけど、ハカナイさんの魔法も終わっているみたいだ。聞きに行ってみよう」

「ああ!」

 杖は光をなくし、ハカナイさん自身は俺たちを探しているのかきょろきょろと周囲を見渡している。

「ハカナイさん。どうだった?」

 俺が声をかけるとほっとしたような顔をして、近づいてくる。

「み、見つけました。魔法学校の校門の外側の地下にあるみたいです」

「よし。そこまで誘い出そう。それでセンダイの魔法で、穴をあければ……。多分、うまくいくはずだ」

「多分なんて、めんどくせえこと言ってないで、やるぞ」

「ああ」

「はい。私も協力します」

「繰り返すけど、あのゴーレムには当てないようにしよう。あくまで当てるのは、地面だ」

 念を押す。


 そんな風にしゃべっている間に、ゴーレムは俺たちに向かって歩いてくる。

 簡単な作戦を伝えて、ハカナイさんを先に魔法学校に向かわせた。

 そして俺とセンダイはゴーレムの誘導のために、ゴーレムへ挑む。


 ゴーレムを見下ろすと、改めて笑ってしまうほどに大きい事が分かる。

 そして俺たちを顔にあると思われる目に認識されたことを確認して、回れ右をして魔法学校へ向かう。

 想定通り、ゴーレムは俺たちに向かって動いた。

「よし。ついてきた」

「あぁ、このまま飛べばいいんだよな」

「そう」

 センダイと一緒に魔法学校へ飛ぶ。


 背後を見ると、ちゃんとゴーレムはこちらに向かって歩いてきている。

 さっきのような唐突に魔法は使ってこない。

 何だったのだろうか。さっきの魔法の時に、頭を変な風に動かしていたのは。

 まるで何かに抵抗するような動きをしていたような気がする。

 今はその様子はない。

 最初と同じように俺たちについてきている。


 次、魔法を使われたら、防げないだろう。

 ゴーレムがどういう判断をしているのか分からないから、少し不安だ。

 このままついてきてくれるだろうか。


 すぐに魔法学校の校門が見える。

 既にハカナイさんが校門の上で、杖を構えて待っていた。

 センダイが飛行速度を上げて、ハカナイさんの横を駆け抜ける。

 同時にハカナイさんが結界を張った。

 結界はただの時間稼ぎに過ぎない。

 ゴーレムが見て、割るために足を止めればそれでいい。

 そのすきにセンダイが足元を破壊するのだ。

 ゴーレムは安全な地下下水道へと落ちていく。

 そして俺たちはカノンを助けに行く。

 それが作戦の全容。


 ゴーレムが足を止めればいい。

「あああああああああああああああああらあああああああああああああああああ!」

 言葉にならない声を、結界の前で足を止めたゴーレムが叫ぶ。

 リッチに操られている中で、何を思っているのだろうか。それとも意思はないのだろうか。

 だけどそれは分からない。


 そう思っていた。


「くぁわあああああああああああああああああああああああああああああああ!」とゴーレムは腕を振り上げた。

 俺は今聞いたゴーレムの声に息をのんだ。

 ぶるりと身体が震える。

 もしかして、と巨大な腕を振り上げて万歳した状態の元人だったとは思えない歪な形のゴーレムを見上げた。

 そのゴーレムの顔は、人間らしい所は何もないただの岩だ。


 さっきの声と後の声をつなげ無駄な叫びを除くと、あ、ら、くぁ、わ。

 つまり俺の名字になる。

 俺に強い執着をしていたゴーレムにされた人間。

 それはただ一人しか、思いつかない。

 目の前のゴーレム。

 これが、フリョ・リダ。


「おい、今のお前を呼んでなかったか!」

 センダイが俺に尋ねる。

「今、新川って、言ったよな、あれ!何なんだ、あれは!?」

 センダイの声で、気付きの衝撃から立ち直る。

「それよりも、まず作戦の方だ!あんな腕をハカナイさん一人で受け止められない!」

 上から振り下ろされるゴーレムの腕。

 キメラの攻撃の日にはならないほどの質量と速度を兼ね備えている。

 二人の結界で耐えていたが、今回は一人きりだ。紙よりも容易く結界を破ってしまうだろう。

「それよりもって……。くそっ!仕方ねえ!後で説明してもらうぞ!」

 文句を言いながらも、センダイは杖を地面に向ける。


『サンダー・ボルテックス』


 杖から走る雷光。

 それはゴーレムの足元の地面を砕き、土埃を舞い上げる。

 そしてボンと周囲の地面が一瞬動いた。

 ゴーレムの足元に穴が空き、そこにゴーレムの巨体が沈んでいく。

 地面がくぼみ、砕け、大きく穴が広がっていく。

 あんな巨大な質量を持ったものが、下に空洞がある地面で支え切れるわけがない。特にこの下には大きな空洞があるのだ。


 動きの鈍いゴーレムでは、この沈下から逃げることは不可能。

 このままゴーレムははるか下まで落ちていく。

 そして俺は広がっていく穴に沈んでいくゴーレムを、息をのんで見つめる。

 このゴーレムがフリョ・リダだという確証はない。ただ叫びが俺の名字を呼んでいるように聞こえたというだけだ。

 だけど助けられなかった人の一人であることに変わらない。

 そしてこれはただの時間稼ぎに過ぎない。


 事件は解決へ進んでいない。ただ時間が状況が進んで行く。

 俺はただの何もできない人間に過ぎないのだと空しく実感する。


 ゴーレムが穴の中に落ち、激しい水の音がした。

 ちゃんと下まで落ちたのだろう。

 これでカノンを安全に助けに行ける。

 それからのことは何も決まっていないけど、今はピョイ教授に頼まれたことだけでも果たそう。

 センダイとハカナイさんに、声を掛けようとしたその時……。


『極大魔法 アンデット・リザレクション』


 低くおぞましい声が聞こえた。

 極大魔法。

 それはエルフの隠れ里でも聞いたことのある魔法。

 俺は声の聞こえた方へ視線を向けた。


 巨大な魔法陣。

 恐怖を感じるほどの恐ろしい笑み。

 そこにゴジョ―先生に成りすました、リッチ、がいた。

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