願い(研究の目的)
ドスンドスン。
鉱山を揺らしながら、その巨体が進む。
キメラと同じような見た目だが、明らかに二回りも巨大だ。
一歩足を踏み出すたびに、地面が揺れる。
それはまるで巨大な要塞のようだ。
そして木と地面に挟まれて倒れるアカガを見下ろし、「軟弱物の息子め。あのピョイにしてられたな?仕方ない。息子の仕事の後始末は、親である私がやるしかないか」とどこからか声を出す。
ドスンとアカガの隣を通り過ぎようとしたとき、「誰が通っていいって言ったんや。親父」とアカガは瞼をぱちりと開けて言った。
そして地面から巨大な土の手が飛び出して、巨体を空中へ浮かす。
明るい空をその巨体が舞い、すぐ近くの窪地に落ちた。
ずずーん。
地鳴りがして、土埃が舞う。
その巨体を土埃が隠してしまう。
「やっぱり近くにいたんやな。ここから先には行かさへんで。通るなら、オレを倒していけや」
アカガは土埃へ啖呵を切る。
「ほう、つまり親である私に逆らうというのか?」
「そう言っとるやろ。耳に土でも詰まっているんか?……そうやな、最初から、こうしていればよかったんや。強いからとか唯一の肉親だからとか、そんなもんで頭悩ましている間に、ただこうしていれば良かったんやな」
「何を言っているのか分からんが、ならば、やってみろ。この魔物ゴーレムの最高傑作をたった一人で相手取れるならばな」
土埃が風に流され、まったく傷付いていない身体をあらわにする。
それは坑道内のキメラとは全く違う出来。
その事は一緒に作ったアカガも理解していた。
生徒会の人間と一緒に戦って、何とか頭を吹き飛ばして勝つことができたキメラ。
それよりもはるかに強く、固い。
しかもこのゴーレムには、父親が乗り込んでいて、唯一勝っていた頭脳面でも凌駕されている。
「そうやな。勝てる可能性なんて、ほとんどないやろな」
からからとアカガが笑った。
「それが分かっているなら、何で私の前に立つ?今日一日が終われば、こそこそとやる必要もない。貴族の下で働くのは癪だが、それ以上のリターンがある。あのピョイを超えられる」
「そこや」とアカガは指を目の前の巨体の中に隠れているであろう親父に向ける。
「オレ達の目的はそんなもんじゃなかったはずやろ。ただ一つだったはずや。ただどうしてもかなえたいものがあったからやろ。そうやろ!親父!」
アカガが叫び、父親は沈黙した。
「何で、そんなしょうもないものが目的になったんや!目的は全然違ったやろ!あの時、親父は言ったやろが!」
「黙れ!それはまだ先の目的だ!いつか叶えればいい!」
「この先に何があるっていうんや!先なんてないやろ!」
アカガは父親の反論をねじ伏せる。
今度こそ、本当に父親を黙らせた。
「だから、目を覚まさせる。例えどちらかが死んでも、思い出してもらうで。これ以上、こんなあほくさい研究には手を貸せない」
「うるさい!お前は黙って、私の研究を手伝えばいいんだ!」
巨体が跳ね、まるでロケットのように、アカガへ向かう。
『ゴーレム・ハンド』
巨大な石の手と巨大な魔物がぶつかる。
アカガが叫ぶ。
「オレ達の目的はただカノン母さんをよみがえらせるためだっただろうが!」
巨大な石の手は崩れながらも、巨大な魔物を払い落とす。
横に吹き飛んだ父親に『ゴーレム・スタンプ』と唱え、崩された土が足を形成し、魔物に追撃を行う。
しかしそれは腕を振るうだけで、簡単に防がれ、壊されてしまう。
「そんな魔法が、この傑作に届くわけないだろう」と余裕綽々という様子で言った。
「せやろな。フリョ・リダが人間型のゴーレムの最高傑作なら、それは魔物型の最高傑作って言ったところだからな。だけどまだ戦いは始まったばかりやで!」
『ゴーレム・クリエイション』
アカガの周囲の地面が盛り上がり、たくさんのゴーレムが起き上がる。
人間にそっくりののっぺらぼうなゴーレムたちだ。
それが何十体もアカガの周囲で出来上がっていく。
「何か使っているな?」
あっさりと父親に看破される。
「あぁ、単に魔法を強化する石を偶然手に入れてな」
アカガは不敵に笑い、ゴーレムたちに合図をする。
忍者のようにゴーレムは滑らかに走り、魔物型ゴーレムへと飛び掛かっていく。
しかしそれは同じように腕を振るうだけで、簡単に壊されていく。
そしてその人間型のゴーレムを丁寧に倒し続ける。
「こんな大量にゴーレムを出せば、お前の魔力も空っぽだろう。これを壊しきれば、動けぬお前など敵ではない」
笑いながら、虫をつぶすように、ゴーレムをつぶす。
『ゴーレム・ギガント・クリエイション』
「何!?これだけ作って、魔力は尽きたはず」
「クソ高いけど、魔力回復薬ってもんがあるんやで」
ぽいっと空になった容器を地面に捨てる。
アカガの背後には、見上げるほど巨大な人型のゴーレムが現れる。
大きさだけで言えば、父親の乗るキメラよりもはるかに大きい。
それはまるで山のような大きさである。
そしてぐらりとアカガは膝をつく。
「用意できたのは、一本だけやけどな。だけどこれなら……」
「こいつらはただの足止めようだったか。だがただデカいだけでは、このゴーレムに勝てるわけがないだろう。それにこのゴーレムはただのゴーレムではない。魔法を使う魔物も組み込み、魔物だけでは使えぬが、私が乗ることで私の意志で魔法を使えるのだ」
そして今度は足元のゴーレムたちなど見向きもせずに、上に魔物型のゴーレムは顔を上げた。
カパと口を魔物型のゴーレムは広げる。
魔法都市で暴れるフリョ・リダのゴーレムと同じように。
口の中で光が溜まっていく。
「そんなことは百も承知や……。何せオレもそれ作るのを手伝ったんやからな……」
父親に聞こえないような小さな声で呟いた。
「絶対に倒せない……。普通の方法じゃ……。オレと親父の間には、天と地ほどの魔力と道具の差があるんや……」
さらに魔物の口の光が大きくなる。
今にも魔法が発射されそうだ。
「だけど、修平とフリョ・リダとの差に比べれば、微々たるものや……。だったらあいつと同じようにやってみるしかないやろ」
すると次々と大量に作った人型のゴーレムが、突然弾けるように壊れていく。
そして大量の土埃を起こし、魔物型の魔物を包む。
「そんなもので目くらましをしても、もう無駄だ。既に魔法は十分に充填されている」と父親が嘲る。
「目くらましなんかやない。これは攻撃や。そしてこっちのデカいゴーレムの方が、オレを守る盾なんや」
アカガは自分を覆うように、巨大なゴーレムを動かした。
「新川との戦いをもっと聞いておくべきやったな、親父。安易に炎の魔法を使ったのが、運の尽きや。それに……」
土埃の中にキラキラと輝く石がいくつか宙を飛んでいる。
「魔石の誘爆は新川の得意技だったけど、土の中に混ぜてしまえば気付かれずに近づけさせることができるから、オレも使えるんやで。魔力回復薬と一緒に買っておいてよかったわ」
大爆発。
爆炎と爆音がゴーレムたちを一瞬で包み込む。




