懊悩(レベル差)
上手くいかないもんやな。
心の中でため息をつきながら呟く。
土の魔法を使って、生徒会長たちと分断することには成功した。
オレを怪しんでいる様子の生徒会長が早くこの坑道から出ようと焦っていたことが功を奏したようだ。
全員が生徒会長の方へ寄ってくれたおかげで、偶然二人きりになれた。
4人ともここまでの道程と先ほどの戦いで疲れている。この土の塊をどかすような余力は残っていないはずだ。
このまま奥に行けば、まだ作戦は続けられる。
父親とリッチに命令されて、嘘で修平をこの坑道に誘い込んだのは良いが、生徒会長たちまでついてきてしまった。
これではあの魔物を使って、修平の戦力の判断をするという目的を全く果たせない。
魔王の幹部を二人も倒したという実力を測る最後のチャンスなのだ。
しかし修平が実力を見せるまでもなく、キメラを倒してしまった。
あの魔物は最上位の冒険者であってもてこずるはずなのに、せいぜいレベルが3桁の6人で倒してしまった。
経験値が山ほどオレの中にも入ってきたのが分かる、あの魔物はちゃんと強い。
強い事は確実なんや。
何しろ、あの父親がかなり渋りながら、この魔物を手渡してきたのだから。
だけど修平は周りに指示を出して、さらに鼓舞をするだけで、魔物を倒してしまった。
まるであんな魔物なんて戦い慣れているとでもいうように。
本当に修平は魔物と戦ったことがあるのだろう。
そしてそれを父親とリッチは知りたがっている。
レベルはどのくらいなのか、どんな魔法を使うのか。
そういうことを調べてこいというが、今のところは全く測れていない。
特に魔法についてだが、まるで生まれたばかりとでもいうように何も知らないような状態だった。
だとしたら、腰に下げている怪しげな剣が主要武器なのだろう。
しかし実力を使うことなく、あの魔物を倒してしまったのだ。
リッチの言った魔王の幹部にはかなわないが、あの魔物であっても相当の実力があった。
実際、オレも敵対してみて分かる、あの魔物の恐ろしさを。
修平以外の奴らも、ビビっていた。
当たり前だろう。
最前線の冒険者や軍の人間が戦うような相手なんだから。
しかし修平は恐れもせずに、あの魔物を倒した。
あれ以上の魔物なんて、それこそ魔王の幹部であるリッチやそれに順ずる魔物だけだ。
しかしリッチの話では、修平が魔王の幹部と戦って勝利しているらしい。
そうなのだとすれば、あの魔物は役不足だったのかもしれない。
何しろ、魔王の幹部を倒すというのは、何十年に一度の偉業なのだから。
もし一人で何体も倒しているのなら、それはあの勇者と呼ばれているアリス姫に匹敵する強さを持っているという事だ。
強さというのは絶対的な力の差だ。
オレが修平をどう思っていようと、父親やリッチがオレよりも圧倒的な強さを持っている以上従うしかないんだ。
レベル差と強さは、どうあがいてもひっくり返せないものなのだ。
いや、逆に何故修平は自身の強さをひけらかさないのだろうか。
あの魔物は圧倒的に強者で、もしかしたらオレはともかく、生徒会長たちには犠牲者が出ていたかもしれない。
それなのに隠し続けているという事は、もしかしてオレが修平の戦力を測ろうとしていることがばれているのかも。
だとしたら、修平と二人きりになったのは悪手だったか。
オレがそんな事を考えて、修平の方を見た時、修平は俺のすぐ目の前に立っていた。
咄嗟に飛び退いて、「なんや、びっくりするやんか」とドキドキとうるさい心臓を押さえながら聞いた。
修平が俺の考えを知っているんじゃないかという疑惑が頭にあったから、殺されるんじゃないかと思ってしまった。
しかしそんな事もなく、腰に下げた剣も手にしている杖もオレに向けていない。
まるで何か深刻そうな話をしようとしているような真剣な顔をしている。
もしかして、本当にオレが探っていることを知っているのだろうか。
「アカガ、重要な話がある」と含みがある重々しい言い方をした。
「な、なんや。そんな話よりも、早く行こうや」
「そのことだ。聞いて欲しい話がある」
「そのことって、どういう事や?この先に何があるのか知っているんか?」
まさかこの先にいるオレが設置した奴らの事を知っているのか?
そう思っていたが、全く違った。
「俺はレベル1なんだ」
最初自分が聞いた言葉を理解できなかった。
何のレベルなんだと一瞬思ったが、レベルと言ったら自分のレベル以外ありえない。
そしてレベル1という言葉。
レベルが1なんていう事は本来あり得ない。
レベルは運動や勉強をすれば、勝手に上がるものだ。
もしかしたら聞き間違えたのではないか、1万と本当は言っていたとか。
「もう一回、言ってくれへんか?なんか聞き間違えたかもしれへん。レベル1とか聞こえたんやが……」
「聞き間違いじゃないよ。俺はレベル1なんだ。ステータスカードを見せてもいい。だからこれから先、ここを進むなら、俺はまったく役に立てない。アカガに頼ることになってしまう」
修平は懐からステータスカードを取り出して、オレに手渡してきた。
そこに書かれているレベルの数値は、まぎれもなく1だ。
ステータスカードは基本的に嘘を書けない。
だからここに書かれているなら、間違いないのだろう。
レベル1というのは、生まれたばかりの赤ちゃんのレベルだ。
大人になれば2桁は当たり前。
何をどうすれば、レベル1なんていうレベルになるんや。
本当に修平は面白い奴や。
レベル1であんな魔物や魔王の幹部と戦ってきたのか。
ああ、それにフリョ・リダもそうか。
リッチにはめられて戦わされることになったのに、レベル1でフリョ・リダを倒して見せたのだ。
そして自然とオレは腹の底から笑えて来た。
目の前にいる修平には悪いんやが、まったく笑いが止まらない。
自分が思い悩んでいたことすべてが、全部ひっくり返された。
もう笑うしかない。
オレはこれまで何をしていたのだろうか。
結局、それはいたって簡単な事だったのだ。
すっきりして、口から出た言葉は「あほくさ」という一言だった。




